仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

日本古代史クライシス

2009-04-08 13:53:10 | 生きる犬韜
今年も真田堀の桜が満開になった。5日(日)の朝、新入生オリエンテーションキャンプに参加するために早朝四ッ谷に出てくると、風もない真田堀の道に森閑と桜が佇んでおり、時間が止まったかのような錯覚を覚えた。
さて、今年のオリキャンを支えるヘルパーさんたちはかなりしっかりしていて、こちらがほとんど指示を出す必要もなく、極めてスムーズに滞りなく日程を消化することができた。感謝である(帰りのバスのなか、ヘルパーの女子にかなりのアニメ・フリークを発見したのも面白かった)。しかし個人的にへこんだのは、日本史・東洋史・西洋史のゼミを説明する段階で、日本古代史をやりたいという学生が一人もいなかったこと。毎年少なくなってきているなあという印象はあったのだが、皆無というのは初めてだった。現実主義的問題から近現代史を選ぶという傾向は年々強まっているし、「レキジョ」をはじめとしてサブカルの世界も近世史が席巻しているので、古代の魅力をアピールするファクターが社会から消えつつあるのだろうか。史料編纂所で働いている妻から聞いたところによると、東大でも、今年駒場から進学してきた学生で古代史を選択したものはゼロだったという。どうやら上智だけの情況ではないようである。

7日(火)は、幾つか事務仕事を片付けるために出勤。今年も1年生の担任なので、時折履修登録のことで新入生が相談に来る(「東洋史と西洋史どちらを勉強するか迷っているんですが、第二外国語はどうしたらいいでしょう」みたいな質問ばかりなので、ちょっとテンションが下がる…)。そのうち、新旧のゼミ長や4年生が今年のゼミの運営や卒論のことで相談に来て、研究室はほとんどサークルの部室状態になってしまった。そこで、昨年度の卒業生でコーエーにシナリオライターとして就職したM君の話が出て、古代史をサブカル的に活性化するためにゲームの企画を立て、M君に提出しようなどという妄想話になる。タイトルはもちろん「平安無双」。遷都から治承寿永までの平安京を舞台に複数のシナリオを組み、古今無双の強者たちが活躍する。登場キャラクターは一般受けを考慮して、君主系として桓武天皇・一条天皇・後白河法皇、呪術師系として空海・空也・源信・安倍晴明、武士系として坂上田村麻呂・源頼光・源義家・平清盛・源義経、軍師(政治家)系として藤原良房・藤原実資・藤原道長・大江匡房、女性キャラとして中宮彰子・清少納言・紫式部・和泉式部、化物系として早良親王・菅原道真・平将門・酒呑童子、アマテラスとスサノオが隠しキャラ。これらが有名事件(応天門の変・承平天慶の乱・保元平治の乱など)や伝説(大江山の鬼退治など)をモチーフにした特定のシナリオにおいて、対立し合い、協力し合いながら闘ってゆく。例えば桓武が主人公のシナリオ「平安遷都決戦」では、槌音響く遷都以前の平安京が舞台。早良親王の祟りによって生み出された亡霊、遷都反対派の武力工作部隊らの妨害を排除しつつ、それらに恐怖した役民が逃亡するのを防いで造京を完成させる。桓武の必殺技は「軍事と造作」で、これを発動すると蝦夷征討軍から戦勝の報告がもたらされ、役民の造作意欲が向上して一定時間工事のスピードが上がる。ある程度造作が進むと早良自身の御霊が出現し大打撃を受けるが、蝦夷を征討した坂上田村麻呂が凱旋して味方に加わり、協力して御霊を鎮圧できれば遷都成功となる。あくまでファンタジーとして、多少の史実改変があっても構わないだろう(史学科教員の言葉として正しいのか?)。呪術師系の必殺技なんて妄想が爆発状態になるし(空也は口から6体の阿弥陀仏を吐いて自分を守護させる、源信は聖衆を召喚して敵を強制的に往生させてしまう)、将門の東国平定などの番外編、女性キャラの後宮における競演なども楽しい(モモは、対抗勢力の妨害を排除して自分の仕える后妃のもとへ天皇を連れてゆき、皇子を懐妊させるというシナリオがよいといっていた)。
まあ購買層のことを考えると現実的ではないが、いずれ戦国系はネタが切れるだろうから、未だ安倍晴明ブームの残り火がある現在、やっておくべきことがあるのではないだろうか(そういえば、かなりグロいが一種の名作ともいえる晴明ゲーム、『九怨』※1はどれくらい売れたのだろう?)。もうすぐ平城遷都1300年だし、せんとくんを隠しキャラにして、「平城無双」もできるかも(平安以上に売れないだろうな)。

