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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

資本主義の現在と未来 台頭する企業略奪者② 革新的製品開発を阻害

2025-06-28 09:56:11 | 経済・産業・中小企業対策など
資本主義の現在と未来 台頭する企業略奪者② 革新的製品開発を阻害

マサチューセッツ大学名誉教授 ウィリアム・ラゾニックさんに聞く

―日本でも米国と同様、株式市場が企業に供給する資金より、企業が株式市場(株主)に供給する資金のほうが多い、という研究があります。上場企業の株主配当と自社株買いは加速度的に増えています。

投機で富を築く
一般的に株式市場は企業にわずかな資金しか供給しないのです。ただし例外もあります。米国のバイオテクノロジー系新興企業は、新薬などの製品がまだ実用化されていない段階でも、投機色の強いナスダック市場での新規株式公開(IPO)や公募増資を通じて多額の資金を調達することがあります。しかしこれらの株主は、製品の実用化まで株式を保有するのではなく、投機的な利益を得るために株式を売却する機会をうかがうのです。
起業家とその共同出資者、経営陣、株式投機家は、新薬が実用化されなくても投機的な株価急騰で膨大な富を築くことができます。そして市場の投機色が弱まって株価が急落・低迷すると、このビジネスモデルは機能しなくなり、科学者は解雇され、革新的な医薬品開発のための集団的・累積的な学習過程が阻害されるのです。
―経済活動における「価値創造」過程と「価値抽出」過程を区別することが重要だということですね。
私が「価値創造」と呼ぶのは、消費者が必要とする商品やサービスを、消費者が支払える価格で開発・製造・提供する過程です。他方で「価値抽出」は、創造された価値の分け前を抜き出す過程であり、従業員の賃金、企業の利益、政府機関への税金、株式保有者への配当金、そして株式売却者のための自社株買いといった形をとります。
社会全体では①家計(労働者や納税者)②政府機関③企業―という「投資の3主体」が生産能力への投資(労働力の提供を含む)を通じて価値創造に貢献します。しかし現代社会は、製品の開発・製造・提供を、圧倒的に企業に依存しています。例えば2022年の米国では、民間雇用全体の83%を企業部門が占めています。従業員数5000人以上の企業は2262社あり、これは全企業数のわずか0・04%ですが、全従業員数の36%(1社あたり平均2万1799人)を雇用し、全給与総額の41%を支払っています。

価値
ラゾニック氏のいう「価値」は「付加価倒のことで、統計的概念です。企業などの経済主体がモノやサービスを生み出す過程で新たに付け加える金額を指し、「売上金額一外部購入額(人件費を除く原材料費など)」で計算されます。一定期間内に国内で産出された付加価値の総額が国内総生産(GDP)です。

配当と自社株買い
株主が株式市場を通じて企業から「価値を抽出」する方法は配当と自社株買いの二つですが、両者は同等ではないとラゾニック氏は指摘します。配当は株式保有者に対して発生するのに対し、自社株買いの利益(値上がり益)は株式の保有をやめて株式売却者にならなければ得られないからです。値上がり益の大きさは株式売却のタイミングで決まるので、株価が上昇しやすい自社株買いの取弓旧を知るインサイダー(内部者)らが有利な立場を占める一方、そうした情報を持たない個人株主は不利な立場に置かれるといいます。



2024年5月~25年4月に1兆500億円の自社株買い計画を決議したリクルートHDの本社が入るグランドトウキョウサウスタワー=東京都千代田区

「価値抽出」の力
これらの大企業がどのように価値を創造するか、そして創造された価値をさまざまな権利主張者(ステークホルダー)がどのように抽出するかは、経済全体における生産性向上や雇用機会、所得分配に大きな影響を与えるのです。
従来よりも高品質な製品を開発して大きな市場シェアを獲得し、規模の経済性(生産規模が大きくなるほどコストが減る現象)を実現して製品の1単位あたりコストを引き下げる企業を、私は「革新的企業」と呼びます。こうした「革新的価値創造」の過程を通じて(革新的企業は消費者・従業員・納入業者・政府・株主など、すべてのステークホルダーを豊かにする利益を生むことができます。つまり企業がより高品質で低コストの製品を開発すれば、それによる価値向上をすべてのステークホルダーと共有できる可能性が生まれるのです。
革新的価値創造の対極にあるのが株主による「略奪的価値抽出」です。価値抽出によって各ステークホルダーに資金が配分される割合は、革新的価値創造を行うステークホルダーの能力とは一致しません。それはそのステークホルダーが持つ価値抽出の力の相対的な大きさに依存するのです。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2025年6月26日付掲載


革新的価値創造の対極にあるのが株主による「略奪的価値抽出」です。価値抽出によって各ステークホルダーに資金が配分される割合は、革新的価値創造を行うステークホルダーの能力とは一致しません。それはそのステークホルダーが持つ価値抽出の力の相対的な大きさに依存するのです。
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