スウェーデンの作家、ヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダー警部8作目の「ファイア・ウォール」上下(原著1998、邦訳2012、創元推理文庫)。
最近ミステリーを続けて読んで、ここでも書いてるけど、この上下2冊本の大作は去年出たミステリーの中でもとても読みごたえがある本だと思う。この作者はずっと読んでいて、長い本が多い。日本での翻訳は刊行後10年以上たってから始まったので、当初はソ連時代のラトビアとかアパルトヘイト時代の南アフリカとか、時代が少しずれてしまった社会派ミステリーの感じがあった。でも、5作目の初の上下2冊本「目くらましの道」(1995)が大傑作で、これで「化けた」感じがある。以後はすべて傑作ばかり。「目くらましの道」は日本でも少し遅れて起こったある事件を思い起こさせるような小説で、非常に同時代性を感じる小説だった。その後の「五番目の女」「背後の足音」も社会的な意味合いを持つ重厚なミステリーで、感じるところが多かった。今回も同じようにすごい小説なんだけど、描写に今までの小説の筋書きが出てくるので、未読の読者は「目くらましの道」あたりから読むのがいいと思う。(もちろんこだわりがある人は、最初の「殺人者の顔」から時系列にそって読むのが一番いい。)
今回は、少女の二人組がタクシー運転手を殺すという衝撃的な事件。その犯人はすぐつかまるが、その日銀行のATMの前で死んでいた男が、自然死なのかどうか。この二つの事件は全く無関係のはずが、そのうち不可思議な関係が見えてくる。鍵を握るのは、男の仕事場にあるコンピュータ。その鉄壁の防御を突破するために、警察は地元のハッカーの少年を呼んでくる。インターネットを通して世界はつながってしまった。そのことの意味は何なのか。日本でそういう話が出てくるのは21世紀になってからで、警察の対応は遠隔操作事件などを見ていると、今も時代に追いついているとは言えないような気がする。そこがスウェーデンがすごいのか、作者が先読みしているのか、20世紀の段階で「ネット社会の危うさ」「情報化社会のもろさ」みたいなアイディアで壮大なミステリーが書かれている。日本では、原発事故以後の今こそリアルな危険性を感じられる設定ではないかと思った。ただミステリー的には、解決されてない問題点がいっぱいあるのが少し気になる。関係者がみんな死んでしまう設定なので、未解明が残る方がリアルなんだけど。でもなんでああなったのかなあ、最後に説明されるかなあと思ってると、結局判らなかったなんて小説の中に書いてある。
この小説で書かれているのは、世界を変えるにはどうしたらいいかという話である。ある青年はアンゴラの世界銀行に勤めて、貧しい国への支援を模索したが、かえって現実を悪くしているだけの世界銀行を見て、何度も何度も内部からの意見書を書く。その結果、変人とされ組織を通して世界を変えることができなくなる。そこで考えたのが、テロである。それは飛行機で巨大ビルに突入するというものではなく、ネットを通して世界経済に影響を与えるというものだったようだ。そういうことがスウェーデンの田舎町でもできるのか。しかし、ただの警官であるクルト・ヴァランダーは目の前の捜査を一つずつするしかない。
毎回思うことだが、これがスウェーデン警察の通常の捜査体制だとするなら、改善の必要性が多い。日本の警察がいいわけではないが、もう少し組織的に捜査しているのは間違いない。こんな個人プレーばかりではないだろう。クルトの孤独も極まり、ある行動にでるがそれが大変なことになる。この小説は「このミス」5位に選出されている。北欧からは他にもアイスランドやデンマークの小説もベスト20に入っていて、北欧ミステリーは今注目株。ヴァランダー・シリーズも残りあと2冊。ただノンシリーズの2冊を先に訳すと後書きにあるので、今の一年一冊の刊行ペースだと、あと4年は楽しめることになる。
最近ミステリーを続けて読んで、ここでも書いてるけど、この上下2冊本の大作は去年出たミステリーの中でもとても読みごたえがある本だと思う。この作者はずっと読んでいて、長い本が多い。日本での翻訳は刊行後10年以上たってから始まったので、当初はソ連時代のラトビアとかアパルトヘイト時代の南アフリカとか、時代が少しずれてしまった社会派ミステリーの感じがあった。でも、5作目の初の上下2冊本「目くらましの道」(1995)が大傑作で、これで「化けた」感じがある。以後はすべて傑作ばかり。「目くらましの道」は日本でも少し遅れて起こったある事件を思い起こさせるような小説で、非常に同時代性を感じる小説だった。その後の「五番目の女」「背後の足音」も社会的な意味合いを持つ重厚なミステリーで、感じるところが多かった。今回も同じようにすごい小説なんだけど、描写に今までの小説の筋書きが出てくるので、未読の読者は「目くらましの道」あたりから読むのがいいと思う。(もちろんこだわりがある人は、最初の「殺人者の顔」から時系列にそって読むのが一番いい。)
今回は、少女の二人組がタクシー運転手を殺すという衝撃的な事件。その犯人はすぐつかまるが、その日銀行のATMの前で死んでいた男が、自然死なのかどうか。この二つの事件は全く無関係のはずが、そのうち不可思議な関係が見えてくる。鍵を握るのは、男の仕事場にあるコンピュータ。その鉄壁の防御を突破するために、警察は地元のハッカーの少年を呼んでくる。インターネットを通して世界はつながってしまった。そのことの意味は何なのか。日本でそういう話が出てくるのは21世紀になってからで、警察の対応は遠隔操作事件などを見ていると、今も時代に追いついているとは言えないような気がする。そこがスウェーデンがすごいのか、作者が先読みしているのか、20世紀の段階で「ネット社会の危うさ」「情報化社会のもろさ」みたいなアイディアで壮大なミステリーが書かれている。日本では、原発事故以後の今こそリアルな危険性を感じられる設定ではないかと思った。ただミステリー的には、解決されてない問題点がいっぱいあるのが少し気になる。関係者がみんな死んでしまう設定なので、未解明が残る方がリアルなんだけど。でもなんでああなったのかなあ、最後に説明されるかなあと思ってると、結局判らなかったなんて小説の中に書いてある。
この小説で書かれているのは、世界を変えるにはどうしたらいいかという話である。ある青年はアンゴラの世界銀行に勤めて、貧しい国への支援を模索したが、かえって現実を悪くしているだけの世界銀行を見て、何度も何度も内部からの意見書を書く。その結果、変人とされ組織を通して世界を変えることができなくなる。そこで考えたのが、テロである。それは飛行機で巨大ビルに突入するというものではなく、ネットを通して世界経済に影響を与えるというものだったようだ。そういうことがスウェーデンの田舎町でもできるのか。しかし、ただの警官であるクルト・ヴァランダーは目の前の捜査を一つずつするしかない。
毎回思うことだが、これがスウェーデン警察の通常の捜査体制だとするなら、改善の必要性が多い。日本の警察がいいわけではないが、もう少し組織的に捜査しているのは間違いない。こんな個人プレーばかりではないだろう。クルトの孤独も極まり、ある行動にでるがそれが大変なことになる。この小説は「このミス」5位に選出されている。北欧からは他にもアイスランドやデンマークの小説もベスト20に入っていて、北欧ミステリーは今注目株。ヴァランダー・シリーズも残りあと2冊。ただノンシリーズの2冊を先に訳すと後書きにあるので、今の一年一冊の刊行ペースだと、あと4年は楽しめることになる。
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