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日本共産党兵庫県委員会で働いています。

日韓の歴史をたどる㉚ 植民地支配責任 戦後処理から抜け落ちたもの

2020-10-20 08:22:28 | 日韓の歴史をたどる
日韓の歴史をたどる㉚ 植民地支配責任 戦後処理から抜け落ちたもの
板垣竜太
いたがき・りゅうた 1972年生まれ。同志社大学教授(朝鮮近現代社会史)。『朝鮮近代の歴史民族誌』、共編著に『日韓新たな始まりのための20章』『「慰安婦」問題と未来への責任』ほか

日本の歴史的責任といえば、まずアジア太平洋戦争の「戦争責任」が思い浮かぶ。日本と朝鮮半島のあいだの歴史問題でも、強制労働動員や日本軍「慰安婦」制度など戦時下の問題がまずあげられる。日本の侵略戦争が膨大な被害をもたらしたのだから、このことが筆頭に掲げられるのは当然である。

太平洋戦争前の反人道的な犯罪
ただ、この「日韓の歴史をたどる」シリーズでも論じられてきた植民地下での三・一独立運動(1919年)や関東大震災での民衆虐殺(1923年)、あるいは植民地化過程での義兵の殺獄など、アジア太平洋戦争前に起きたことは、従来の戦争責任という枠組みでは、とうてい捉えきれない。そうした観点から提起されてきた概念が「植民地支配責任」である。
植民地支配責任という考え方をとることで、アジア太平洋戦争以前、戦争中、戦後の日本の責任があらためて見えてくる。
まず戦争以前でいえば、前述の虐殺等は単なる個別ばらばらの偶然の諸事件ではなく、植民地支配下だからこそ起きたものである。すなわち、植民地という「一つのシステム」(サルトル)が引き起こした反人道的な犯罪であるという観点から、一連の問題として見る必要がある。



三・一独立運動の民衆のたたかいを刻んだレリーフ=ソウル・タプコル公園(栗原千鶴撮影)

内地ではなくて占領地でもない
戦争中の問題に関していえば、日本軍「慰安婦」制度や戦時強制労働動員は、内地でも占領地でもなく、他ならぬ植民地だからこそ構造的に可能だった側面がある(『Q&A朝鮮人「慰安婦」と植民地支配責任』御茶の水書房)。内地では法的に禁じられていた未成年者の「慰安婦」としての動員は、植民地では、国際法適用の留保という抜け穴が用意されていたからこそ可能となった。異なる法制度を適用していたからこそ、援護施策のともなわない朝鮮人の戦時労働動員が広範におこなわれることになった。これらの問題は戦争責任と植民地支配責任が重なる領域にある。
そして日本の「戦後処理」からは、いわば「植民地支配後処理」が抜け落ちてきた。極東国際軍事裁判(東京裁判)に際しては、在日朝鮮人や南北朝鮮から朝鮮総督府の罪を問う声があがっていたが、植民地の人々への加害に対する責任は間われないまま終わった。サンフランシスコ講和会議には、南北朝鮮も参加を希望していたが、かなえられなかった。その後、朝鮮半島の南の政権とは1965年に日韓条約が結ばれたが、北の政権とはいまだ何の「植民地支配後処理」もおこなわれていない。

問題を今に残す賠償なしの条約
そして現在、この日韓条約が両国間の関係における問題の源泉となっている。韓国政府は当初より植民地支配の賠償を求めていたが、日本政府は当時の法令で支払うべきだったもの以外は考慮に入れようとしなかった。結局、日本からの資金をテコに「上」からの近代化を進めようとした朴正煕(パクチョンヒ)軍事政権が妥結を急いだため、経済協力のみで賠償はなし、そして請求権は相互に放棄するという内容の条約が結ばれてしまった。
このとき放棄された請求権は外交保護権とよばれるものである。被害を受けた個人が相手国や企業等に請求する権利(個人請求権)までが消滅したわけでないことは、当初より日韓共通の理解だった。ところが今世紀に入るころから、日本政府側は個人請求権の行使可能性を否定するようになった。
一方、韓国では被害者や支援者の粘り強い取り組みの結果、個人請求権の継続を前提とした司法判断を勝ち取った。ここにあるのは両国間の日韓条約の解釈のズレであり、そこに解決すべき植民地問題があるのだが、日本政府はそれを「国際法違反」だと言いつのるのみである。
こうして20世紀日本の植民地支配責任は、未済のまま21世紀を生きる私たちに相続されている。その過去を克服するところにこそ、未来の東アジアの平和と人権が開けてくる。
*シリーズ「日韓の歴史をたどる」は今回で終わります。

「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年10月14日付掲載


日本がポツダム宣言を受諾して、満州、朝鮮、サハリンなどを開放した後の戦後処理。
終戦後、わずか5年後に朝鮮戦争が勃発。
朝鮮戦争の休戦後に、南の韓国と結んだ日韓条約。軍事独裁政権の朴正煕(パクチョンヒ)が日本からの資金援助を急いだ結果。
被害を受けた個人が相手国や企業等に請求する権利(個人請求権)までが消滅したわけでないことは、当初より日韓共通の理解。

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