※1 『九怨』は、安倍晴明と芦屋道満の壮絶淫靡な戦いを、太秦の「蚕の社」を舞台に描いたホラー・アドベンチャー。晴明は冷徹無比な女性として描かれる。もはや生産していないようで、amazonにはコンプリートガイドの写真しかなかった(間違いでした。まだ売っているようです。もろさんの指摘で訂正)。プレイしたい人は私まで。

ところで、先日〆切のあった「歴史学とサブカルチャー」第5回では、「オオカミが変えてゆく歴史叙述」と題して『神なるオオカミ』の問題を扱った(5月10日発売の『歴史評論』に掲載)。そこでも言及し、このブログでも時々語っているジャック・ロンドンの名作『白い牙』。先月、光文社から待望の新訳が刊行された。必見です。左は、昆明の空港で手に入れた『神なるオオカミ』の原書『狼図騰(オオカミ・トーテム)』。
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4 Comments

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怖そうなゲームはやりたくない (もろ)
2009-04-08 16:50:42
『九怨』はかなり惹かれて買おうかと思ったんですが、怖いのがとても苦手なので買ってません。Amazonでまだ売ってるなぁ(http://www.amazon.co.jp/dp/B0001GQ8MC)。
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訂正しました (ほうじょう)
2009-04-08 17:24:23
おっ、単純ミスでした。まだ買えますね。蚕ノ社ですから、太秦フリークとしては怖さを克服してプレイすべきでは。
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どっちがクライシス!? (Mツ下)
2009-04-08 21:16:03
今まで何度かブログに登場させて頂きながら、コメントはこれが初めての不孝もの、Mつ下です。すみません。皆様との企画会議、私も参加したかったです。アテルイも出しましょう。

現在はまだ見習い以下の身分なので社員目線のどうこうは申し上げられませんが、私としては平安無双は絶対にナイことも無い…のではと思います。ただ、殴りあう貴族たちはともかくとして、皇族や僧侶がそのままの姿で一騎当千したり攻撃で吹っ飛ばされたりする画は恐らく見られないでしょうね。
強制的に往生って何すか。

ちなみに、むかし「藤原京エイリアン」というマイコンソフトを出していたことはあります。内容は……私も知りたいところです。

ともかくも、私は幸せ者です。
ご期待と応援をありがたく力に変え、いつか皆様に還元すべく奮闘していきたいと思います。
コーエーと歴史ゲームをこれからもどうぞ宜しくお願いします!
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すみません、悪ノリしました (ほうじょう)
2009-04-08 21:52:27
Mツ下君、お勤めお疲れさまです。

そうだよなあ、「殴り合う天皇たち」は無理だよなあ。道賢が地獄で道真と戦いながら醍醐天皇を救うってのもだめか。まあいいや。『無双OROCHI』で清盛と義経までは行ったんだから、あと少しのがんばりで何とかなるよね。

それにしても、「藤原京エイリアン」? 子供の頃、平安京エイリアンはゲームセンターでよくやったが。会社発足当時のパクリですな。昔はみんなやってたよ、そういうこと。
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