尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

非拘束名簿式比例代表制なら-選挙制度を考える③

2017年11月19日 21時24分03秒 |  〃  (選挙)
 まあこれならいいかと思う選挙制度を書いて、この問題を終わりにしたい。選挙制度の問題は関心がない人も多いと思うが、「政治を考える材料」という意味では相当面白いテーマだと思う。世界には様々な選挙制度があり、それぞれに長所短所がある。それを調べて考える問題は、高校や大学での調査学習やディベートのテーマに向いているのではないか。

 ところで、そういう風に議論を進めるときに、前提として考えておくべきことがいくつかある。まず絶対条件として、「一票の価値」の平等がある。これは最高裁の判例が確立している。具体的に何倍を超えると違憲か、国会にどの程度の「努力」を求めるかなどでは異論があっても、選挙をするときに「一票の価値」が重要なファクターであることは議論の余地がない。都道府県を基礎にして小選挙区制度を実施すると、一票の価値が実現しにくい。全国規模で比例代表にすれば、(原則的には)「一票の価値」問題は生じない。これは「比例代表」を重視していくべき大きな理由になる。

 もう一つは「衆議院と参議院」の問題である。まあ「一院制」にしてもいいわけだが、現実的には改憲案を参議院で通すのは難しいだろう。だから、両方あるとして、同じ選挙制度にするか、違う選挙制度にするか。首相指名は衆院が優先するわけだから、例えば衆議院は完全な小選挙区参議院は衆院のチェックを目的として完全な比例代表制にするということも考えられる。しかし、そうなると衆議院で圧倒的な得票で指名された首相が、参議院ではいつも少数派になりかねない。

 もっとも、そのようなチェック機能が大事だとも言えるが、日本では数年前まで「決められない国会」問題で困っていた。どっちがいいのだろうか? いまのように衆参両院で与党が安定多数を持っていると、「決めすぎる国会」になってしまうかもしれない。国民が与えた議席なんだから、それでいいとも言えるけど、選挙では全ての問題を議論しているわけではない。選挙後に与党が提起して、世論調査では反対が多いような法案でも、国会であまり議論されずに成立するのでは困る。

 さらに「当選者の決め方」、あるいは「投票方法」の問題もある。世界には国民の識字率が低いために、政党のシンボルカラーを選ぶといった投票方法もある。でも、日本では明治以来ずっと有権者が候補者名を自書する投票が行われてきた。100年以上ずっと続いていて、国民はそのやり方になじんでいる。学校で学級委員を選ぶなんてときにもクラスメートの名前を書くことが多い。だから、政党が全部順位を決めておいて、有権者は政党だけ選べばいいという方法には違和感がある。

 参議院ではかつて「全国区」という制度があり、全国から50人を選ぶという超大選挙区になっていた。でも「残酷区」とか「銭酷区」などと言われて、問題が多かった。全国的にに知名度があるから、石原慎太郎や青島幸男が最初に立候補したのも全国区。「タレント候補」と言われた。1983年から、比例代表区に変更されたが、その時は政党が立候補の時点で順位を全部決めておく制度(拘束名簿式)だった。しかし、そうなると候補者が有権者以上に党本部を気にする。自民党の名簿で1位や2位になれば、落選する心配は皆無でずいぶん気持ちが楽な選挙になるのだから。

 そこで2001年から、「非拘束名簿式」に変更された。有権者は個人名または党名に投票でき、合算して党ごとの議席を比例で決める。候補者の順位は、個人名投票の多い順にするというやり方である。そうなると、大政党は党名投票が多く、個人名の得票が少なくても当選できることがある。大量得票できる有名候補がいれば、その恩恵を他候補が受けることにもなる。だけど比例で決めるから「一票の価値」は平等だし、個人名でも投票できる。他の制度よりも良い点が多い

 前に書いたように、現在の日本で比例代表のみの選挙制度にすると、過半数を一党で獲得する政党は永遠に出てこないと思う。自民党は多少の増減があるだろうが、人気が落ちても比較第一党になるだろうから、他党を連立に加えて保守政権がずっと続く可能性が高いと思う。それでも、小選挙区だと初めから勝敗が見えている選挙区が多くて、有権者の投票意欲をそぐのに対し、比例なら投票するだけの意味が必ずある(「死票」がない)という利点がある。有権者が投票した通りの結果になるんだから、一番納得できるのは間違いない。 

 ただ、比例代表だと基本的には無所属で立候補ができない。その問題をどうするか。僕は衆院選の制度を都道府県単位の非拘束式比例代表制に変え、無所属候補を「一人一党」として認めるというのではどうだろうかと思う。参議院は地域ブロック別で同じ制度で行う。これなら、衆参で大きく違う選挙結果になることが少なくなると思う。ベストじゃないけど、ベター。

 先に書いたように、選挙制度はベストの方法はなくて、どの制度にもいい点も悪い点もある。それを認めたうえで、日本では「一票の価値の平等」の観点から、比例代表制の方がいいと思う。(小選挙区にも、制度としての利点はあるけれど、一票の価値の観点から、どうやっても毎回裁判になるのを避けられない。)また、小選挙区の大きな問題として、「小選挙区を一家で独占する」という問題がある。まるで封建制度のように、親から子へ選挙区を「世襲」してしまう。安倍、麻生などは後10年ぐらいかもしれないけど、小泉進次郎なんか30代なんだから、あと数十年も当選し続けるかもしれない。横須賀近辺の若者が政治を目指すのは難しい。そういう意味でも「比例代表」の方がいいのかなと思う。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 並立制と併用制-選挙制度を... | トップ | ノミはすごい、ヒトデもすご... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
再選挙がいいと思います (さすらい日乗)
2017-11-21 09:56:46
もちろん、全部比例にするのが一番良いと思いますが、一応小選挙区も残すとして、一位でも一定の率以上(50%以上など)取れなかったときは、再選挙を上位2人でするのが、分かりやすく簡単で現行法も大して変えなくてできると思います。
再選挙は、首長選挙では実際にあるのですから。

まあ、自民党は変えないでしょうがね。
安倍の次になれば可能性はあると思いますが。
返信する
お説御もっとも (ogata)
2017-11-21 20:41:41
 僕も何度か書いているように、まったくそのように思っています。まあ、再選挙というより「決選投票」ですね。首長選挙の再選挙は、決戦じゃなくて誰が出てもいいし、候補も差し替えられるわけだから。

 日本で存在する決選投票は、国会の総理大臣指名選挙だけだと思います。それは国会議員が投票するからいいけど、自分でも書いていて心配になるのは、果たして有権者は(例えば一週間後の)決選投票に行きますかね。

 それこそ投票率が下がりそうな気もする。それに自治体職員の負担も大きく、合わせて税金の支出が増えてしまうことが、国民の理解を得られるかどうか。

 しかし、そういう問題をいくら解決しても、小選挙区である限り、都道府県の境を超えてもいいなら別だけど、一票の価値の平等が問題になり続けることですね。

 その意味で、どの党に有利か不利かなどに関係なく、比例代表を中心にする方がいいように思います。
返信する

コメントを投稿

 〃  (選挙)」カテゴリの最新記事