ウクライナ情勢が緊迫している。アメリカの情報によれば、16日にもロシアが侵攻を開始する可能性があるとか。イラクの大量破壊兵器に関して大誤報を冒した米国情報機関がどれほど信用できるのか、僕には疑問がある。現在北京冬季五輪が開催中だから、いま戦争を起こすなら、中国の顔をつぶすことになる。国連安保理常任理事国の中で、唯一ロシアを支持するのが中国なんだから、本当に侵攻するのだろうか。しかし、2008年の北京夏季五輪開催中にロシアとジョージアの軍事的衝突が起きた。2014年のソチ五輪後にはクリミア併合を実行した。ロシアにとって、五輪は「隠れ蓑」として利用できるいうのがホンネなのかもしれない。
先に「「ウクライナ危機」、ロシア軍の侵攻はありうるか」(2022.1.13)を書いた。その後、米欧各国の外交調停がいろいろ行われた。何とかまとまることを期待したが、今のところ功を奏していない。それどころか、ロシアはベラルーシと合同軍事演習を行っている。ロシア海軍を黒海にも展開させていて、「三方から侵攻出来る態勢を整えた」と言われている。(下記地図を参照。)実際の侵攻の有無に関わらず、現在のロシア軍の展開は国連憲章違反の脅迫的行動である。
(三方から包囲されるウクライナ)
「国際連合憲章」では加盟国の安全保障に関して、以下のように定めている。
1.この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
2.すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない。
3.すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない。
4.すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。(以下略)
誰がどう見てもロシアの行動はこの規定に抵触する。しかし、ロシアが常任理事国であって「拒否権」を持っているから、国連安保理は全く機能していない。今までも米国の露骨な軍事行動を国連は止められなかった。同じようにロシアの軍事行動にも国連は無力なのか。それを見れば、中国も「国連無視」を学ぶに違いない。一体、どうしてこんなことになってしまったのか。
このウクライナ情勢に関しては、いろいろな疑問がある。まずロシアの侵攻を止めるための反戦運動がほとんどないこと。小さな行動はあるようだが、大規模なデモなどが起こっていない。そこが2003年のイラク戦争との大きな違いである。それはやはり新型コロナウイルスのパンデミックという現状が大きいだろう。また日本ではやはりウクライナ問題は遠いということもあるだろう。寒い冬だし、コロナ禍でもある。外出もままならない。
デモも集会もないまま、国連も機能せず、世界は有力リーダーの調停に期待をつなぐしかなくなっている。しかし、ドイツのショルツ新首相にはまだ外交的業績がない。フランスのマクロン大統領が存在感を高めている感じだが、大統領選絡みの思惑もあるだろう。マクロン訪ロ時のプーチンとの会談では、大きなテーブルに離れて座った写真が現状を象徴している感じがした。これはロシアのPCR検査を受けないということで、ソーシャル・ディスタンスを取ったらしい。(マクロンもショルツもロシアのPCR検査を受けなかったが、それは遺伝子情報をロシアに与えないためと言われている。)
(プーチン・マクロン会談)
結局マクロン訪ロは成功したのかどうか、今ひとつはっきりしない。ベラルーシからは演習終了後ロシア軍を引き揚げると言ったという情報もあるが、それは確約ではないとも言う。アメリカは周辺諸国への派兵、軍事援助を増やしている。どうもアメリカの行動もよく判らない。ロシアに対してはどう出るべきなのか。63年のキューバ危機などの経験から、妥協しなければ折れてくる、弱腰を見せればどんどん攻めてくる、強く出る方が良いという教訓を得ているのかもしれない。しかし、今はソ連時代ではない。プーチンといえど、普通選挙を経て選ばれている。あまり弱腰を見せられない「文化」の中にいるとも考えられる。
