「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。
サッカーW杯 光と影② 過密日程けが人相次ぐ
ワールドカップ(W杯)が近づくにつれ、各国代表チームにはけが人が相次ぎました。
日本代表メンバーを発表した翌2日、DF中山雄太選手(ハダースフィールド)がアキレスけんを痛める重症を負いました。3日にはDF冨安健洋選手(アーセナル)が右足を痛め、8日にはMF遠藤航選手(シュツットガルト)が脳震とうに見舞われました。冨安、遠藤の両選手は回復が見込まれるものの、中山選手は出場を断念する事態となりました。
他の出場国も例外ではありません。連覇を狙うフランスは主力のMFポール・ポグバとエンゴロ・カンテの両選手が、ドイツはFWティモ・ベルナー選手がけがに見舞われ、韓国はエースの孫興民(ソン・フンミン)選手が顔面を骨折する大けがを負いました。
「今回、(欧州の)シーズン途中でやるW杯の難しさはあるかもしれない」。日本協会の田嶋幸三会長は話します。
ヘルタ戦で頭部を負傷したシュツットガルトの遠藤選手(中央)=11月8日、ドイツ・シュツットガルト(dpa時事)
W杯の11月開催は異例です。通常なら欧州のシーズンが終わり1カ月ほどした6月から7月にかけて大会は開かれます。しかし、今回はシーズン真っただ中で、各国リーグは大会の1週間前まで行われました。
問題は各代表チームの準備期間の短さだけではありません。過密日程が選手を苦しめてきたことです。
欧州は通常、シーズンが8月に始まり、翌年5月まで9カ月で行われます。今回は約1カ月のW杯の中断のため、8カ月間に詰め込む形となっています。
中山選手は10月から11月半ばまでほぼ週2回の試合が組まれていました。試合の多い強豪クラブほど“地獄の日程”となり、1カ月半に14試合というクラブまで。週1試合が基本のサッカーにとって異常な事態です。
「僕らは選手の福利厚生のためにたたかっているけど、このスケジュールはクレイジーだ」。イングランドプレミアリーグ・チェルシーのセサル・アスピリクエタ主将は吐き捨てるように語ります。
「正直やりすぎだ。僕たちは機械じゃない。人間なんだ。もはやけがをしても驚かない。この日程をみれば」。ドイツ・バイエルンのDFでフランス代表のバンジャマン・ババール選手も憤りを隠しません。
W杯が冬開催となったのは、夏に気温40度を超えるカタールで開催を決めたから。開催地を決めてから時期を変更しました。
そもそも開催地決定には「政治的な圧力があった」と国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター前会長が発言しています。理事にたいする買収などの疑惑は、決定後にも何度も浮上するありさまです。
スペイン・セビージャのホルへ・サンパオリ監督はいいます。
「FIFAはすべきじゃない場所と時期にプレーすることを決めた。すべては金のためだ。(W杯は)大きなビジネスなんだ」
ドイツサッカー協会公認コーチの鈴木良平さんは指摘します。
「過密日程で選手にしわ寄せがいっている。それはW杯後にも続いています。FIFAのお金もうけ主義の結果、サッカーがゆがめられている。その責任はあまりに大きい」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年11月18日付掲載
W杯の11月開催は異例です。通常なら欧州のシーズンが終わり1カ月ほどした6月から7月にかけて大会は開かれます。しかし、今回はシーズン真っただ中で、各国リーグは大会の1週間前まで。
問題は各代表チームの準備期間の短さだけではありません。過密日程が選手を苦しめてきたこと。
欧州は通常、シーズンが8月に始まり、翌年5月まで9カ月で行われます。今回は約1カ月のW杯の中断のため、8カ月間に詰め込む形。
W杯が冬開催となったのは、夏に気温40度を超えるカタールで開催を決めたから。
そもそも開催地決定には「政治的な圧力があった」と国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター前会長が発言。理事にたいする買収などの疑惑は、決定後にも何度も浮上。
スポーツに、政治的圧力や買収などあってはいけません。
サッカーW杯 光と影① 出稼ぎ労働者6500人死亡
サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会が20日、開幕します。中東で迎える初の大会は、さまざまな課題を抱えています。大会の光と影を追いました。
(和泉民郎、ベルリン=桑野白馬)
「お願いだ。いまはフットボールに集中しよう」。国際サッカー連盟(FIFA)のインファンティノ会長が、32の出場国にこんな書簡を送ったことが今月初めにわかりました。移民労働者や性的少数者(LGBTQ)に対するカタールへの抗議が高まりをみせているからです。
同国には外国人労働者の人権侵害が根強く存在しています。
英メディアや国際人権団体によると、2010年にW杯開催が決まって以降、インドやバングラデシュなどの出稼ぎ労働者のうち、実に約6500人が亡くなっているといわれます。劣悪な労働環境によって、事故が相次いだためです。
外国人労働者が全体の9割を占めているといわれる同国では「カファラ(保証人)」と呼ばれるあしき労働制度がありました。
ワールドカップ会場の芝を張る外国人労働者=2021年11月、カタール・ルサイル(ロイター)
雇用主が身元保証人となり海外からの労働者を受け入れるもので、採用に高額の手数料を取ったり、休日も与えず長時間労働を強制したり、何カ月にもわたる賃金を支払わないことも横行しています。さらにパスポートを取り上げ、離職、転職、出国には雇用主らの許可が必要とされています。現代の奴隷労働ともいわれる実態がここにあります。
この制度は国際的な批判を浴び17年、政府は制度の廃止と労働条件の改善を約束しました。しかし、W杯のための七つの新設スタジァムや空港、地下鉄建設を含む30兆円ともいわれる巨大インフラ整備の多くが実施された後でした。
ヒューマン・ライツ・ウオッチなど国際人権団体は「進歩がみられる一方で、人権侵害は根強く残っている」と批判し、カタール政府、FIFAに対し、基金を作り被害を受けた労働者の補償を強く求めています。
スポーツと人権不可分
サッカー界からも人権侵害への批判の声が上がります。
ワールドカップ(W杯)予選では、ノルウェーやドイツの選手たちが「HUMAN RIGHTS」と書かれたシャツを着て抗議しました。
ドイツ代表のヨシュア・キミッヒ選手は「状況を変えるには相当の圧力をかけることが重要だ」と訴えています。今秋、ベルギー、フランス、米国ら七つのサッカー協会が救済基金設立を求めており、“身内”からもその声は高まっています。
カタールでは同性愛が違法です。今月には大会アンバサダーの元カタール代表が、同性愛は「精神の傷」と発言し批判を浴びました。
FIFAに抗議する国際人権団体のポスター=11月7日、オーストリア南部グラーツ(桑野白馬撮影)
オーストラリア代表は10月、「性的少数者の権利を擁護する。カタールでは自らが選んだ人を愛することはできない」とするメッセージ動画で抗議の声を上げました。
ドイツ同性愛者協会は国際サッカー連盟(FIFA)にたいし、「汚職と人権侵害、LGBTQ(性的少数者)と女性の弾圧の上に成り立つ大会」「W杯の勝者はいない。人権はすでに負けた」と表明しています。
欧州内の主要都市では人権問題にたいする抗議から、試合のパブリックビューイング中止が相次ぎ、フランスでは10都市が取りやめを決めています。
FIFAは人権間題に、どう向き合ってきたのでしょうか。
カタールの開催地決定によって世界から批判を浴びたため12年、今後の開催地選定基準に人権を加えました。その後、国連の人権基準に基づきFIFAの組織改革を開始し、カタールにも人権上の改善を促してきたことは事実です。しかし、補償問題を含め、その多くが不十分とのそしりは免れません。
「スポーツと人権は深く絡み合っています。健全な形で国際的大会を開催するならカタール政府もFIFAも人権と向き合い、改善のために具体的な対策を取ることが必要です」。国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウオッチの笠井哲平アジア局プログラムオフィサーは指摘します。
五輪も含め、スポーツにとって人権が不可欠で、その軽視がいかに重大な結果を招くのか。カタール大会は鋭く突き付けています。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年11月17日付掲載
