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資本主義の現在と未来 気候変動① 温暖化は差し迫った危機 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く

2024-09-09 06:45:36 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
資本主義の現在と未来 気候変動① 温暖化は差し迫った危機 日本環境学会元会長 和田武さんに聞く

日本の7月の平均気温が2年連続で過去最高を更新し、8月も猛暑となるなど、「地球沸騰化」(グテレス国連事務総長)が現実の脅威になっています。早くから地球温暖化の危機と再生可能エネルギーの普及を訴えてきた和田武さん(日本環境学会元会長)に、危機の現状と打開の方向を聞きました。(佐久間亮)

―7月に熱中症で救急搬送された人が過去2番目に多い3万7千人超となるなど、地球沸騰化を感じる暑さが続いています。
昨年末に開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は、地球温暖化を1・5度未満に抑える目標を改めて確認しました。しかし2月に発表された2023年の世界の平均気温は産業革命前から1・45度も上昇。さらに比較する時期を23年6月から24年5月に半年ずらすと1・6度を超えます。このまま1・5度を超える状況が長くつづくと、地球環境のシステムが急激かつ不可逆的に悪化しつづけるティッピングポイント(転換点)を超える可能性が出てきます。
例えば温暖化によるサンゴの死滅です。現在は大気中に増えた二酸化炭素の約4割は海水に溶け込み、サンゴなどによって石灰質の殻に変えられています。サンゴが死滅し海水中の二酸化炭素濃度が飽和状態になれば、大気中の二酸化炭素濃度は倍近い速度で上がり、温暖化はさらに加速します。



巨大な亀裂が走る南極の棚氷=2016年撮影、NASAホームページから

小麦生産半減も
また、北極と南極では、冷えて比重の重くなった海水が海底に流れ込み、地球全体をめぐる熱塩循環と呼ばれる巨大な流れをつくりだしています。温暖化で南極やグリーンランドの氷が解けると、比重の軽い淡水が海に大量に流れ込むようになり、熱塩循環を生み出す力が弱まってしまいます。
熱塩循環は地上の気候にも大きな影響を与えており、欧州の大都市の多くが樺太と同緯度にあるのに北海道より暖かいのも熱塩循環の影響です。熱塩循環が弱まることで地上の気候も大きく変化し、世界の小麦とトウモロコシの生産量が半減するという研究結果も出ています。
こうしたティッピングポイントの引き金となり得るいくつかの事象をティッピングエレメントといいます。世界のティッピングポイント研究の中心となっている英国エクセター大学の研究グループが昨年、重要な報告書を発表しました。
同報告書は、ティッピングエレメントのうちグリーンランドの氷床融解、西部南極の氷床融解、北方永久凍土の急速融解、そして北大西洋の大循環は気温上昇が1・5度を超えると非常に危ない状態に近づくと指摘しています。さらに熱帯から亜熱帯のサンゴの死滅については1・2度の時点ですでに転換点を超えているのではないかという、非常に厳しい見方をしています。

―これまではいずれ起こると言われていたことが、差し迫った危機になりつつあるわけですね。
エクセター大学の報告書は、負の転換点が現実に起きてしまうと世界全体が大規模な混乱状態になるとみています。具体的には大量の難民の発生、それに伴う紛争、戦争の発生。ファッショ的、専制的な政治の台頭も懸念されています。
報告書は、そういうネガティブな転換点を回避し、ポジティブな転換点にし、危機を契機に社会をよりよくしていくことの重要性を指摘しています。国連を中心とした国際機関、各国政府、世界のさまざまな自治体や市民団体が関与したガバナンスの枠組みの構築を、そのために呼びかけています。同時にポジティブな転換点として、再エネ、なかでも太陽光発電と風力発電の世界での急速な増加をあげています。




再エネ中心こそ
現在は危機に世界がきちんと対応し、よりよい方向に持っていけるかどうかの分かれ目です。私たちは、気候危機に社会全体で真正面から取り組み、社会変革のきっかけにしていかなければいけない、そういう時期にきています。
気候危機をもたらしたのは、持続不可能な生産と消費の仕組みです。
生産には物的生産とエネルギー生産とがあります。これまでの物的生産は、資源を採取し、製品を生産し、それを消費者が消費して廃棄するという一方通行の形態が主流を占めてきました。エネルギー生産も、石油や石炭といった化石資源、地下資源を利用した生産が主流を占めてきました。
こうした生産と消費の形態を、持続可能なあり方に転換しなければなりません。生産と消費を循環型にし、廃棄物は自然が処理できる範囲に抑制する、エネルギーも地下資源ではなく再エネ中心にすることが必要です。
持続不可能な生産と消費の背景には、利潤獲得を最優先した資本主義的な生産様式があります。資本主義国だけの問題ではなく、グローバリゼーションのもとで市場原理が世界を支配し、社会主義を標榜する国も含め資本主義的な生産様式が世界の主流を占めているというところに問題の核心があります。現に世界最日大の二酸化炭素排出国は中国、2位以下が米国、インド、ロシア、日本の順になっています。
結論を先取りすると、再エネの普及は市民、地域主導であることが不可欠です。そして、そのことは生産手段の社会化のきっかけになると私は見ています。気候危機防止のためにやらなければいけないことが、生産手段の民主的な社会化を引き起こし、社会変革に至る重要な契機を与えるのです。(つづく)
(8回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月3日付掲載


北極と南極では、冷えて比重の重くなった海水が海底に流れ込み、地球全体をめぐる熱塩循環と呼ばれる巨大な流れをつくりだしています。温暖化で南極やグリーンランドの氷が解けると、比重の軽い淡水が海に大量に流れ込むようになり、熱塩循環を生み出す力が弱まってしまいます。
熱塩循環は地上の気候にも大きな影響を与えており、欧州の大都市の多くが樺太と同緯度にあるのに北海道より暖かいのも熱塩循環の影響です。熱塩循環が弱まることで地上の気候も大きく変化し、世界の小麦とトウモロコシの生産量が半減するという研究結果も。
気候危機をもたらしたのは、持続不可能な生産と消費の仕組み。
生産と消費を循環型にし、廃棄物は自然が処理できる範囲に抑制する、エネルギーも地下資源ではなく再エネ中心にすることが必要。

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