尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『BAD LANDS バッド・ランズ』、圧倒的に面白い犯罪映画

2023年10月14日 22時04分54秒 | 映画 (新作日本映画)
 映画『BAD LANDS バッド・ランズ』は最近の日本映画で一番面白かった。一応興収ベストテンに2週連続でランクインしたが、下位の方だから知らない人もいるだろう。外国映画みたいな題名だが、これは原田眞人監督・脚本・製作の日本映画である。というか直木賞作家黒川博行の『勁草』(2015)を原作にした「コテコテ関西映画」というべきか。殺人シーンも多い犯罪映画で、特に「特殊詐欺」を扱うから、面白く見られない人もいるかもしれない。だが、勢いある演出で全編を疾走する感覚にしびれる。主演の安藤サクラも最高。こういう映画が僕は大好きなのである。

 ストーリー展開を書くわけにいかない映画だが、最初は大阪を根城にした「特殊詐欺」グループに属する橋岡煉梨(ねり=安藤サクラ)の話である。「三塁コーチ」と呼ばれていて、その意味は「受け子」が金を受け取る場面に秘かに付き添い、監視の影を感じたら中止の指令を出す役目。突っ込むか、止まるかの指示を出すという意味だ。「ねり」は元は大阪の貧困地区出身だが、抜け出して東京にいたらしい。しかし、ワケありで戻ってきて犯罪グループの手下として身を隠している。だが、彼女を捜し回る謎の男も出てくる。「ねり」はすでに親がいないが、血のつながらない弟、矢代穣(矢代・ジョー=山田涼介)がいる。
(安藤サクラと山田涼介)
 「特殊詐欺」、つまり「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」などと言われる犯罪は一向に減る兆しがない。「分断」が進む社会の中で、「犯罪に使われる側」になった人々がこの映画にはたくさん登場する。そして、それをいかに束ねて「組織化」するか、その裏にある真の黒幕は誰か。それを捜査する警察側も描きながら、その仕組みを暴き出してゆく。黒川博行といえば、関西弁とともに、代表作「疫病神」シリーズ(直木賞受賞の『破門』など)に見られる「バディ」(相棒)小説の名手だ。原作でも本来「ねり」は男だったというが、原田眞人が原作者に断って「性転換」したという。その結果、「血のつながらない姉と弟」というドラマティックな設定が生まれた。弟のジョーが登場して、映画は全く転調してしまう。
(「特殊詐欺」の面々)
 博奕好きで、考えずに突き進むジョーの登場で、思わぬ殺人、思いがけぬ大金と話はどんどん転がっていって、どうなるかと思う。そこに隠された愛のテーマが浮かび上がり、悲劇の色が濃くなる。そこら辺は書かないけど、面構えの素晴らしい役者を揃えて、その中に天童よしみも出てくるが良くなじんでいる。時々壊れてしまう「曼荼羅」役の宇崎竜童も素晴らしい。裏社会で博奕などを仕切っている林田役のサリngROCK(サリングロック)も見事。関西を中心に活動する劇団「突劇金魚」の作家・演出家・舞台女優だというが、全く知らなかった。そしてもちろん、安藤サクラが素晴らしい。『怪物』『ある男』などシリアス系だと、やはりマジメになるけれど、こういう犯罪映画での存在感は見事としか言いようがない。訳あって片耳が不自由という役である。

 原田眞人(1949~)監督は、若い頃に「キネマ旬報」を熱心に読んでいると、読者の映画評によく登場していた。アメリカで映画修行をして、帰国後に映画監督としてデビューした。近年は『日本のいちばん長い日』『関ヶ原』『検察側の罪人』『燃えよ剣』など大作スター映画を任せられているが、それらは概して中途半端な出来。むしろ得意なのは犯罪映画だろう。井上靖の母を描く『わが母の記』という名作を除くと、『KAMIKAZE TAXI』(1995)や『バウンス ko GALS』(1997)などアイディア勝負の小悪党映画が面白い。この映画はその頃を思わせる疾走感で、僕は大いに満足した。無理に勧められないタイプの映画だが。
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