千の天使がバスケットボールする

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「ヤバい経済学」スティーヴン・D・レヴィット著

2006-07-19 23:53:07 | Book
「ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する 」

原題は、”Freakonomics”であるが、さていったい何がヤバいのか。私の辞書には、”ヤバい”と”悪ガキ”という単語は見当たらないのだが、読みすすむうちにその語感をじわじわと納得していく。必ずしもウケねらいというわけではなさそうだ。

ひとつヤバい話をしてしまうが、村上世彰氏の運のツキは「阪神タイガースの上場」を言及したことで陥落したと言われる。
「大阪人であれば、縦縞のハッピの売人が裏世界の住人であることは知っている。あんなものを透明化して上場するとなれば、大量の血が流れる」そうだ。・・・知らなかった。最近、仕事の改編により関西人とのやりとりの増えた私としては、関西というのもなかなか奥の深いものだと感心するではないか。

ところで国内では、可愛いタイガースのマスコットを売る売人に近い”業種”と思われる米国における裏世界の方達は、何故ママといつまでも団地に住んでいるのか。世にある通念に疑問を打ち立てて、本書は綿密なデーターを元にその不思議なこと、謎を経済学的に理論展開している。ちなみに、この場合の米国の該当者は、「映画にときどき出てくる、どうやって角を曲がるんだと思うような長いリムジンに山ほどきれいなお姉ちゃんを詰め込んで車から降りてくる、白い毛皮のコートを羽織った男」(←訳者のあとがきから引用)、それがアメリカ人のいう売人である。しかし、彼らはまるでファーストフードのフランチャイズのように組織化されたツールの配下にある傭兵員なのだった。それでも彼らは、才覚と運に恵まれなければうかばれないだろう、いつかは幹部にのしあがるという”夢”をもって、ママと団地に暮らして日々しのいでいる方達なのである。このように人間はインセンティブで働くということを前提に、アメリカの40歳未満の優れた経済学者に贈られる、ジョン・ベイツ・クラーク・メダルを受賞しているスティーブン・D・レヴィット悪ガキ教授は、世の中のあらゆるものの裏側を検討している。

この若き精鋭経済学者の興味の対象は、国境を越えてはるか遠い我が国の神聖なる国技、相撲の星取りにまで及ぶ。
「相撲が神国第一級のスポーツであるならば、八百長で負けるなんて相撲ではありえない。そうでしょう?」
レヴィット教授のこの疑問は、素朴だ。が、おおかたの日本人ならば、相撲におけるインセンティブの仕組みが複雑怪奇で強固なのは知っている。著書で1989年から2001年までの間に開かれた、上位力士によるほとんどすべての取組みの結果であり、力士281人による3万2千番の勝敗のデーターの解析結果を改めて知らされても、「やっぱり」と感想を述べるしかないのだが。(教授は「週刊ポスト」に論文を送ったが、返事はなかったそうだ。もしかしたら日本人にとっては、”常識”だったのかもしれないと思い至っている。(ピンポーン、正解♪)

その他、出会い系サイトの自己紹介はウソ?黒人と白人の成績格差と「白い振る舞い」、 73年1月22日「ロー対ウェイド」裁判と犯罪減少の相関関係、など教授の素朴な疑問の追跡はやまない。ヤバい経済学というよりも、私は人間の行動を科学する社会学のカテゴリーに入るのだと思うのだが、学会では社会学者が引きつった顔をするそうだ。大学教授の会話を聞き取り、スティーブン・J・タブナーが文書化して編集という共著というカタチで世におくり出した本著は、米国では半年で100万部のベストセラーになった。なにもアカデミックでなければまともな経済学書ではないという狭い考えはないが、生物の知識で男女の違いを語るような浅さを感じる。このたぐいのポップ・カルチャーもどき本がそんなに売れちゃうのも、いかにもアメリカらしい。データーを駆使しているようで、中身は非科学的な印象。それでも書評で好意的に扱われるのは、米国で話題の本ということと、著者のユニークな視点は、発想のパラダイムを養える。
「道徳が私たちの望む世の中のあり方を映しているとすると、経済学が映しているのは世の中の実際のあり方だ」
確かに、インセンティブのままに経済活動がすすめば、そこに映るのは世の中の実像だろう。