酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

「失踪者」と「審判」

2008-01-01 00:03:25 | 演劇
今年の締めくくりのブログです。観た後ずっと書けなかった芝居のことを、最後に書きます。
十一月後半と十二月の始めの二回、三軒茶屋シアタートラムで「失踪者」と「審判」見ました。構成・演出はどちらも松本修、作者はフランツ・カフカです。
12月で国内ツアーも終わりました。

すぐにブログに書けなかったのは、原作を読んで見たくなったからです。もしこの芝居に出会わなければ、カフカの小説を読むことは無かったと思います。二つの芝居に刺激を受け、原作を読まないではいられない気分になりました。

まず「失踪者」はすでに読売演劇大賞優秀作品賞ほかを受賞して評価されたものの再演です。
劇場の入口側をステージにという面白い試み。時間ギリギリに来た客は、入った途端、観客の視線を浴びてびっくりしていました。船の甲板になったり、高層階の部屋になったりします。
筋は、17歳のドイツの青年カールロスマンが家族から追い出され、アメリカに出て来る話。上院議員になっている叔父さんに偶然会ったり、ホテル仲間の少女と恋仲になったり、フランスやアイルランド出身のチンピラと仲良くなったりするのですが、ドイツ人らしい融通のきかない正義感から、アメリカ社会になじめません。最後はオクラホマ劇場の劇団員として採用され、列車に乗せられるのですが・・、芝居ではそれがゲットー行きの列車。何も知らないまま乗せられるという印象的な終り方です。
原作本では、採用されたオクラホマ劇場に列車で向かうところで淡々と終ります。
ゲットーという解釈は演出家独自のものなのか、カフカが別のどこかで書いているのか、まだ究明出来ていません。
主人公は五人の俳優が場面場面で交替します。この作品は評価を受けた作品なのですが、残念なことに五人の演技力に差があり、芝居に乗れないところもあります。印象的なラストシーンや独特の面白い動きの割には、芝居のところどころに緊迫感がない部分があるのを物足りなく思いました。

もう一つみた芝居は「審判」です。
ある日銀行員ヨーゼフKはわけも分からないまま逮捕されてしまいます。相手であるはずの裁判官達はつかみ処がありません。裁判官に近い画家や女性、そして弁護士に打開策を見い出そうとします。しかし彼らの話も要領を得ません。ヨーゼフKの頭の中は裁判のことで一杯なのですが、あらがいは必死のようであり、必死でないようでもあります。そんな日常に慣れはじめた時、死刑の執行が・・。「犬のようだー」と叫ぶ主人公。ヨーゼフKは何がなんだかわからないまま死刑なるのですが、どこかで死を受け入れているような雰囲気もあります。これはカフカがユダヤ人であるせいでしょうか。
こちらの「審判」は初演ですが半年をかけたワークショップの成果が十分感じられる舞台でした。主役の笠木誠も迫力ある演技で見せます。高低差を利用した舞台美術も魅力的でした。

「失踪者」よりも私は「審判」の方を評価しますが、どちらも今年見た中ではいろんな意味で刺激を受けた面白い作品でした。



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