ベネズエラ危機 何が問題 解決の道は 選挙行い民主主義回復を
ベネズエラのマドゥロ政権を認めないグアイド国会議長が、大統領不在の場合の憲法規定を根拠に「暫定大統領」就任を宣誓して(1月23日)から2カ月余り。グアイド氏らは、人道支援物資の受け入れと大統領選の実施を要求していますが、実効支配を続ける政権側はこれに応じず、両者が対立したままとなっています。日本共産党志位和夫委員長の声明(2月21日)を踏まえて、何が問題となっているか、事態の解決には何が必要なのか、改めて考えます。
(外信部長菅原啓)
ベネズエラ・コロンビア国境を流れるタラチ川を歩いて渡る人々=3月23日、コロンビア・ククタ近郊(ロイター)
物不足 原因は経済失政から
ベネズエラでは生活必需品のほとんどが輸入だのみでした。マドゥロ政権は1000億ドル(約11兆円)を超える対外債務の返済を優先させ、生活必需品や経済活動に必要な物資の輸入を極端に減らしました。その結果、深刻な食料・医薬品不足が起き、国民の命まで脅かしています。
国際通貨基金(IMF)によれば、2017年の輸入額は12年比で約8割も激減しています。
米国による制裁が経済危機の原因だとの主張もありますが、実際に本格的な経済制裁が始まったのは17年8月です。輸入急減はすでに13年から始まっていました。
債務増大は元をたどれば、チャベス前政権時代(1999~2013年)に始まりました。同政権は貧困地区への無料の診療所配置などさまざまな社会開発政策で成果を挙げましたが、主要輸出品である石油価格の高止まりをあてにして対外債務を増やしました。その後の石油価格急落で経済は悪化、債務増大に拍車がかかりました。
米国の経済制裁の影響は注視する必要がありますが、危機は前政権以来の経済失政の結果といわざるをえません。
大量出国 支援拒み生命危うく
国連機関が2月に発表した推計によると、2014年以降、物不足や政情不安を理由に国外に脱出したベネズエラ人は人口の1割を超える340万人。昨年は毎日5000人のペースで出国しています。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を支える日本の公式窓口、国連UNHCR協会のウェブサイトは、5人の子どもを連れブラジルに逃れたテヘリナさん(33)の声を伝えています。「ブラジルに来ると決めたのは、子どもたちが飢えていたからです。食事は夜に1日1食。夕食をほんの少しだけでした」
出国前にテヘリナさんは生後7カ月の娘を亡くしました。「薬の在庫がなくなっていたため、娘は適切な治療を受けられませんでした」と語ります。
米国や近隣国から集められた食料や医薬品が国境の外まで運び込まれましたが、マドゥロ政権はこれまでのところ受け入れを拒否したまま。マドゥロ氏らは、十分な食料や医薬品を早急に国民に提供すべきです。それが不可能なら、外部からの人道支援物資を受け入れることが求められています。
選挙 国民審判受け入れず
ベネズエラのチャベス前政権はさまざまな問題を抱えつつも、改革を進めるうえで、選挙や国民投票を何度も実施。国民多数の支持を確認しながら政権を運営していました。
ところが、後継のマドゥロ政権は経済危機によって国民の不満が高まる中で実施された2015年の国会議員選で野党が圧勝すると、その結果を真摯(しんし)に受け止めるのではなく、選挙や民主主義を軽視する方向に傾いていきました。
マドゥロ政権は最高裁判事を入れ替え、最高裁の判決を利用して、野党が多数となった国会の権限を次々無効化。18年5月の大統領選では、マドウロ氏が「勝利」したものの、この選挙は野党の有力政治家を排除して行われたものでした。前回選挙(13年)でマドゥロ氏と互角に渡り合ったカプリレス元ミランダ州知事も公金流用で公職追放の処分を受け、立候補は許されませんでした。
批判勢力とも堂々と論戦して国民の審判を受けることを避け、選挙のやり方までゆがめるーマドゥロ政権側の変質はきわめて深刻です。
ベネズエラチャベス政権以降の主な歩み
「人道支援を通過させよ」などのプラカードを掲げ、マドゥロ大統領に抗議するコロンビア在住のベネズエラ市民=3月11日、ボゴタ(ロイター)
人権侵害 批判勢力を抑圧・弾圧
バチェレ国連人権高等弁務官は20日、ベネズエラの人権状況について、ジュネーブの国連人権理事会への報告を行い、「平和的な抗議・反体制の行動が犯罪扱いされている」問題に深い憂慮を表明。1、2月の抗議行動の高まりの中で、弁務官事務所は、治安部隊や政府系の武装集団による人権侵害の多数の事例を把握していると述べました。
また、昨年1年間で少なくとも205人、今年1月の首都カラカスだけでも37人が、国家警察特別行動部隊(FAES)が関わった超法規的な処刑で殺害された可能性があり、「犠牲者の大部分は貧困地区の住民で反政府抗議行動の参加者だった」と指摘しました。
バチェレ氏は、2017年11月に作られた憎悪犯罪対策法が記者や野党指導者の責任を追及するために恣意(しい)的に利用され、表現や報道の自由への規制が強まっている問題も報告しています。
