千の天使がバスケットボールする

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「ウェブ進化論」梅田望夫著

2006-07-11 23:12:49 | Book
思えば10年ほど前からインターネットにはなじんでいた。いずれ米国のように水道代並に安価な利用料で24時間使いたい放題になるとは予測していたが、当初の高かったプロバイダー契約料も、あっというまに定額料金のチープ革命の恩恵にあずかる。やがて検索エンジンを利用するようになり、PCに向かう度にGoogleのお世話になる。そして忙しい現代人にも関わらず、ブログを開設して1年半。著者のいう
総表現社会=チープ革命×検索エンジン×自動秩序形成システム
のバスにいつのまにか乗っているではないか。
「週刊ダイヤモンド」(4/1号)にコラムリスト林操氏の「ベストセラー通りすがり」で、本書の書評が掲載された時は、都心の大手書店では品切れ状態だったという。売れる理由として、林氏は”ネットだITだ革命だ進化だに乗り遅れたくないオジサンオバサン、これから身を投じたいワコウド、どっちも飛びついているのでしょう。未来行きバスの片道切符”と述べている。オバサンでも、ワコウドでもないっ、と自負したいが、ずっと乗っている未来行きのバスの行き先をよくわかってなかったし、考える気もなかった。周りの景色がぼんやりとして明確に見えてこない、漠然たる疑問はあったのだが。ここ数年のITの急激な進化がもたらしたそれらの疑問が本書を読むことによって、鮮明に見えてきた。そこにあるのは、ネットがもたらす世界が変わるほどの可能性に満ちた新しい時代の到来だった。

先日、マイクロソフト社の世界一のお金持であるビル・ゲイツの早い引退と寄付金が巷間話題になったけれど、抱き合わせ販売という”愛のない”方法で独占禁止法にひっかかる商売もとっくに曲がり角にきている。梅田氏が述べるように、ITの成熟によってマイクロソフトがネット上の「こちら側」としたら、主流はグーグルの「あちら側」に移転していた。(つまり、引退するにはちょうどよい潮時まもしれない。)なにしろマイクロソフトは、王国をつくるようにITの社会主義か立憲君主国家だと感じていたが、グーグルはITの民主主義をめざすという、壮大な夢の実現に向かっている。そこにグーグルの新しさがある。
2004年グーグル株式公開に際し、未来の株主に宛てた創業者からの手紙の冒頭に「インターネットの意志」に従えば「世界はより良い場所になる」とあるようにこころから信じ、経済的格差是正への自らの貢献可能性に言及している。ちなみに1兆円でマクロソフト買収の噂のあったグーグルの時価総額は、今や3兆円。
前半は、「あちら側」と「こちら側」の相違から、今おこりつつあるweb2.0への発展性を解析している。

そして後半は、閉鎖的空間からweb2.0への開放性がもたらすブログと総表現社会への可能性を提示している。ブロガーである私としても、もっとも実感する部分である。梅田望夫氏自身も「㈱はてな」の社長、近藤淳也さんの優秀な人材というだけでない、不思議な人間的魅力を伴う器の大きさと動物的な強さを感じ、新しい自分を構築するための選択として、05年かたこの会社の取締役になっている。ブログこそが究極の理想に近い「知的生産道具」と賞賛する梅田さんほどの熱さはないにせよ、パソコンの向こう側の無限性におののきや不安の中に、確かに感動もある。
またロングテールの一点として、アマゾンでレアなCDを購入する喜びを積分すると恐竜の頭を凌駕するというのも然り。

「あちら側」で働く人々にとっては、当り前なことを書いている本書が売れることに関心は低いだろう。
周囲に「ウェブ進化論」をすすめても、反応はわかれる。携帯電話を手離せなくても、ネットユーザーでない者にとっては、所詮バスに乗っていないのだからその行き先は無関心。だが、日常的に勉強、仕事、ブログなどでユーザーになっている者は、本書に興味をもっていて、読もうとしている。
世の中に関心が低くても、それはそれで生活に不自由はしない。本当の大変化など、おこってみてから知ればよいのかもしれない。今必要な美容や、癒し系本の方が重要ということもあるだろう。
でも、「ウェブ進化論」は、起こりうる”悪”の可能性の示唆に論調をあわせることよりも、可能性の扉を一緒に開くことの楽天主義的なおもしろさと楽しさを教えてくれる。
なによりも読物としてこどもの驚きに近いおもしろさをひろげてくれて、お薦めの1冊。オジサンオバサン、ワコウドだけでなくネットユーザーの長老も是非、本書を手にとってご一読あれ。

副題:本当の大変化はこれから始まる