赤字国債の大量発行 インフレや暴落 大混乱の火種

参議院選挙(20日投票)では消費税減税が争点の一つといわれています。「消費税減税は赤字国債でやればよい」と主張する党もあります。これは正しいといえるでしょうか。
国債には「赤字国債」や「建設国債」などと呼ばれるものがあります。財政の規定は次の通りです。
“国の歳出は、公債または借入金以外の歳入をもって、その財源としなければならない。ただし、公共事業費等の財源は、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行しまたは借入金をなすことができる”
この条文中の公共事業に注目して、こうした目的で発行される国債を建設国債と呼びます。
建設国債を発行してもなお歳出が歳入を上回る、つまり赤字の場合に政府が特別の法律(特例公債法)によって国債を発行しています。これは特例国債、または赤字国債と呼ばれます。
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いずれにせよ国債の大量発行は、大きな問題を抱えています。
第一は、それを日本銀行が引き受ければ、インフレーションを発生させる可能性があることです。財政法はこの点を懸念して、政府が、公債を日銀に引き受けさせることも、借入金を日銀から借り入れることも禁じています。
ところが、第2次安倍晋三政権発足後の2013年に始まった黒田東彦前総裁時代の日銀は、「量的・質的金融緩和」のもとで国債を大規模に金融機関から買い入れました。同時に、金融機関が引き受けた国債をただちに買い取れる制度も導入しました。これでは、国債の日銀直接引き受けとなんら異なるところはありません。異次元の金融緩和で日銀の長期国債の保有残高は500兆円近く増えました。国債の52%を保有しています。
第二は、国債の大量発行は、日銀という買い手がいなければ、発行金利や市場金利を高めがちです。日銀は昨年、金融機関から買い入れる国債の金額を減らすことにしました。すると最近、償還までの期間が10年を超える超長期債の市場価格が下落し、逆に、市場金利が上昇しました。市場金利の上昇は住宅ローン金利の上昇につながります。
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国債の積極的な発行を求めるMMT(現代貨幣理論)という考え方もあります。「インフレが起きない限り、政府はいくらでも財政赤字(国債発行)を続けられる」と主張します。しかし、これを日本に適用する場合、大きな見落としがあるように思われます。
日本の国債および国庫短期証券の保有者別内訳をみると、24年末には海外が11・9%にも達しています。
もしアメリカの格付け機関が日本の国債の格付けを引き下げた場合、海外だけでなく国内の投資家にも影響を与えるでしょう。大規模な国債および国庫短期証券の投げ売りが発生し、経済が大混乱することも否定できません。
日本の経験では、経済・金融危機は、金・ドル交換停止、プラザ合意とバブルの発生、国際金融危機のいずれのケースでも、アメリカを震源としていることに留意が必要です。
建部正義(たてべ・まさよし 中央大学名誉教授)
「しんぶん赤旗」日曜版 2025年7月20日付掲載

参議院選挙(20日投票)では消費税減税が争点の一つといわれています。「消費税減税は赤字国債でやればよい」と主張する党もあります。これは正しいといえるでしょうか。
国債には「赤字国債」や「建設国債」などと呼ばれるものがあります。財政の規定は次の通りです。
“国の歳出は、公債または借入金以外の歳入をもって、その財源としなければならない。ただし、公共事業費等の財源は、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行しまたは借入金をなすことができる”
この条文中の公共事業に注目して、こうした目的で発行される国債を建設国債と呼びます。
建設国債を発行してもなお歳出が歳入を上回る、つまり赤字の場合に政府が特別の法律(特例公債法)によって国債を発行しています。これは特例国債、または赤字国債と呼ばれます。
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いずれにせよ国債の大量発行は、大きな問題を抱えています。
第一は、それを日本銀行が引き受ければ、インフレーションを発生させる可能性があることです。財政法はこの点を懸念して、政府が、公債を日銀に引き受けさせることも、借入金を日銀から借り入れることも禁じています。
ところが、第2次安倍晋三政権発足後の2013年に始まった黒田東彦前総裁時代の日銀は、「量的・質的金融緩和」のもとで国債を大規模に金融機関から買い入れました。同時に、金融機関が引き受けた国債をただちに買い取れる制度も導入しました。これでは、国債の日銀直接引き受けとなんら異なるところはありません。異次元の金融緩和で日銀の長期国債の保有残高は500兆円近く増えました。国債の52%を保有しています。
第二は、国債の大量発行は、日銀という買い手がいなければ、発行金利や市場金利を高めがちです。日銀は昨年、金融機関から買い入れる国債の金額を減らすことにしました。すると最近、償還までの期間が10年を超える超長期債の市場価格が下落し、逆に、市場金利が上昇しました。市場金利の上昇は住宅ローン金利の上昇につながります。
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国債の積極的な発行を求めるMMT(現代貨幣理論)という考え方もあります。「インフレが起きない限り、政府はいくらでも財政赤字(国債発行)を続けられる」と主張します。しかし、これを日本に適用する場合、大きな見落としがあるように思われます。
日本の国債および国庫短期証券の保有者別内訳をみると、24年末には海外が11・9%にも達しています。
もしアメリカの格付け機関が日本の国債の格付けを引き下げた場合、海外だけでなく国内の投資家にも影響を与えるでしょう。大規模な国債および国庫短期証券の投げ売りが発生し、経済が大混乱することも否定できません。
日本の経験では、経済・金融危機は、金・ドル交換停止、プラザ合意とバブルの発生、国際金融危機のいずれのケースでも、アメリカを震源としていることに留意が必要です。
建部正義(たてべ・まさよし 中央大学名誉教授)
「しんぶん赤旗」日曜版 2025年7月20日付掲載
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