尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ブンミおじさんの森

2011年04月05日 23時00分41秒 |  〃  (新作外国映画)
 年金の手続きとか、学校に残した仕事とかの後で、渋谷に出て「ブンミおじさんの森」を見る。

 去年のカンヌ映画祭パルムドール(黄金の椰子賞=最高賞)受賞作。
 初めてタイ映画の受賞である。アピチャッポン・ウィーラセータクン監督。僕は監督の名前がそらで言える数少ない日本人の一人である。彼の映画は初めてではない。しかし、今までに見た映画はよくわからなかった。

 これは傑作だった。今までに見たことのないような映像。
 イサーン(東北タイ)の森に生きる人々の、アニミズム的な世界観をあまりにも美しい映像で描いた。そこでは、死者が生者と共生し、動物の精霊が人間と相互に交流する。森の深い漆黒の中で、人は霊とともに生きているのである。
 
 ヨーロッパの映画なら、カール・ドライヤーの大傑作「奇跡」で人はよみがえり、フランソワ・オゾンの「まぼろし」では妻が死んだ夫を見る。しかし、どうもタイの、あるいはモンスーンアジアの多神教的な感覚は微妙に違う感じがした。どっちかというと、「平成狸合戦ぽんぽこ」とか「崖の上のポニョ」。(ただし、コメディ的要素は全くないが。)

 それより、「遠野物語」の世界だ。言葉ならいろいろ書けるが、生の舞台では演じにくい。(井上ひさしの「頭痛肩こり樋口一葉」の新橋耐子の演技は近いかも。)そういう部分を、この映画は最新の映像技術を駆使して、不思議な世界を作り上げている。

 いや、テンポは超スローなので、タルコフスキー映画のように自然に睡魔に襲われるであろうが、それも含めて、紛れもなく新しい映像体験である。
 
 いわゆる映画ファンというより、民族学、宗教学、神話学、あるいは東南アジア文化論などに関心がある人が見る映画かもしれない。それでも、まさに今見るべき映画だと思った。
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1 コメント

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Unknown (mogi)
2011-04-07 03:47:09
アピチャッポン監督「トロピカル・マラディ」を見たのですが、ウーン、という感じでした。
ブンミおじさん、期待してみようかな。

来週、東北、よろしくお願いします。
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