聖火リレー
~引き継がれるもの~
☆初めに☆
コロナがあって、福島が遠くなりました。
自粛期間の5月31日までは大変でした、いつも利用しているホテルのフロントさんが言いました。福島は感染防止対策が必要なほど、患者は出ませんでした。いわきもあくまで「自粛」だったのです。今や学生たちが大会などで宿泊する時に使ってくれますし、お店も普通に飲み物を出してますよ、と笑顔で言いました。ここのところ見かけなかった女性の方が、フロントにいました。出産と育休だったそうです。コロナから一年が経つのか、と改めて思います。
1 新入社員
「二回ワクチン打ったしさ、もう何も怖いものはないよ」
笑いながら言う、おばあちゃんはいつもこうだ。たくましく、かわいらしい。いなくなったと思ったら、ひまわりを植えてきたと、杖なんか突かずに庭を歩いている。卒寿をとうに過ぎている。
福島・楢葉の累計感染者の累計が「3人」? ちなみにわが柏って2900人に迫っている。なんだこれはと思っているそばで渡辺さんは、そのうちのひとりは県外から来てる現場の人間だ、楢葉に来ているのは3000人?だったか、そのうちのひとりだからな、すくねえよと言った。
福島が遠くなったのは、渡辺さんのところも同じだ。この一年は季節に一度のお邪魔となっている。いつもの空気を思い出すのに時間を要している。そして結局、変わらないここの時間の流れを見つける。ありがたい。
ハウスに大きく育ったトウモロコシ。
春の時も新入社員の話で盛り上がった。オレはもう社員に格落ちさ、息子が社長だよ、渡辺さんが笑う。相変わらず朝を苦手とする社員はナスが嫌いなんだという。だから(6月の)ボーナスはナス(なし)と、今度は奥さんが笑う。その社員が、リビングに遅れて登場。猫とじゃれてるところを、トラクターの運転技術のほどを聞いた。学校の授業を受けてくれば、オレより上手く使えるようになって帰ってくるさと、渡辺さんが前に言っていたのだ。渡辺さんが公道を走って、田畑に入る。それからが社員の仕事だ。特殊免許がなくても、そこでは運転が可能。
「いやあ、畑の中もお父さんの方が全然うまいっす」
社員の答えはすぐに却って来た。
2 聖火リレー
福島は聖火リレーをやった。お笑い芸人のしずちゃんは、いわきで走ったそうだ。走ることはなかったが、渡辺さんは沿道に駆け付けたそうだ。配られた小旗を、そこで振ったのだ。
小旗ではなく扇子、とタオルの応援グッズ。参加した人がみんなもらえるわけではない。
応援する人と人の間を1~2メートル空けるのはもちろんだが、よく聞けば、渡部さんの応援場所は「農業関係者」エリアだったという。なんだ、喜び勇んで行ったんじゃなく「動員」だったの?などと私はつい口走り、奥さんがまた笑う。でもこの日を、渡辺さんはどんな気持ちで迎えたのだろう、ちゃんと聞けばよかった。
3 バトン
ここの読者なら御存知と思う。「福島第二原発の廃炉作業始まる」は、この日のニュースだった。全部終わるまで40年だとよ、その頃なにやってんのかな、お父さんはもうこの世にいないね、広大な敷地が残るよ、そこで記念公園でも作ったらいいべ、あれこれとみんなで言い合う。ジジイになってそんなことやりたくねえ。
最後のセリフは社員のものだ。いま彼は20歳。廃炉40年後は「ジジイ」なのだ。聞けば、将来のための貯金も頭にある。それは「お父さんがいなくなったら、自分がやらないといけない」からなのだ。出産のため夜中に牛小屋に立ち会うこともあるが、朝が苦手な社員は「給料にぜいたくは言えない」と言う。でも、牛の競りが好調だった時に「お父さんはちゃんと考えてくれてる」んだと。仕事の上でも父親としても、息子さん(やっぱり「さん」付けでないといけないかと)は渡辺さんを尊敬している。渡部牧場のバトンの渡される手続きが、確かに始まっている。
こんな場面が現実となった。こうしてえさを用意する新入社員は、震災の10年前、小学校の4年生だった。
☆後記☆
この日は収穫した梅を砂糖漬けにしたエキスをいただきました。今はまだ涼しい夏となってますが、暑さにはもってこいの味です。気が付けば図々しく「もらって帰ろう」などと言ってる。
☆☆
先日たまたま私は車だったのですが、前を行くバイクがCB750、それも初代!ナナハンであることに気づきました。
これです。これはあくまで私のおもちゃのコレクション。
四本出しのさっそうとしたマフラー。交差点が赤になったので、たまらず私は車を降りて走り寄りました。若者でした。
「すごいね、初期型でしょ?」『あ? いや72年だったかな、少しあとだったかも知れません』「よく買ったね、なかなか出来ることじゃないよ!」『ありがとうございます。この間、買ったばかりなんですよ!』(信号、青になる)「気を付けてね!」『ありがとうございます!』
いいもの見ました。ナナハンはもちろん、若者も。
クソ面白くもないニュースばっかりの中、オオタニさーんが勇気と元気をくれます。白鵬と照ノ富士、そして藤井君も。