【メジャーデビューの孫まさえさんが熱唱・熱演!】
沖縄観光の後は那覇市の繁華街にある「仲田幸子芸能館」で沖縄民謡などを堪能した。〝沖縄喜劇の女王〟として知られる仲田幸子さん主宰の「劇団でいご座」のホームグラウンドだ。幸子さんとその娘で2代目の明美さん、さらにその娘の3代目まさえさんを中心に仲田ファミリーが連日、沖縄民謡や琉球舞踊などを披露してくれる。看板娘は2年前ソロアルバムを発表しメジャーデビューを飾ったまさえさん。その透明感あふれる歌声や愉快なステージに魅了され、結局3日間通い続けた。(写真は三線を弾きながら『ハイサイおじさん』を歌う孫の仲田まさえさんと、独特な身振り手振りでおじさん役を演じる仲田幸子さん)
座長の仲田幸子さんは1933年生まれ。劇団に入ったのは終戦直後、12歳のときだった。芸歴は実に70年に及ぶ。この間、喜劇芝居の第一人者として沖縄の大衆芸能を引っ張り、1997年には沖縄県文化功労者として表彰された。80歳を過ぎた今も現役。今年も9月19日に「でいご座」の敬老の日公演を行い、芸能館でも毎晩舞台に上がる。
芸能館のライブは孫のまさえさんたちの歌と演奏で始まる。まず『安里屋ユンタ』『沖縄ジントーヨー』など3曲。太鼓、三線、三板(さんば=カスタネットのような小さな打楽器)のリズミカルな演奏が心地良い。さらに『豊年音頭』や琉球古典舞踊、少しHなお笑い舞踊などが続く。盛り上がったところで幸子さんの登場だ。「カギ閉めて。(お客さん)逃げるなよ。ストレスたまれば糖尿病。健康で楽しく生きようよ。生きてる限り死なないさぁー」。挨拶が終わると、まさえさんたちの『ハイサイおじさん』の演奏に乗り、独特な身振り手振りでおじさん役を演じた。
幸子さんはカウンター内で座って『泡盛の歌』も歌ってくれた。まさえさんは伸びやかな歌声で母の明美さん(上の写真㊨の左側)と一緒に歌ったり、伯母の和子さん(下の写真㊧の右側)と2人で琉球舞踊を披露したり。『オジー自慢のオリオンビール』では「新築祝いであっり乾杯 誕生祝いであっり乾杯……」に合わせお客さんもグラスを高く掲げて「乾杯」を繰り返す。最後はステージ前で三線の速弾きに合わせ、お客さん総立ちでにぎやかにカチャーシー。毎晩、舞台と観客席が一体となった楽しいひとときを過ごさせてもらった。
ステージ上でひときわ輝きを放つまさえさんだが、高校卒業後は上京を目指し新聞配達などで資金を貯めていたという。祖母が主宰する劇団「でいご座」で沖縄芝居の世界に入ったのは20歳の頃。母明美さんが舞台を休んだとき急遽代わって舞台を踏んだのが転機となった。その後、三線や琉球舞踊、太鼓、三板などを猛練習。三線では琉球民謡協会の最高賞を受賞し、舞踊でも新人賞を受賞した。さらに空手小林(しょうりん)流の有段者(4段?)でもある。ステージでも剣を手に動きに切れのある見事な舞を披露してくれた。歌うときの柔和な表情が一変、きりりと引き締まった表情が印象的だった。
キングレコードから発売されたまさえさんのソロアルバムのタイトルは「まさえ自慢のうちなーソングス」。BEGINの『三線の花』『オジー自慢のオリオンビール』、前川守賢の『世界報でーびる』、照屋正雄の『ちょうんちょうん節』などのカバー曲に加え、沖縄のフォークデュオ「アイモコ」に作ってもらったオリジナル曲『おばあちゃんの花』など全10曲入り。『安里屋ユンタ』や『沖縄ジントーヨー』ではバックで祖母と母のコーラスも入る。
『おばあちゃんの花』の歌詞とメロディーがとても素晴らしい。「♪響きわたるのは 私の名を呼ぶ 元気いっぱいの大きな声 笑わせることが 好きなおばあちゃん 膝の痛みすら忘れてる 嵐のときでも お店を開けるの 心細い人招くために 胸に咲いている 朱赤のでいご ありがとうの花 笑顔の花」。まさにおばあちゃん幸子さんのことを歌った内容だ。5年前ドキュメンタリー映画『オバアは喜劇の女王 仲田幸子沖縄芝居に生きる』(出馬康成監督)が公開された。その中でまさえさんは祖母のことをこう話していた。「笑いでみんなに幸せをあげるために生まれてきた人だと思う」。まさえさんは「おばあちゃんの元気が全ての源にもなっている」とも話す。
【追記】
今回の沖縄旅行は男3人・女1人の4人連れ。そのうちの1人「T.T」が大の沖縄ファンで、この旅行計画も全て立案した。頻繁に沖縄を訪ねては「仲田幸子芸能館」に通ったという。いわば馴染みのお店。今回も親子三代と一緒に写った写真を持参していた。ところが初日入店しても誰も気づかない(自らは名乗らなかった)。彼の落胆ぶりといったら。6年ぶりのうえ、この間に髭を伸ばし容貌も隋分変わっていた。まあ、仕方ないか。ところが翌日のこと。まさえさんの伯母和子さんが突然思い出したように大きな声で彼の名前を叫んだ。「T.T」と。そのときの彼の喜びようといったら。「さん」付けではなく呼び捨てだったところに、逆に芸能館の方々に親しく受け入れられていたように感じた。
その後、まさえさんに誕生祝いの花束とケーキが届いた(上の写真)。贈り主はなんと「T.T」。いつ、どうやって手配したのか。連れの私たちはただキョトンとするばかりだった。芸能館ではステージとステージの間にお客さんもカラオケを楽しめる。私たち4人を代表して女性が得意の演歌を披露した。すると翌日、座長の幸子さんがわざわざ客席まで来られて「もう一度歌を聴かせて」。お店の方によると、幸子さんがお客さんに歌を所望することはこれまでになかったことという。これには私たち男性陣も鼻高々だった。