武侠ファンタジー映画で名高いキン・フー(胡金銓、1931~1997)の1979年作品「山中傳奇」が「4K デジタル修復・完全全長版」で公開されている。どうも192分は長すぎる気もしたが、素晴らしい映像美とファンタジーの世界に浸れる3時間だった。キン・フーはこれが初の正式公開らしい。東京国際映画祭が渋谷でやっていた時に特集が組まれて、有名な「侠女」(1970,1971)を見て、壮大なワイヤ・アクションに感じ入った。それ以後にも何作か見ている。

宣伝をコピーすると、「京劇の影響のもと、アクション映画を芸術の域にまで高め、中華圏としては初めてカンヌ国際映画祭での受賞を果たし、世界に知られることとなった伝説の監督・キン・フー。その彼が宋時代の古典「西山一窟鬼」に想を得て作り上げた、妖しと幻想の世界が交錯する美しい武侠ファンタジー劇」とある。もうこれに付け加える言葉を思いつかない。はっきり言えば、設定と展開は「お約束」である。訴えるべきテーマがあるわけではなく、その点で異界との交流を描く溝口健二「雨月物語」とは比較にならない。だからこそ今でも楽しめる。

もう一つ宣伝を引用すれば、「ウォン・カーウァイの『楽園の瑕』も、アン・リーの『グリーン・デスティニー』も、ホウ・シャオシェンの『黒衣の刺客』も、もしもこの人がいなければ作られることはなかっただろう。」特に「グリーン・デスティニー」は現代によみがえった典型的な武侠映画だった。その後世界的に大ヒットするカンフー映画と違い、あくまでもファンタジーである。「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」に近い。だけど、僕が似てると思うのは、同時代に作られていたイタリアの「マカロニウエスタン」だ。詩情と見世物性が同居している。
「楽園の瑕」はウォン・カーウァイの最高傑作ではない。でも何となく忘れがたい、魅力的な映画だった。例えばサム・ペキンパーで言えば「ケーブル・ホーグのバラード」みたいな感じで、マニアックな心を揺さぶる魅力というか。ホウ・シャオシェンの「黒衣の刺客」は完全にアート的に作られた武侠映画だったけれど、ワイヤ・アクションの壮絶さは比類ないものがあった。アクションのすごさとともに、武侠映画には日本の「股旅もの」に似たような味わいがある。
物語としてはどうってことない。経典を書写する役目の男をめぐって、美女が入り乱れる。しかし「お約束」により、その女性たちはどういう素性のものか、大体想像できるわけである。アクションもあるが、この映画は経典をめぐるファンタジー色が強い。インドから伝わった経典そのものに呪術的な力があるというのは、日本でも「牡丹灯籠」に見られる。「日本霊異記」にも出てきた(と思う)。そういう民間信仰をベースにしている。女優として最近は映画監督として活躍しているシルヴィア・チャンが出ている。主役の書写する役は、いつもキン・フー映画に出ていたシー・チュン。
それより驚いたのは映画に「伽耶山海印寺」が出てくること。すごく美しい山や川、海がロケされていて、どこだろうと思った。やはりこれは韓国の有名な海印寺(ヘインサ)で撮影されていた。画像検索して出てくるのが、映画と同じである。慶尚南道にある新羅時代創建の寺で、世界遺産に指定されている大蔵経板殿で有名なところ。高麗八萬大蔵経の版木を保存する場所である。韓国の山の寺と言えば、イム・グォンテク「曼陀羅」、キム・ギドク「春夏秋冬そして春」などが思い浮かぶが、自然描写の美しさで圧倒されたものだ。新宿のケイズ・シネマで10時からモーニングショー。
(海印寺)

宣伝をコピーすると、「京劇の影響のもと、アクション映画を芸術の域にまで高め、中華圏としては初めてカンヌ国際映画祭での受賞を果たし、世界に知られることとなった伝説の監督・キン・フー。その彼が宋時代の古典「西山一窟鬼」に想を得て作り上げた、妖しと幻想の世界が交錯する美しい武侠ファンタジー劇」とある。もうこれに付け加える言葉を思いつかない。はっきり言えば、設定と展開は「お約束」である。訴えるべきテーマがあるわけではなく、その点で異界との交流を描く溝口健二「雨月物語」とは比較にならない。だからこそ今でも楽しめる。

もう一つ宣伝を引用すれば、「ウォン・カーウァイの『楽園の瑕』も、アン・リーの『グリーン・デスティニー』も、ホウ・シャオシェンの『黒衣の刺客』も、もしもこの人がいなければ作られることはなかっただろう。」特に「グリーン・デスティニー」は現代によみがえった典型的な武侠映画だった。その後世界的に大ヒットするカンフー映画と違い、あくまでもファンタジーである。「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」に近い。だけど、僕が似てると思うのは、同時代に作られていたイタリアの「マカロニウエスタン」だ。詩情と見世物性が同居している。
「楽園の瑕」はウォン・カーウァイの最高傑作ではない。でも何となく忘れがたい、魅力的な映画だった。例えばサム・ペキンパーで言えば「ケーブル・ホーグのバラード」みたいな感じで、マニアックな心を揺さぶる魅力というか。ホウ・シャオシェンの「黒衣の刺客」は完全にアート的に作られた武侠映画だったけれど、ワイヤ・アクションの壮絶さは比類ないものがあった。アクションのすごさとともに、武侠映画には日本の「股旅もの」に似たような味わいがある。
物語としてはどうってことない。経典を書写する役目の男をめぐって、美女が入り乱れる。しかし「お約束」により、その女性たちはどういう素性のものか、大体想像できるわけである。アクションもあるが、この映画は経典をめぐるファンタジー色が強い。インドから伝わった経典そのものに呪術的な力があるというのは、日本でも「牡丹灯籠」に見られる。「日本霊異記」にも出てきた(と思う)。そういう民間信仰をベースにしている。女優として最近は映画監督として活躍しているシルヴィア・チャンが出ている。主役の書写する役は、いつもキン・フー映画に出ていたシー・チュン。
それより驚いたのは映画に「伽耶山海印寺」が出てくること。すごく美しい山や川、海がロケされていて、どこだろうと思った。やはりこれは韓国の有名な海印寺(ヘインサ)で撮影されていた。画像検索して出てくるのが、映画と同じである。慶尚南道にある新羅時代創建の寺で、世界遺産に指定されている大蔵経板殿で有名なところ。高麗八萬大蔵経の版木を保存する場所である。韓国の山の寺と言えば、イム・グォンテク「曼陀羅」、キム・ギドク「春夏秋冬そして春」などが思い浮かぶが、自然描写の美しさで圧倒されたものだ。新宿のケイズ・シネマで10時からモーニングショー。

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