千の天使がバスケットボールする

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「海にきらめく珠玉のチャリティガラコンサートⅣ」

2006-07-22 23:32:55 | Classic
いつのまにか、ホームレスのパラダイスになってしまったが、上野の森は大好きな場所だ。久しぶりに雨にあらわれた森をぬけて向かう殿堂は、新築された東京藝術大学奏楽堂。旧奏楽堂は行ったことがあるが、さすがに国立大学。営利目的のホールに負けない外観とキャパシティに感心する。

演目は「海にきらめく珠玉のチャリティガラコンサートⅣ」という、日本声楽家協会及びNPO法人日本の音芸術を創る会が主催するオール歌のチャリティー・コンサート。
日頃、殆ど聴かない歌曲、しかも休憩をはさんで3時間かかるというプログラムに、寝不足気味の我が脳が心地よい子守唄として聴くのではないかと、少々心配する。
「寝るなよ、寝てもいびきだけはかくなよ」と、不肖な自分に言い聞かせる。
しかし、そんな懸念は全く不要だった。あっというまに過ぎた楽しい時間。考えてみれば楽器演奏というのは抽象的な表現で複雑だが、歌は人間の喜び、悲しみ、怒り、恋心・・・、誰にでもある感情や、裏切り、勝利、恋の成就などの場面を言葉にのせて率直に歌う表現行為である。勿論、一般的な歌と異なり、クラシックの本格的な歌曲を歌うのは大変難しいのだが、聴く側としては具体的で単純でわかりやすい。しかもピアノやヴァイオリンのように弾けるか弾けないかというレベルよりも、高いテクニック、類稀なる美声のプロからは離れているが、とりあえず歌うことはできるかもしれない素人との立場の違いによる垣根は低いかもしれない。

そしてチャリティ目的のコンサートだったために、まるで年末のNHK紅白歌合戦のように第一線でご活躍されている声楽家たちによる、オプラなどのハイライト、最も美味しい部分だけを抜粋したプログラム。私のように音楽的教養がなくても、原語の意味がわからなくても、充分に楽しめる。どの曲も、どの歌手も、それぞれに華やかで、ある時はドラマチックに、またある時は悲嘆にくれ、そして別世界に誘う素晴らしい声を聴かせてくれた。会場は熱気溢れる大盛況だったので、普段はまず選ばないかなり前の方の席に座っていたため、歌手の表情やカラダのサイズ、ドレスの素材まで鑑賞できるという、別のひそかな女性ならではのエレガントなお楽しみもあった。

そこで、音楽的な中身よりも番外編の感想を。

■イケ面で賞
出演者の中で、イケ面といえばM本M光さん。そのルックスのよさは、当演奏会の出演者の中でも群をぬき、ナンバーワンでもあり、オンリーワン。かろやかな容姿をうらぎるバリトン。その声もバリトンらしからぬかろやかさで、自由闊達な伸びやかさがある。「フィガロの結婚」の”もう訴訟に勝っただと”を歌うが、その持ち味が充分にいかされていて、うまいっ。第二の錦織健になれると思う。すでにデビューアルバム「おやすみ」をリリース。

■貫禄勝ちで賞
金色のマントのような衣装に身をつつみ、ステージに登場した時から貫禄たっぷりのオーラを放つ日本を代表するアルト歌手のI原N子さん。復讐のために伯爵の弟を誘拐し、火に投げ入れたのだが、灰になっていたのは我が子だったという過激「トロヴァトーレ」より、自分の母が火あぶりにされた光景を思い出しながら歌う”炎は燃えて”。その存在感とドラマチックなアルトは、娘と母という相対的な立場の女の情念を見事歌う。姿をあらわした時から、ジプシー女の娘アズチェーナになりきっている。さすがだ。

■長老の若いで賞
白髪のオペラ界重鎮ともいえるK・J氏が歌うのは、なんとゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』を原作にして、マスネが作曲した「ウェルテル」より”春風よ、何故に私を目覚めさせるのか”。若きウェルテルは、恋するいとこのシャルロットの結婚後、自殺を決意する。彼女の家で、詩集「オシアンの詩」にシャルロットへの溢れる想いをのせてせつせつと歌う。お人柄もよいと聞くとK氏の、青春の苦悩の若々しいはりのある声に、私も目覚めるかのようだった。感慨深い。

■ダイエットの効果ありで賞か?
最近かなり体重をしぼったという噂のあったN野Kさん。その姿に驚く。胴回りが一般人並になっているではないかっ。マリア・カラスが海運王オナシスのために、過激なダイエットをしたのは有名な話だが、N野さんの声はやせても全然衰えず美しい。ニューイヤー・コンサートで親しまれる”春の声”をコロラトゥーラ技巧を軽々とあかるく歌いきる。声量もあり、テクニックもあり、声もよし。今、声楽家としては旬なのかもしれない。

■年齢不賞
I井R花さん。プログラムのプロフィールによると、”リリコ・スピントの美声と舞台映えする容姿で、数々の舞台を成功に導いた”とある。音楽家は、特に女性の場合、年齢は非公開である。音楽暦によると、どう考えても40代に突入しているはずなのだが、若くて美人。花柄のドレスが、ドニゼッティ作曲「アンナ・ボレーナ」の”私の生まれたあの古城”の王妃アンナの清楚な気品によく似合っている。美しい人に、悲劇の王妃はふさわしい。

■番外編
Jソロイスツのメンバー。音大を卒業して、プロの声楽家をめざす女性合唱団。指揮者の高橋大海氏の愛弟子たちで構成されている模様。なんとなく「モーニング娘。」クラシック編という印象だった。日本唱歌四季のメドレーは、台東区という立地にふさわしく癒された方も多いだろう。

その他、実力派、学者風、演技派ととても書ききれないくらい、ひとくちに声楽家といっても個性は、人それぞれ。来年も行く予定で、楽しみ。

*プログラムはここで   06/7/17 東京藝術大学奏楽堂