山本政志監督の「水の声を聞く」という映画を見た。2014年のキネマ旬報ベストテンの9位に入っている。でも、公開規模も小さかったし、ベストテンに入るほどの映画だと思わず見逃した。その後も何カ所かで上映があったが時間が合わず、今回キネカ大森というところでようやく見られた。(金曜日までの上映で、水、金は10時50分、16時15分の2回。だが11日(木)に監督のトークもあって、時間が変更になり、13時25分、18時50分から。)非常に面白く、現代を映し出した佳作だったが、ほとんど知らないと思うので、紹介しておきたい。なお、今回は合間に長大な「祖谷物語」との2本立てで、こっちも見応えがあったが、169分もする。徳島の山奥で幻想的場面も含めて撮った劇映画で、蔦哲一郎監督は池田高校野球部のあの蔦監督の孫なのだという。
山本政志監督(1956~)は自主映画の中から出てきた人で、1987年の「ロビンソンの庭」で日本映画監督協会新人賞を受けた。1982年の「闇のカーニバル」で注目を集め、1990年の「てなもんやコネクション」は香港との合作だった。その頃は見たのもあるんだけど、その後南方熊楠の映画化を志して挫折。あまり映画も作れない時期が長く、ちょっと僕も忘れていた。2010年代になって「シネマ☆インパクト」という映画塾を主宰。そこで作った大根仁「恋の渦」がヒットして、その利益をつぎ込んでこの映画を作ったということである。
映画の紹介を引用すると、「東京・新宿のコリアンタウンで、軽くひと稼ぎをしようと巫女を始めた在日韓国人のミンジョン。水や緑からメッセージを聞きとるという彼女に救いを求める人々は後を絶たず、やがてその集まりはミンジョンを教祖と仰ぐ宗教団体「真教・神の水」となる。後戻りのできない状況になってしまい、救済を求めてくる信者たちに苦悩するミンジョンだったが、次第に偽物だった宗教にも心が宿り、ミンジョンは不安定な現代社会を救おうと大いなる祈りをささげはじめる。」
ということで、冒頭から「新興宗教」と「コリアンタウン」という物語である。ミンジョンはちょっとした気持ちで占いを始めて当たり、そこから「霊能力」がありそうだと見込まれて、「神の水」なる宗教の教組になってしまう。でも、友だちと会う時は普通の若い女性。カネに困って無心に来る父親を抱えて苦労が絶えない。そんなミンジョンに救いを求める人が集い、また教団に経営的成功を求める人々も集まる。そんな中で、ただの普通の人間だと思うミョンジンは教団が心苦しくなり…。一方、カネを返せずヤクザに追われる父親は殺されかけ、教団に隠れて住むようになってしまう。ミョンジンは失踪して、その間教団は「修行中」と取り繕って、他のメンバーを代理に立てる。ミョンジンは家族の過去を訪ねて、済州島から「4・3事件」を逃れて日本に来た歴史を知り、巫女だった祖母の宗教能力の高さを教えられる。そして、本気で世界を救う宗教にするんだとカリスマ性を高めて教団に戻ってきたミョンジンだったが…。
その後の成り行きは書かないが、インターネットを駆使して現代人の心の空白に食い込もうとする「宗教産業」とそれを支える人々。また、さまざまな苦悩を抱えて教団に救いを求める人々を通して、現代社会も描く。そういう構造を持ちながらも、結局はコリアンタウンに生き、ごく普通の在日韓国人女性だったミョンジンが、どんどん宗教性を本気にしていく。その様子がとても興味深い。ミョンジンを演じる玄里(ヒョンリ)は日英韓3カ国語に通じるという。セリフの中で、「(ミョンジンは)在日育ちには珍しく韓国語がしゃべれる」と言われているが、日韓両国語を自由に使い分けている。宗教的儀式が韓国語で行われることが「神の水」では重要であるらしく、多分日本人信者には神秘的な巫女性をそこに感じるということなんだと思う。素晴らしい存在感だし、注目すべき美人女優の誕生である。村上淳以外に知られた俳優は出ていないが、そこがかえってリアルな感じ。僕は結構面白く見たが、こういう風俗的ありながらもっと深いものを志向する映画が好きなのである。最後に、美空ひばりの「愛燦燦」が流れるのにあ然とするが、あっている。最後の最後に若松孝二への献辞が出てくる。
