千の天使がバスケットボールする

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「五嶋龍」ヴァイオリン・リサイタル

2006-07-04 23:12:44 | Classic
音楽家として演奏活動を続けるのは、かなり厳しい道を覚悟する必要がある。「PIANO KLASS」のemiさまも「一流の音楽家、音楽を生業として生きていくのは、東大に入学するよりよっぽど困難」とおっしゃる。然り。にも関わらず、1988年生まれ(もしかして平成生まれ?!)弱冠18歳にして、リサイタルを催す青年。五嶋龍くんである。そして、今もっとも旬で、ヴァイオリニストの中では集客力抜群という注目銘柄である。サントリーホールをはじめとした初めてのジャパン・ツアーのチケットは、おそらくどこの会場でも完売であろう。

このJR東海のCMでお馴染のヴァイオリンを弾けるジャニーズ系少年のような彼には、クラシック音楽分野では珍しいこれまで音楽をあまり聴いたことのない、彼以外の音楽家の演奏は聴かない”おっかけ”なるものまで存在する。ドキュメント番組「五嶋龍のオデッセイ」で確認済みの素直な人間性に伸びやかな容姿と空手2段という文武両道、更に今年9月からハーバード大学入学予定。まるでおかん隊にとっては理想の息子、アネゴチームには自慢の弟のようである。つまり、龍くんのトップセールスの秘訣は、商品の性能や中身の質・美しさというよりも、まわりの飾るパッケージにある。彼のいうところの、アカデミックに聴こうとするためにアーティストのレベルを計るような不遜な都会派としては、やはり一度は彼の演奏を生で聴きたいものである。けれども素直に、決してこころをだますことなく。

所謂”ファン”を意識して、最近の傾向としてあるエンターティメント性をうちだしたプログラム構成かと思いきや、内容は予想外に本格的である。
冒頭のイザイは、音が充分鳴っているとは言えず、不完全燃焼の印象。技術的には堅実であるが、イザイ独特の音の深遠さには欠ける。しかし、彼の年齢を考えると、今後の成長の楽しみにとっておきたい。演奏が終わった直後のお辞儀が、ほっとした表情と難しい位置からバスケットボールのゴールを決めたような得意感が見えるようで、なかなか微笑ましい。そんな幼いといえば、幼いしぐさも好感度アップにつながるところが、彼の空手だけでない武器かもしれないと妙に納得する。

次のシュトラウスとブラームスのソナタは、非凡な才能と1年前のテレビ放映からの成長ぶりを披露してくれた。上手い。楽器も確かに素晴らしいのだが、この年齢にしてソナタをここまで上品に歌う彼に、大器の片鱗というよりも、福井日銀総裁も拠出していた村上ファンド並の上昇株として期待できるではないか。内心おそれていたのだが、シュトラウスの第一楽章終了時に、終わったと感動(勘違い)した観客の拍手喝采。テレビやラジオが録画しているのだけれど。テレビで放映されたことにより、知名度が高い音楽家の演奏会や地方で時々あるあたたかい拍手だ。まあ、私がもっているオイストラフのチャイコフスキーVn協のCDでも第一楽章の後、万雷の拍手が入っているので、こういうのも”あり”だろう。

後半の「悲歌」は、武満徹作品の中でも人気が高い曲である。私も数少ない好きな現代音楽である。龍くんの演奏は、当日の演奏の中でも出色のできだったのではないだろうか。ひと言で言えば、説得力のある演奏だ。ふと、彼が大学で学びたいのが物理だったということを思い出す。

最後を飾る「ツィガーヌ」は、彼の得意の曲という印象。ここで伴奏のピアニストともどもジャケットを脱ぎ、半袖シャツ姿で颯爽と登場。こんな演出?は、非常に効果ありと見た。中ほどのルフト・パウゼがどっきりとするくらい長くて、彼のお茶目な性格が全開する。音楽性とは多少異なるが、彼のこんな初リサイタルとは思えない余裕のある演奏は、ショーマンシップというほどすれていなく、心底演奏を楽しんでいるかのような幸福感がある。予想どおりにフィナーレは、全速力。

アンコールの難曲、ツィゴイネルワイゼンも哀調が足りないかもしれないが、限界まで加速して華やかに終わるところは若者だ。体力は充分。
総じて、楽しい演奏会であった。正調でありながらも、後半の随所に音楽性のきらめきを感じさせる。10年後、20年後に出会うことを楽しみにできるヴァイオリニストはそんなにいない。が、何故か、五嶋龍くんはハーバード大学に進学して、まったく別の分野にすすんでも再会したいヴァイオリニストである。通常の演奏会では見かけない携帯電話で開演前の舞台を写真にとる方も、充分楽しまれたことだろう。

------ 2006/7/3 サントリーホール ------------------------------------------

イザイ:「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番」
リヒャルト・シュトラウス:「ヴァイオリン・ソナタ」
ブラームス:「ヴァイオリン・ソナタ第2番」
武満徹:「悲歌」
ラヴェル:「ツィガーヌ」

■アンコール
サラサーテ :「ツィゴイネルワイゼン」

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