双方戦争を始めるつもりはなかったものの、振り上げた拳を下ろせないまま追い込まれるように戦闘が始まってしまったという戦争は歴史には多いだろう。現状をロシア側から見ると、アメリカなどがウクライナや東欧諸国に軍事的援助を強化しているニュースばかり見て、被害者意識が強いようだ。ロシアの世論調査では「ソ連崩壊は大惨事だった」という認識が強くなっているという。下記地図で判るように、ソ連時代は自国の勢力圏だった東欧諸国はほぼNATOに加盟してしまった。旧ソ連のバルト三国まで加盟している。バルト三国はもともと独立国で、ソ連が第二次大戦時に侵略したわけだが、そういう認識はほとんどのロシア人にはないという。それに加えて、スラブ系であるウクライナまでNATOに加盟する意向を持っている。ロシアに向かって攻めて来ているのはNATOの方だというのがロシア人の世界認識だろう。
(ウクライナ周辺国とNATO加盟国)
ロシアのマスコミでは政権側の報道統制もあって、自国の暗黒面は報じられない。ロシアは現時点では五輪に「ROC」(ロシア・オリンピック委員会)としか出られないが、過去の悪質な国家的ドーピング隠しもロシア国内では報じられていないという。ロシア国内では言論の自由、報道の自由がどんどん奪われていて、野党指導者ナワリヌイ氏は収監されたまま「テロリスト」認定を受けてしまった。昨年末にはスターリン時代の大粛清を記憶するために活動してきた人権団体「メモリアル」に解散命令が出される事態にまで至った。そんな状況の中で、ロシア国内で戦争はおかしいという声は挙げにくいと推測できる。しかし、双方で角突き合っている状態が良いとは思えない。
ウクライナには自国の方針を自国で決める権利がある。だからといって、かつてソ連を相手国として結成されたNATOにバルト三国を除く旧ソ連形成国を加えるのは、僕には挑発が過ぎるという気もする。ロシア軍が東部地域とクリミア半島から撤退すれば、NATOに当面加盟しないで良いと思う。しかし、ロシアはクリミアから撤退はしない。そこで妥協が出来なくなるわけだが、あくまでも外交交渉を続けるという確認がまず必要だ。実際にウクライナ侵攻ということになれば、ウクライナはもちろん、ロシアも世界全体もあまりにも大きな傷を負う。ウクライナでは多数の死者が出るのは避けられないし、ロシア軍でも多くの若者が犠牲になる。悲劇を防ぐために世界中で声を挙げないといけない。
先に「「ウクライナ危機」、ロシア軍の侵攻はありうるか」(2022.1.13)を書いた。その後、米欧各国の外交調停がいろいろ行われた。何とかまとまることを期待したが、今のところ功を奏していない。それどころか、ロシアはベラルーシと合同軍事演習を行っている。ロシア海軍を黒海にも展開させていて、「三方から侵攻出来る態勢を整えた」と言われている。(下記地図を参照。)実際の侵攻の有無に関わらず、現在のロシア軍の展開は国連憲章違反の脅迫的行動である。
(三方から包囲されるウクライナ)
「国際連合憲章」では加盟国の安全保障に関して、以下のように定めている。
1.この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
2.すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない。
3.すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない。
4.すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。(以下略)
誰がどう見てもロシアの行動はこの規定に抵触する。しかし、ロシアが常任理事国であって「拒否権」を持っているから、国連安保理は全く機能していない。今までも米国の露骨な軍事行動を国連は止められなかった。同じようにロシアの軍事行動にも国連は無力なのか。それを見れば、中国も「国連無視」を学ぶに違いない。一体、どうしてこんなことになってしまったのか。
