尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

『詩人/人間の悲劇』ー金子光晴を読む③

2023年08月28日 22時22分32秒 | 本 (日本文学)
 夏に読んだミステリー、『卒業生には向かない真実』『リボルバー・リリー』が長すぎて、なかなか他の本が読めない。前に2回書いた金子光晴はまだ断続的に読んでいて、僕の持ってる未読の文庫本は後2冊なので頑張って読み切りたいと思っている。と思ってたら、8月のちくま文庫新刊で『詩人/人間の悲劇』(1200円+税)が出た。400ページもあって、エンタメ本じゃないからなかなか進まない。『詩人』は前に「ちくま日本文学」版で部分的に読んだことがあって、ものすごく面白かった。成り行きで読んだが、特に後半の長編詩集『人間の悲劇』は全然判らない。でも、まあ凄いということは伝わってくる。

 金子光晴をずっと読んでみると、「自伝」「回想」は素晴らしく面白いのに、評論的な文章は実につまらないのが特徴だと思う。幼年時代に養子に出され、性への早熟な関心が芽生える。放蕩から文学への開眼、養父が死んで遺産で第1回訪欧。戻ると関東大震災、森三千代と交際、結婚。その後、最初に書いた『どくろ杯』『ねむれ巴里』『西ひがし』のアジア、ヨーロッパ大放浪が始まる。この破格の人生行路をあけすけに語って読む者を魅了する。

 この間、1923年に詩集『こがね蟲』を発表し、フランス象徴派の影響を日本の詩として結実させた若手詩人として認知された。しかし、刊行直後に関東大震災が起きたのは不運だった。その後一時関西へ行き、さらに世界大放浪をして詩壇から忘れられたとこの本には出ている。いっぱい詩人の名前が出て来るが、出て来る詩人にはよく知らない人が多い。ネットで調べながら読むが、若くして死んだ人が多い時代だった。金子光晴も幼い頃は病弱だったというが、その後貧困を生き抜いて戦争を迎えた。

 この本で一番凄いのは、やはり戦時中の記録だろう。一切戦争に協力せず、独自の反戦詩を書いていた。象徴性が高くて、当時の検閲官の目を逃れて戦時中に発表できたものもあった。そのことも凄いのだが、それとともに息子の乾をいかにして戦場に送らずに済ませるかの記述が驚き。あからさまな「徴兵忌避」なんだけど、子どもも病弱のため一度軍に連れて行かれたら戻って来れないと信じていた。もちろん日本の戦争は不義であると認識していたこともある。こういう人がいたんだと知ることは大事だ。
(『ちくま日本文学』)
 じゃあ、その金子光晴はどんな詩を書いていたのか。岩波文庫に『金子光晴詩集』があるが、現在品切れ中。「ちくま日本文学」の金子光晴の巻に代表作が入っているので、まずはそれを読んでみるべきだろう。はっきり言って僕にはよく判らない。でも『人間の悲劇』という10の長編詩が集まった詩集を読むと、やっぱり凄いなあと思った。
答辞に代へて奴隷根性の唄
 奴隷といふものには、/ちょいと気のしれない心理がある。
 じぶんはたえず空腹でいて/主人の豪華な献立のじまんをする。

 と始まる長い詩などは、実に鋭くテーマが伝わってくる。読むのが大変で内容も呑み込みにくいものが多いが、一度読んでおくべきかと思う。こういう表現があったのかと目を開かせられる。「時代の批判者として生きる」スタイルにもいろんなやり方がある。
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