山本政志監督(1956~)は自主映画の中から出てきた人で、1987年の「ロビンソンの庭」で日本映画監督協会新人賞を受けた。1982年の「闇のカーニバル」で注目を集め、1990年の「てなもんやコネクション」は香港との合作だった。その頃は見たのもあるんだけど、その後南方熊楠の映画化を志して挫折。あまり映画も作れない時期が長く、ちょっと僕も忘れていた。2010年代になって「シネマ☆インパクト」という映画塾を主宰。そこで作った大根仁「恋の渦」がヒットして、その利益をつぎ込んでこの映画を作ったということである。
映画の紹介を引用すると、「東京・新宿のコリアンタウンで、軽くひと稼ぎをしようと巫女を始めた在日韓国人のミンジョン。水や緑からメッセージを聞きとるという彼女に救いを求める人々は後を絶たず、やがてその集まりはミンジョンを教祖と仰ぐ宗教団体「真教・神の水」となる。後戻りのできない状況になってしまい、救済を求めてくる信者たちに苦悩するミンジョンだったが、次第に偽物だった宗教にも心が宿り、ミンジョンは不安定な現代社会を救おうと大いなる祈りをささげはじめる。」
ということで、冒頭から「新興宗教」と「コリアンタウン」という物語である。ミンジョンはちょっとした気持ちで占いを始めて当たり、そこから「霊能力」がありそうだと見込まれて、「神の水」なる宗教の教組になってしまう。でも、友だちと会う時は普通の若い女性。カネに困って無心に来る父親を抱えて苦労が絶えない。そんなミンジョンに救いを求める人が集い、また教団に経営的成功を求める人々も集まる。そんな中で、ただの普通の人間だと思うミョンジンは教団が心苦しくなり…。一方、カネを返せずヤクザに追われる父親は殺されかけ、教団に隠れて住むようになってしまう。ミョンジンは失踪して、その間教団は「修行中」と取り繕って、他のメンバーを代理に立てる。ミョンジンは家族の過去を訪ねて、済州島から「4・3事件」を逃れて日本に来た歴史を知り、巫女だった祖母の宗教能力の高さを教えられる。そして、本気で世界を救う宗教にするんだとカリスマ性を高めて教団に戻ってきたミョンジンだったが…。
その後の成り行きは書かないが、インターネットを駆使して現代人の心の空白に食い込もうとする「宗教産業」とそれを支える人々。また、さまざまな苦悩を抱えて教団に救いを求める人々を通して、現代社会も描く。そういう構造を持ちながらも、結局はコリアンタウンに生き、ごく普通の在日韓国人女性だったミョンジンが、どんどん宗教性を本気にしていく。その様子がとても興味深い。ミョンジンを演じる玄里(ヒョンリ)は日英韓3カ国語に通じるという。セリフの中で、「(ミョンジンは)在日育ちには珍しく韓国語がしゃべれる」と言われているが、日韓両国語を自由に使い分けている。宗教的儀式が韓国語で行われることが「神の水」では重要であるらしく、多分日本人信者には神秘的な巫女性をそこに感じるということなんだと思う。素晴らしい存在感だし、注目すべき美人女優の誕生である。村上淳以外に知られた俳優は出ていないが、そこがかえってリアルな感じ。僕は結構面白く見たが、こういう風俗的ありながらもっと深いものを志向する映画が好きなのである。最後に、美空ひばりの「愛燦燦」が流れるのにあ然とするが、あっている。最後の最後に若松孝二への献辞が出てくる。