マドゥロ政権による反対勢力への抑圧・弾圧は重大な人権侵害であり、国際問題となっています。
ベネズエラの政治的な危機の最大の原因は、昨年の大統領選が野党の有力政治家を排除して実施されたため、マドゥロ氏「当選」の正統性が失われていることにあります。根本的な解決には再選挙が避けられません。
グアイド国会議長をはじめとする野党勢力はマドゥロ氏の退陣を要求しつつ、自由で透明性ある選挙実施を掲げています。グアイド氏を「暫定大統領」と承認した国は約60力国。同氏を支援する米州諸国の「リマ・グループ」も選挙の重要性を強調しています。
国内では、チャベス前政権の元閣僚が共同声明を発表し、大統領選実施を要求。そのうちの一人ロドリゴ・カベサス元経済・財務相は21日、昨年の大統領選は「非民主的」で、「政府・与党が統制したものだった」と指摘し、国民が国の将来を議論しあう選挙を通じての問題解決が必要だとの見解を地元メディアで明らかにしました。
トランプ米政権は軍事介入も「選択肢の一つ」としていますが、軍事介入は絶対許されません。
ベネズエラの問題は、外部からの干渉・介入なしに、ベネズエラ国民自身によって解決されるべきです。
平和的な解決のためのさまざまな努力の中で、民主主義の回復、とりわけ公正な大統領選を通じて、国民多数の意思にもとつく新たな政府を確立することが求められています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2019年3月26日付掲載
ベネズエラの物不足、おぞましい限りの超インフレ。もともとの原因はチャベス政権時代の石油の輸出に依存しすぎた経済政策にありますが…。
後を引き継いだマドゥロ政権が、それを認めようともせず、人道支援も受け付けない。批判勢力を抑圧する。
チャベス政権の時代に、なんども選挙で民意を示してきた経験がベネズエラ国民にはあります。
ベネズエラの事はベネズエラが国民が決める。それはできると思います。
ベネズエラのマドゥロ政権を認めないグアイド国会議長が、大統領不在の場合の憲法規定を根拠に「暫定大統領」就任を宣誓して(1月23日)から2カ月余り。グアイド氏らは、人道支援物資の受け入れと大統領選の実施を要求していますが、実効支配を続ける政権側はこれに応じず、両者が対立したままとなっています。日本共産党志位和夫委員長の声明(2月21日)を踏まえて、何が問題となっているか、事態の解決には何が必要なのか、改めて考えます。
(外信部長菅原啓)
ベネズエラ・コロンビア国境を流れるタラチ川を歩いて渡る人々=3月23日、コロンビア・ククタ近郊(ロイター)
物不足 原因は経済失政から
ベネズエラでは生活必需品のほとんどが輸入だのみでした。マドゥロ政権は1000億ドル(約11兆円)を超える対外債務の返済を優先させ、生活必需品や経済活動に必要な物資の輸入を極端に減らしました。その結果、深刻な食料・医薬品不足が起き、国民の命まで脅かしています。
国際通貨基金(IMF)によれば、2017年の輸入額は12年比で約8割も激減しています。
米国による制裁が経済危機の原因だとの主張もありますが、実際に本格的な経済制裁が始まったのは17年8月です。輸入急減はすでに13年から始まっていました。
債務増大は元をたどれば、チャベス前政権時代(1999~2013年)に始まりました。同政権は貧困地区への無料の診療所配置などさまざまな社会開発政策で成果を挙げましたが、主要輸出品である石油価格の高止まりをあてにして対外債務を増やしました。その後の石油価格急落で経済は悪化、債務増大に拍車がかかりました。
米国の経済制裁の影響は注視する必要がありますが、危機は前政権以来の経済失政の結果といわざるをえません。
大量出国 支援拒み生命危うく
国連機関が2月に発表した推計によると、2014年以降、物不足や政情不安を理由に国外に脱出したベネズエラ人は人口の1割を超える340万人。昨年は毎日5000人のペースで出国しています。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を支える日本の公式窓口、国連UNHCR協会のウェブサイトは、5人の子どもを連れブラジルに逃れたテヘリナさん(33)の声を伝えています。「ブラジルに来ると決めたのは、子どもたちが飢えていたからです。食事は夜に1日1食。夕食をほんの少しだけでした」
出国前にテヘリナさんは生後7カ月の娘を亡くしました。「薬の在庫がなくなっていたため、娘は適切な治療を受けられませんでした」と語ります。
米国や近隣国から集められた食料や医薬品が国境の外まで運び込まれましたが、マドゥロ政権はこれまでのところ受け入れを拒否したまま。マドゥロ氏らは、十分な食料や医薬品を早急に国民に提供すべきです。それが不可能なら、外部からの人道支援物資を受け入れることが求められています。
選挙 国民審判受け入れず
