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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「ペンタゴン・ペイパーズ 最高機密文書」

2018年04月13日 23時48分28秒 |  〃  (新作外国映画)
 映画「ペンタゴン・ペイパーズ 最高機密文書」(スティーヴン・スピルバーグ監督)を見たのは「BPM」より前なんだけど、やっぱり書いておこうかな。これは1971年にアメリカ政府と新聞との間に起こった報道をめぐる争いを描いた映画である。今年のアカデミー賞で作品賞、主演女優賞にノミネートされた。主演のメリル・ストリープにとっては、18回目のノミネート。(うち4回は助演、他は主演で、受賞は主演2回、助演1回。)確かにそれだけの力作に間違いない。

ペンタゴン・ペーパーズ」というのは、アメリカ国防総省(建物の形が五角形なので、「ペンタゴン」と通称される)がヴェトナム戦争に関して1971年にまとめた報告書のことである。それによると、アメリカが戦争を拡大させたきっかけのトンキン湾事件(1965)がアメリカの工作によるものだとか、1963年に南ヴェトナムのゴ・ジン・ジエム政権打倒のクーデタをアメリカが事前に知っていたことなど、さまざまな秘密情報が書かれていた。大統領は民主党、共和党を問わず、戦争がうまく行ってないことを知りながら、それを国民に隠して若者たちを戦場に送り続けていたのである。

 この文書は国家機密文書に指定されていたが、ニューヨーク・タイムズ、続いてワシントン・ポストが報じて大問題になった。この映画は後発のワシントン・ポストの内情を発行人(日本で言えば「社主」)のキャサリン・グラハム(1917~2001)に焦点を当てて描いている。ポストはちょうど株式を公開しようとしていた時期で、政府との大きな衝突は投資家に敬遠されるという危惧も強かった。またキャサリンは61年から68年まで国防長官を務めたロバート・マクナマラと家族ぐるみの交際を続ける関係だった。そんな中で、彼女はそのような選択をするのか。
 (キャサリン・グラハム)
 その様子をキャサリン役のメリル・ストリープが熱演している。とても見ごたえがあるけど、相方の編集主幹ベン・ブラッドリーをこれまたアカデミー賞主演男優賞2回受賞のトム・ハンクスがやってるわけで、二人の丁々発止が実に面白い。映画としてはそこが最大の見どころ。だけど、正直言えば全体としては「いかにも」の作りだ。いかにも、スピルバーグが監督して、メリル・ストリープとトム・ハンクスが主演したような映画で、見る前に想像した通りのデジャヴ(既視感)は否めない。

 スピルバーグはシナリオを読んで、今すぐ作るべき映画だと考えたという。その時は日本でも続けて公開される「レディ・プレイヤー1」製作中だった。しかし、かつて「ジュラシック・パーク」と「シンドラーのリスト」を並行して作った時のテクニックが役立ったという話。それはいいけど、やはり「あの頃は若かった」という感じはする。何年も待てないテーマというのは、明らかにトランプ政権を意識したものだろう。報道の価値を否定してはばからないような大統領に対して、「これが真のアメリカだ」というリベラル派の真骨頂である。

 映画はほとんどグラハム家と新聞上層部のドラマに絞られる。そこに焦点を当てて作っているから、最初に報道したニューヨークタイムズからすれば、自分たちの価値が貶められていると批判された。それはともかく、歴史的な展開を知ってる人には筋がわかる。(知らない人でも、ドラマトゥルギーの問題として展開が読める。)ほとんど新聞内部の話だから、カトリック教会のスキャンダルをスクープしたボストン・グローブ紙を描く「スポットライト」の深みには及ばない。2017年の映画なら、「スリー・ビルボード」や「シェイプ・オブ・ウォーター」の方が傑作だろう。

 だが、この映画では「報道の自由」は何よりも民主主義にとって大切なものだという確信が格調高く語られている。当たり前じゃないかと言いたいけど、残念ながらアメリカでも日本でも当たり前じゃなくなってしまった。だからラストの最高裁の判断を聞くと感動してしまう。ニクソン政権にあくまでも抵抗するというのは、トランプ政権には抵抗するという宣言でもある。だから、日本でも見る意味がある。いや、今生じている安倍政権の様子を見ると、見ないといけない映画である。

 ところで、この文書をリークしたのは、ダニエル・エルズバーグ(1931~)という人物だった。海兵隊に入り、その後国防総省でベトナム政策にも関わった。実際の戦争に関わった結果、反戦意識を強く持つようになったのである。そして報告書が闇に葬られることを座視できず、ニューヨークタイムズに持ち込んだ。スパイ防止法で起訴されたが、エルズバーグの精神科医からカルテを盗もうとした事件が発覚。それがウォーターゲート事件を起こしたグループだったので、政府側の不正ということで公訴棄却になった。(つまり裁判自体が不正として起訴が無効になった。)僕はこのペンタゴン・ペーパーズの事件をとてもよく覚えている。
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