【湿地に生えるハナショウブと異なり草原に自生】
アヤメ科アヤメ属の宿根草。一般にアヤメという場合、アヤメ属の総称として使われることが多いが、狭義では日本から朝鮮半島、中国東北部、ロシア南東部にかけて分布する少し赤みを帯びた紫色の花のアヤメを指す。同じアヤメ属のハナショウブ(花菖蒲)やカキツバタ(杜若)が水生なのに対し、アヤメは陸生で乾いた草原などに生える。草丈は30~60cm。5月頃すくっと立ち上がった茎の先端にふつう2個の蕾を付け順々に開く。
花冠は外側に垂れる大きな外花被片3つと直立する小さめの内花被片3つから成る。そのうち外側の花弁付け根の黄色地に網目模様が入るのが大きな特徴。アヤメの名前はその網目模様に由来するという説や、細長い剣状の葉が整然と立ち並ぶ様子を織物などの文目模様にたとえたといった説などがある。漢字の菖蒲は「ショウブ」とも読む。その場合は菖蒲湯などに使われるショウブ科(旧サトイモ科)の植物で、アヤメとは全く別のものを指す。
学名は「Iris sanguinea(イリス・サングイネア)」。属名はギリシャ語で「虹」を意味し、ギリシャ神話の虹の女神の名に因む。種小名は「血紅色の」を意味する。アヤメには白花もあり、また草丈が10~20cmと低い「チャボ(矮鶏)アヤメ」(三寸アヤメとも)や「トバタ(戸畑)アヤメ」などの矮性種もある。アヤメは宮城県多賀城市や茨城県潮来市、大分県日田市などで「市の花」になっており、各地に「あやめ園」や「あやめパーク」もある。ただ、そこでいうアヤメはより華やかで種類も多い古典的園芸植物のハナショウブを指すことが多いようだ。「思はずもあやめ咲きゐつ城の中」(武定巨口)