カタールの外国人労働者。「カファラ(保証人)」と呼ばれるあしき労働制度。雇用主が身元保証人となり海外からの労働者を受け入れるもので、採用に高額の手数料を取ったり、休日も与えず長時間労働を強制したり、何カ月にもわたる賃金を支払わないことも横行。
カタールでは同性愛が違法。今月には大会アンバサダーの元カタール代表が、同性愛は「精神の傷」と発言し批判を。スポーツと人権は深く絡み合っています。健全な形で国際的大会を開催するならカタール政府もFIFAも人権と向き合い、改善のために具体的な対策を取ることが必要。
変わる高校野球③ 鳥取・米子東高校 研究・発表通じて強豪に
野球に関わる研究を行う同学会で発表するのは、ほとんどが研究者や大学院生です。
しかし、米子東高は2018年から発表しています。先進的な理数教育を実施するために行われる「スーパーサイエンスハイスクール事業」指定校の同校には「課題探究応用」という授業があり、野球部の2年生は野球に関するテーマを扱っています。
けがから着想
今回発表したのは「腰椎分離症の治療期間中に適切なトレーニングをすることでパフォーマンスの向上は可能か」と「前の回の守備内容が次の回の攻撃に影響するのか」をテーマにした2班。
「腰椎―」の班では、投手である山崎壮選手自身が経験した故障から着想。治療期間中に医師や理学療法士からの助言をもとに、柔軟性の向上や体幹強化のメニューを実践し、可動範囲や筋力などの変化を記録していきました。約4カ月の治療から復帰したあと、球速は落ちることなく、1・6キロ向上していました。
「けがの復帰に向けた取り組みの事例が少なかった。ここで実践例を発表することで、同じけがをした選手の役に立てるかもしれないとも思った」(山崎選手)
発表で参加者からの質問に答えた藪本鉄平選手は「楽しかった。この機会に経験できたことは自信になる」と話しました。
「前の回の守備内容―」では、「ピンチのあとにチャンスあり」という言葉が本当なのかという疑問から、全国大会の試合結果151試合分を分析しました。その結果、前の回の守備内容と攻撃の結果には、有意差(偶然に起こったとは判定できない差)はないが、有意傾向が見られました。
瀬川凛太郎選手は「野球でよく言われる“流れ”には選手のメンタルが関わっていると分かった。流れをつくるのは自分たちの気持ちなんだと分かれば、どう行動すべきか考えることができる」と語ります。
徳丸航祐選手は「チャンスをつぶして落ち込むチームは負けていくという感覚があったが、データでもそうだった。これを知ることで試合での心構えが変わると思う」と話しました。
これまでの卒業生の研究テーマは「ゴロを打て、は正しいか」「表情や姿勢、言動はパフォーマンスに影響するか」「動画を使った練習は動作習得に有効か」など。高校野球で当たり前だと思われていた作戦を見直したり、新しい練習方法の効果を検証したり、自由な発想のものばかりです。
野球科学研究会で発表した米子東高の(左から)瀬川、山崎、徳丸、薮本の各選手=11月27日、石川県金沢市・金沢星稜大学
自信になった
県内有数の進学校として知られる同校では部活動のあとに学習塾に通う部員もおり、平日の練習は2時間半もとれません。それでも19年には23年ぶりに春の選抜に出場。同年夏にも甲子園の土を踏むと、21年夏にも県大会で優勝し甲子園へ。県内外の私立高校とも互角以上にたたかえるチームに成長しました。
紙本庸由(かみもと・のぶゆき)監督(40)=同校保健体育教諭=は、野球や指導に関する情報を積極的に集めることで練習の効率を上げてきました。「選手には、目標を設定して達成するための習慣を形成しようと話しています」といい、そのために研究と発表の経験が役立ったといいます。
山崎選手は「目標と課題を明確にして、それに一向けて有効な方法でアブ一ローチすることを学べた」といい、練習メニュー一つにも根拠を考えるようになったと話します。
取り組みが結果につながったことで、選手たちが自信を持つようになりました。
「研究を通じて科学的な考え方を身に付け、野球も強くなった。それによって選手に自信が生まれました。地方でも公立校でも進学校でも、強くなれるんだと。レベルの高い大学で野球を続ける選手や、プロを目指す選手の数が増えています」(紙本監督)
従来の野球指導を見直し、根拠のある練習で野球と向き合う米子東高の姿勢は、全国から注目されています。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年12月11日付掲載
