【65年前発見の突然変異による〝枝変わり〟が転機に】
イヨカンの主産地はその名が示すように〝柑橘王国〟といわれる愛媛県。生産量は全国の約9割と圧倒的なシェアを誇る。高さ3~4mの常緑低木で、5月頃、枝先に甘い香りの真っ白な5弁花を付ける。花径は約4cmと、キシュウミカン(コミカン)のほぼ2倍の大きさ。イヨカンはミカン類とオレンジ類の性質を併せ持つことから、両者の交雑種ではないかとみられている。
イヨカン発祥の地は山口県。今から約130年前の1886年、現在の萩市内の農園で〝偶発実生〟として発見された。その苗木を松山市の三好保徳さんが入手したのを機に、市内の柑橘農家の間で栽培が広がった。以来「伊予蜜柑」と呼ばれていたが、その名前では愛媛県産ウンシュウ(温州)ミカンと誤解を招くとして、昭和初期から「伊予柑」と呼ぶように。ただ果実自体の人気は酸味が強いことなどもあっていまひとつだったという。
転機となったのは65年前の1955年のこと。松山市郊外の果樹園で宮内義正さんが他の枝より大きな実を付けた〝枝変わり〟を偶然見つけた。栽培を重ねた結果、在来種より甘く実付きもいいことから、1966年に「宮内伊予柑」として種苗登録した。近年、果皮に光沢があって美しい「大谷伊予柑」や早生系の「勝山伊予柑」など新品種が次々に生まれている。だが「宮内伊予柑」の栽培量は今も他を圧倒する。〝枝変わり〟発見からちょうど60年の2015年、松山市内では「宮内いよかん還暦祭」と銘打った記念イベントが開かれた。