く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「人生の気品」

2018年01月24日 | BOOK

【新日本出版社発行、著者=草笛光子、赤川次郎ら15氏】

 『しんぶん赤旗日曜版』の連載「この人に聞きたい」(2014~17年)に登場した著名人のインタビュー記事を加筆・修正したもので、16年に発行した『人生の流儀』の続編。今回も作家や俳優、映画監督、写真家、漫画家、物理学者など各界の一線で活躍する15人を取り上げている。女性が草笛光子、鳳蘭、渡辺えりら6人、男性が赤川次郎、宝田明、周防正行、梶田隆章ら9人。人生の転機や仕事にかける情熱、戦争や平和への思いなどを、苦労話やエピソードも交えながら率直に語っており、有名人の知られざる一面を垣間見ることもできる。

       

 長年、舞台・映画・テレビで活躍してきた草笛光子さんは「声量を自在に調節するには、背筋、腹筋が欠かせません。1に筋力、2に筋力です」と語る。「70代でも80代でも、いつまでたっても人生の〝新人〟なのではないでしょうか。いつだって転機。『新しく出発だわ』と思っています」とも。草笛さんは日本ミュージカル界の第一人者。本書の中で宝田明さんも草笛さんとブロードウェーで『マイ・フェア・レディー』を観劇した際のエピソードに触れている。草笛さんは人生の軌跡を日本経済新聞朝刊の「私の履歴書」でいま長期連載中。

 映画監督周防正行さんの代表作にあの『Shall we ダンス?』。「電車を降りてダンス教室という知らない場所に足を踏み入れたら、どういう世界が広がっていくか。そういうサラリーマンの冒険物語が、この映画のテーマだったんです」。作品の中には冤罪の痴漢事件を題材とした『それでもボクはやってない』もある。「裁判官や裁判員制度など、司法に関するテーマは今後もやりたい。僕のライフワークです」。『Shall we ダンス?』では本書に登場する渡辺えりさんもオバサンダンサー役で名演技を披露した。劇団「オフィス3○○(さんじゅうまる)」を主宰し演出家・劇作家としても活躍中の渡辺さんは「自分の演劇では、お客さんに『よし、明日もがんばろう』と思ってもらえるよう、連帯のエールを送りたい」と話す。

 前進座の看板役者で、2016~17年の創立85周年特別公演『怒る富士』で主役を演じた嵐圭史さんは「一に情熱、二に体力、三、四がなくて、五にいささかの知恵」をいつも自分に言い聞かせているそうだ。俳優・作家の高見のっぽさんは子どもを「小さいひと」と呼ぶ。幼少時に「私を悲しませたり痛めつけたり無作法で思い上がったりするようなおとなにはなりたくない」。だから子どもにも「言葉づかいも接し方も、自分の持っているうちの最高の礼儀正しさで敬意を表します」。ノーベル物理学者の梶田隆章さんは「国立大学法人化以降、多くの大学が急激に弱体化し、研究力が落ちています。手遅れになる前に、研究力回を打つことが必要」と、日本の研究環境への危機感を訴える。

 登場人物の中には出征したり幼少時を戦地で過ごしたりした人も多い。画家の野見山暁治さんは満州(中国東北部)の傷痍軍人療養所で終戦を迎えた。戦後、同郷の友人宅を訪ねると家族から「どうしてあなたは生き残っているんだ」と言われ、仏間で「なんでせがれも病気にならなかったんだ」と泣かれたという。野見山さんはその後、戦没画学生の遺作の収集に奔走し「無言館」(長野県上田市)開設に尽力した。宝田明さんも同じ満州で11歳の時侵攻してきたソ連兵の銃撃を受け、悲惨な引き揚げも体験した。渡辺えりさんには父の戦争体験を基に書いた『光る時間(とき)』という作品がある。戦後小学校の教師になったその父はよくこう口にしていたそうだ。「あの時、人を狂わせ、僕を軍国少年にした教育とは何か。その謎を解きたいんだ」。

 作家・精神科医の帚木蓬生さんの父は戦時中、香港駐在の憲兵で戦犯として巣鴨に収容された。「日本が外国を侵略した罪は消えません。前の世代がやったことだから、もう水に流そうというのは大間違いです」。渡辺美佐子さんの「戦後35年の『対面』」の話も印象深い。小学5年の時、転校してきた赤いほっぺの男児に淡い思いを寄せる。その男児に会いたい一心で、1980年にテレビのご対面番組で探してもらった。だが、カーテンの陰から登場したのは男児ではなく、そのご両親だった。男児は疎開先の広島で原爆に遭い12歳で亡くなっていた。遺体も遺品もなく、まだ墓も造れないと嘆くご両親は渡辺さんにこう声を掛けた。「あの子のことを覚えているのは家族だけと思っていたのに、35年も覚えていてくださり、ありがとうございます」。それをエッセーにした『りんごのほっぺ』は国語授業の教材にもなった。渡辺さんはその後、仲間の舞台女優たちと長年、原爆朗読劇に取り組んでいる。


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