けがの治療期間中に医師や理学療法士からの助言をもとに、柔軟性の向上や体幹強化のメニューを実践し、可動範囲や筋力などの変化を記録。復帰したあと、球速は落ちることなく、1・6キロ向上。
「ピンチのあとにチャンスあり」という言葉が本当なのかという疑問から、全国大会の試合結果151試合分を分析。「野球でよく言われる“流れ”には選手のメンタルが関わっていると分かった。流れをつくるのは自分たちの気持ちなんだと分かれば、どう行動すべきか考えることができる」
ただただしゃにむに頑張れば良いってもんじゃない。スポーツにも科学がある。
変わる高校野球② 大阪・独自リーグ戦 成功体験が選手伸ばす
10月の日曜日、大阪府東大阪市の府立花園高校グラウンドで、同校と府立香里丘(こうりがおか)高校(枚方市)が独自リーグ戦「リーガ・アグレシーバ(スペイン語で『積極的なリーグ』)」の公式戦を行いました。負けたら終わりのトーナメントが主流の高校野球ながら、リーグ戦には、選手を伸ばすルールや工夫がありました。(山崎賢太)
外野に飛んだヒット性の当たりを、落下点に駆け込んだ外野手が捕球すると、周りから「ナイス!」「いいプレーだ!」と声が上がりました。
継投、代打、代走が頻繁に送られ、次々とベンチから選手が飛び出していきます。
選手同士の声がけは自然で前向き。好投する投手がベンチで「頼むわ、点取ってくれ。俺、のってきてるから!」と明るくチームを鼓舞します。
特殊なルール
毎年10月から11月にかけての週末を使って行われるこのリーグには、特殊なルールがあります。
投手は1試合の球数制限と、50球以上投げた場合の連投制限があります。また、1日2試合消化する際はベンチ入りした選手全員を一定イニング以上出場させなければいけません。
バットは木製か低反発金属バットを使用。投手は直球中心で変化球は肘への負担が比較的軽いカーブとチェンジアップが推奨されます。
部員の多い高校は複数のチームでエントリーでき、多くの出場機会を保証します。
2015年に大阪の6校ではじまったこのリーグは、毎年参加校を増やし、いまや14都府県約80校に広がり、それぞれの地域でリーグ戦が行われています。
創設当時から関わる香里丘高の藤本祐貴部長(28)=同校保健体育教諭=は「それぞれのルールに目的があって、それは選手にうまくなってもらうこと、けがをさせないことにつながっています」と語ります。
中でもバットの規制は効果が大きいといいます。「選手たちに力がつきました。試合用として販売される従来のよく飛ぶ金属バットとは違うので、体全体を使ったスイングが必要です。ボールをとらえるポイントが体の近くになって、手も足も出なかった強豪校の投手からもいい当たりが出るようになりました」
プレーする選手たち=大阪・東大阪市の花園高校グラウンド
失敗が経験に
香里丘高ではリーグ戦期間中は平日をすべて自主練習にしています。「毎週末試合があるので、そこで課題を持ち帰ることができる。平日の練習で改善し、次の試合でうまくいけば成功体験になりますよね。失敗したなら成功するまで改善を繰り返せばいいんです」
花園高の山住将也監督(35)=同校社会科教諭=もリーグ戦の効果を実感しています。「試合後のミーティングでも、選手自身でチーム全体について話し合えるようになりました。試合から得られる課題は具体的なので振り返りやすい」
同校の榛田(はりた)雅人部長(54)=同校保健体育教諭=は言います。「最後の夏の公式戦はトーナメントなので、エース格にはこのリーグよりも多くの球数を投げてもらうことがあります。でも、普段から投げ過ぎないようにしているから少し無理できる余裕がある。もちろん控えもリーグで育っているから、継投もできる。チームが強くなりますよ」
リーグに取り組む思いを指導者は、こう語ります。
「高校野球がけがをして終わり、公式戦に出ないまま終わりだと、選手が将来、自分の子どもに野球をやらせたくなるだろうかと疑問に思います。野球の発展を考えると、大学野球やプロを目指さない子でも自分で考えてうまくなる経験をして引退してほしい」(香里丘高・藤本部長)
「同感です。やっぱり“野球ってええな”で終わってほしいです」(花園高・山住監督)
2試合を終え、上級生同士のアフターマッチファンクション(試合の振り返り)とグラウンド整備を済ませた選手たちは、午後3時ごろに帰宅しました。