ベネズエラのチャベス前政権はさまざまな問題を抱えつつも、改革を進めるうえで、選挙や国民投票を何度も実施。国民多数の支持を確認しながら政権を運営していました。
ところが、後継のマドゥロ政権は経済危機によって国民の不満が高まる中で実施された2015年の国会議員選で野党が圧勝すると、その結果を真摯(しんし)に受け止めるのではなく、選挙や民主主義を軽視する方向に傾いていきました。
マドゥロ政権は最高裁判事を入れ替え、最高裁の判決を利用して、野党が多数となった国会の権限を次々無効化。18年5月の大統領選では、マドウロ氏が「勝利」したものの、この選挙は野党の有力政治家を排除して行われたものでした。前回選挙(13年)でマドゥロ氏と互角に渡り合ったカプリレス元ミランダ州知事も公金流用で公職追放の処分を受け、立候補は許されませんでした。
批判勢力とも堂々と論戦して国民の審判を受けることを避け、選挙のやり方までゆがめるーマドゥロ政権側の変質はきわめて深刻です。
ベネズエラチャベス政権以降の主な歩み
1998年 | チャベス氏が大統領選で初当選 |
1999年 | 同氏が大統領就任/国民投票で新憲法を承認 |
2000年 | 新憲法下での大統領選で再選 |
2004年 | 大統領罷免の是非を間う国民投票。大差で信任 |
2012年 | チャベス大統領が4選 |
2013年 | チャベス大統領、がんのため死去/大統領選でマドゥロ氏が当選 |
2015年 | 国会議員選で野党連合が3分の2の議席を占める |
2016年 | 新国会発足も、重要決議はすべて最高裁が違憲と判断 |
2017年 | マドゥロ政権への抗議行動激化/制憲議会が発足し、国会の立法権をはく奪 |
2018年 | 大統領選でマドゥロ氏が「当選」。野党の有力政治家は参加できず |
2019年 | マドゥロ氏が「2期目」就任/国会が同氏を不正選挙による「権力の強奪者」と決議/グアイド新国会議長が「暫定大統領」就任を宣誓 |
「人道支援を通過させよ」などのプラカードを掲げ、マドゥロ大統領に抗議するコロンビア在住のベネズエラ市民=3月11日、ボゴタ(ロイター)
人権侵害 批判勢力を抑圧・弾圧
バチェレ国連人権高等弁務官は20日、ベネズエラの人権状況について、ジュネーブの国連人権理事会への報告を行い、「平和的な抗議・反体制の行動が犯罪扱いされている」問題に深い憂慮を表明。1、2月の抗議行動の高まりの中で、弁務官事務所は、治安部隊や政府系の武装集団による人権侵害の多数の事例を把握していると述べました。
また、昨年1年間で少なくとも205人、今年1月の首都カラカスだけでも37人が、国家警察特別行動部隊(FAES)が関わった超法規的な処刑で殺害された可能性があり、「犠牲者の大部分は貧困地区の住民で反政府抗議行動の参加者だった」と指摘しました。
バチェレ氏は、2017年11月に作られた憎悪犯罪対策法が記者や野党指導者の責任を追及するために恣意(しい)的に利用され、表現や報道の自由への規制が強まっている問題も報告しています。
マドゥロ政権による反対勢力への抑圧・弾圧は重大な人権侵害であり、国際問題となっています。
ベネズエラの政治的な危機の最大の原因は、昨年の大統領選が野党の有力政治家を排除して実施されたため、マドゥロ氏「当選」の正統性が失われていることにあります。根本的な解決には再選挙が避けられません。
グアイド国会議長をはじめとする野党勢力はマドゥロ氏の退陣を要求しつつ、自由で透明性ある選挙実施を掲げています。グアイド氏を「暫定大統領」と承認した国は約60力国。同氏を支援する米州諸国の「リマ・グループ」も選挙の重要性を強調しています。
国内では、チャベス前政権の元閣僚が共同声明を発表し、大統領選実施を要求。そのうちの一人ロドリゴ・カベサス元経済・財務相は21日、昨年の大統領選は「非民主的」で、「政府・与党が統制したものだった」と指摘し、国民が国の将来を議論しあう選挙を通じての問題解決が必要だとの見解を地元メディアで明らかにしました。
トランプ米政権は軍事介入も「選択肢の一つ」としていますが、軍事介入は絶対許されません。
ベネズエラの問題は、外部からの干渉・介入なしに、ベネズエラ国民自身によって解決されるべきです。
平和的な解決のためのさまざまな努力の中で、民主主義の回復、とりわけ公正な大統領選を通じて、国民多数の意思にもとつく新たな政府を確立することが求められています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2019年3月26日付掲載
ベネズエラの物不足、おぞましい限りの超インフレ。もともとの原因はチャベス政権時代の石油の輸出に依存しすぎた経済政策にありますが…。
後を引き継いだマドゥロ政権が、それを認めようともせず、人道支援も受け付けない。批判勢力を抑圧する。
チャベス政権の時代に、なんども選挙で民意を示してきた経験がベネズエラ国民にはあります。
ベネズエラの事はベネズエラが国民が決める。それはできると思います。