このウクライナ情勢に関しては、いろいろな疑問がある。まずロシアの侵攻を止めるための反戦運動がほとんどないこと。小さな行動はあるようだが、大規模なデモなどが起こっていない。そこが2003年のイラク戦争との大きな違いである。それはやはり新型コロナウイルスのパンデミックという現状が大きいだろう。また日本ではやはりウクライナ問題は遠いということもあるだろう。寒い冬だし、コロナ禍でもある。外出もままならない。
デモも集会もないまま、国連も機能せず、世界は有力リーダーの調停に期待をつなぐしかなくなっている。しかし、ドイツのショルツ新首相にはまだ外交的業績がない。フランスのマクロン大統領が存在感を高めている感じだが、大統領選絡みの思惑もあるだろう。マクロン訪ロ時のプーチンとの会談では、大きなテーブルに離れて座った写真が現状を象徴している感じがした。これはロシアのPCR検査を受けないということで、ソーシャル・ディスタンスを取ったらしい。(マクロンもショルツもロシアのPCR検査を受けなかったが、それは遺伝子情報をロシアに与えないためと言われている。)
(プーチン・マクロン会談)
結局マクロン訪ロは成功したのかどうか、今ひとつはっきりしない。ベラルーシからは演習終了後ロシア軍を引き揚げると言ったという情報もあるが、それは確約ではないとも言う。アメリカは周辺諸国への派兵、軍事援助を増やしている。どうもアメリカの行動もよく判らない。ロシアに対してはどう出るべきなのか。63年のキューバ危機などの経験から、妥協しなければ折れてくる、弱腰を見せればどんどん攻めてくる、強く出る方が良いという教訓を得ているのかもしれない。しかし、今はソ連時代ではない。プーチンといえど、普通選挙を経て選ばれている。あまり弱腰を見せられない「文化」の中にいるとも考えられる。
双方戦争を始めるつもりはなかったものの、振り上げた拳を下ろせないまま追い込まれるように戦闘が始まってしまったという戦争は歴史には多いだろう。現状をロシア側から見ると、アメリカなどがウクライナや東欧諸国に軍事的援助を強化しているニュースばかり見て、被害者意識が強いようだ。ロシアの世論調査では「ソ連崩壊は大惨事だった」という認識が強くなっているという。下記地図で判るように、ソ連時代は自国の勢力圏だった東欧諸国はほぼNATOに加盟してしまった。旧ソ連のバルト三国まで加盟している。バルト三国はもともと独立国で、ソ連が第二次大戦時に侵略したわけだが、そういう認識はほとんどのロシア人にはないという。それに加えて、スラブ系であるウクライナまでNATOに加盟する意向を持っている。ロシアに向かって攻めて来ているのはNATOの方だというのがロシア人の世界認識だろう。
(ウクライナ周辺国とNATO加盟国)
ロシアのマスコミでは政権側の報道統制もあって、自国の暗黒面は報じられない。ロシアは現時点では五輪に「ROC」(ロシア・オリンピック委員会)としか出られないが、過去の悪質な国家的ドーピング隠しもロシア国内では報じられていないという。ロシア国内では言論の自由、報道の自由がどんどん奪われていて、野党指導者ナワリヌイ氏は収監されたまま「テロリスト」認定を受けてしまった。昨年末にはスターリン時代の大粛清を記憶するために活動してきた人権団体「メモリアル」に解散命令が出される事態にまで至った。そんな状況の中で、ロシア国内で戦争はおかしいという声は挙げにくいと推測できる。しかし、双方で角突き合っている状態が良いとは思えない。
ウクライナには自国の方針を自国で決める権利がある。だからといって、かつてソ連を相手国として結成されたNATOにバルト三国を除く旧ソ連形成国を加えるのは、僕には挑発が過ぎるという気もする。ロシア軍が東部地域とクリミア半島から撤退すれば、NATOに当面加盟しないで良いと思う。しかし、ロシアはクリミアから撤退はしない。そこで妥協が出来なくなるわけだが、あくまでも外交交渉を続けるという確認がまず必要だ。実際にウクライナ侵攻ということになれば、ウクライナはもちろん、ロシアも世界全体もあまりにも大きな傷を負う。ウクライナでは多数の死者が出るのは避けられないし、ロシア軍でも多くの若者が犠牲になる。悲劇を防ぐために世界中で声を挙げないといけない。