「早くていいでしょう。このくらいの時間に帰れたら野球以外のこともやれる。高校生なんやからそういうのも大事です。その時間で勉強をするかは知らんけどね」。花園高・榛田部長は笑いました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年12月9日付掲載
リーグ戦なので、一度負けたら終わりでなくって、チームも選手も出場機会が増えます。
木製か低反発金属バットを使用、投手は直球中心で変化球は肘への負担が比較的軽いカーブとチェンジアップが推奨。選手に力がつくように。
野球を楽しんでもらえるように。
変わる高校野球① 神奈川・市ケ尾高校 米国流「球数制限」導入
高校野球に古くからある指導や練習を見直す指導者やチームが、各地で出てきました。指導が厳しく、けがが多い、練習が長いというイメージが強かった高校野球に起こっている変化を追いました。(山崎賢太)
1試合の投球数に応じた休養日を定め、「独自の球数制限」をつくるチームがあります。
神奈川県立市ケ尾高校(横浜市青葉区)野球部のロッカーには「市ケ尾ピッチスマート」と名付けられた表が張り出されていました。
2、3年生だと試合で106球以上投げた投手は休息日(投球をしない日)を5日とること。85球までなら3日、70球までなら2日―と、細かく定められています。公式戦だけでなく練習試合やシート打撃(実戦練習)での全力投球にも適用しています。
菅澤悠監督(34)=同校保健体育教諭=が、赴任した5年前に設定しました。投手の投げ過ぎを防ぐため、投球後の回復期間が必要と感じたといいます。「前任校で指導していた頃から連投をさせない方針はありましたが、はっきりした基準がなかった。アメリカの指導で使われるピッチスマートという目安を知り、それをもとに日本の高校生でも可能な球数を探り、何度か改めながらいまの形に落ち着いています」
練習で打撃投手をつとめる菅澤監督(右)=市ケ尾高校グラウンド
投手陣が成長
基準があると先発して長く投げた投手の連投がなくなり、練習試合でも多くの投手が登板できます。そのため、「控えだったり、3番手以降だった投手がよく伸びるようになりました」。
この球数制限を導入してから、チームは公式戦で結果を残すようになりました。2018年夏の北神奈川大会ではベストー6に進出。勝ちあがりを想定した投手のローテーションを組み、ノーシードから4回戦まで進みました。
エースに頼るのではなく多くの投手に役割があり、総合力の高い投手陣をつくることができたのです。「試合に出て課題を見つけることで練習に目的が生まれ、上達につながります」
ある2年生投手は、この環境で自分の体をコントロールする技術が身についたと語ります。「硬式野球クラブでプレーした中学生の頃は投げ過ぎて肘を痛め、調子が戻らなくなることがありました。ここでは投げ過ぎることがないので、投球後のアイシング、ストレッチ、休養で本来の調子に戻すことができる。不安のない状態で投げられるようになりました」
指導者が学ぶ
菅澤監督が米国のピッチスマートを知ったのは、指導者向けの研修会に参加したときでした。また、栄養についての講習を受けたり、科学的根拠に基づいた指導について情報交換したりするオンラインサロンなどを活用し、新しい理論や情報を学び、取り入れるものを選んでいます。
球数制限に対し“エースを完全燃焼させるべき”という声が上がることがあります。このことについて尋ねたときの、菅澤監督の答えが印象的でした。
「そのエースが完全燃焼したところで、他の選手は不完全燃焼ですよね。他の投手が投げても大丈夫という状況をつくるのが指導者の仕事だと思います。エースがたくさん投げて疲れたなら、その日は違う投手で投げて、次の試合はエース頼むよ、と送り出すのがうちのチームです。途中で負けることもありますが、1人のいい投手に無理させれば勝てるのかというと、それはわからない話なので」
取材した日は平日の夕方。練習開始から1時間ほどでグラウンドの日が落ち、あっという間に下校時刻になりました。
「限られた時間をどう使うのかも勉強です。限られているからこそ、何事も根拠があることをやらないと」
従来の野球指導を見直し、工夫しながら取り組むチームの挑戦は続きます。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年12月8日付掲載
投手の投球制限。高校野球では、画期的ですね。
エースだけでなく、控えの投手や三番手などの成長の機会を与えるんですね。