酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

『現代能楽集 イプセン』

2009-07-29 23:01:42 | 演劇
「現代能楽集 イプセン」を池袋の東京芸術劇場で見た。
作・演出 坂手洋二  出演 馬渕英俚可、紺野美沙子、鴨川てんしなど。

イプセンの戯曲の「人形の家」「ブラン」「野がも」「ヘッダ・ガブラー」の四本を坂手が「現代能」のイメージで生まれ変わらせた作品という。四本が途中休憩なく連続で演じられる。

見ながら終始頭にあったのは、何故「現代能楽集」という題にしたのか。何故戯曲四本なのかということ。
「ノーラは行ってしまった」において、亡霊が生前を語り、その中に見られる静かな手の動きなどに能らしきものは感じられる。また戯曲が能の修羅物、鬘物、狂物などにそれぞれ当てはまるのかと考えてみた。しかし全体を見たとき、能というイメージは余り湧いてこなかった。
坂手は「世阿弥作品を成立させた、一種の感受性のありかたのようなものを、現在の私たちの意識に組み入れた」というのだが・・。

またイプセンの戯曲を四つ集めたのは、イプセンの世界を浮かび上がらせようという狙いなのか、それとも四つイプセンを集めて新しい世界を作ろうとしたのか。私は前者に見たが、劇を見ただけではその意図が見えなかった。

個別の作品では、「ノーラは行ってしまった」の、ノーラが出て行ったその後を描く設定が面白かった。芝居の密度という点では「野鴨中毒」が一番か。
それぞれ面白いのだが、前に坂手作・演出の「神々の国の首都」を見た時に感じた生真面目さが今回も感じられ、どこか閉塞感が残る。

アフタートークは、バー・クレメトセン(ノルウェーナショナルシアター フェスティバル・ディレクター)に坂手洋二が質問する形で、ノルウェーの演劇事情を聞くだけに終わった。演じられた芝居そのものについての話が聞きたかったが、通訳を介しての会話では無理かもしれない。


『cover』

2009-07-22 19:50:26 | 演劇
下北沢の本多劇場でペンギンプルペイルパイルズという劇団の「cover」を見た。
作・演出:倉持裕 出演:鈴木砂羽、小林高鹿、玉置孝ほか
少しネタバレあり。

ちょっと不思議なお話。釣り上げた蛸から手紙が出て来る。見つけた男は差出人の女性にそれを返そうとするのだが・・。手紙の取り合いでバトルの車二台が、鹿をはねてエンスト、乗っていた3人は、中の一人の妾(この言葉に作者のこだわりあり?)である女性が家政婦をする家にたどりつく。その家は不思議な蔦植物に覆われており、いつか家がつぶされる不安も。一気に倉持の世界へなだれ込む。

家には姉と二人の弟という3人が住むが、その関係もどこか不安定。ひきこもりめく一人の弟は箪笥から出入りする池に、鯉を飼っている。飛び込んできた3人と家族そして家政婦、それぞれの関係が絡み合って・・・。
ミステリーの雰囲気もただよわせるのだが、手紙の内容も、謎めいた人間関係にも、最後まで明快な種明かしはない。
遠くで聞こえる何発もの銃声で劇は終わる。

銃声で終るのはイプセンやチェーホフを思わせるが、私は倉持作品に流れるこの不安感みたいなものが大好きだ。

役者では鈴木砂羽の安定感は別にして、〈ぼくもとさきこ〉のセリフの間が絶妙で、結構笑わせてもらった。

読売演劇大賞の上半期ベスト5に、田村孝裕演出の「シュート・ザ・クロウ」が選ばれているようだ。新国立劇場のシリーズ・同時代【海外編】三作の中で、私は倉持裕の「昔の女」が一番出来がいいと考えていたので選ばれなかったのは残念。


『旅がはてしない』

2009-07-19 10:27:04 | 演劇
「春琴」と「夏の夜の夢」で好演した、チョウソンハに魅かれて池袋の東京芸術劇場小ホールへ。

劇団「ひょっとこ乱舞」第21回公演の「旅がはてしない」を見た。
この劇団の芝居を見るのは初めて。主宰広田淳一自信作の再演という。

だが残念なことに楽しめるというところまでは行っていない。席は満員にもかかわらず、終演の拍手が少なく、カーテンコールのおこる気配も全くなかったことがすべてだろう。

この原因はどうも脚本にありそう。ミネストローネ、道、シャツフル、30~90cm、キャラクターなどなど。キーワードははっきり示されているのに、それがうまくメッセージとして伝わってこない。いい変えれば、面白い単語は並んでいるのに、文章になっていないもどかしさとでも言えようか。

同じように言葉の連鎖を使う野田秀樹の場合は、笑っておしまいという潔さがあるのに対し、広田の言葉の場合はどこか理屈っぽさが残るのだ。

すでに役者として評価の高いチョウソンハをはじめとして、俳優たちの演技の水準は結構高い。現代の若者の日常会話的な言葉を、セリフとして上手く消化しているし、ダンスも迫力がある。

今と言う時代を取り込んだ新しい演劇の予兆はあるが、まだ形になっていない段階というところか。


『MW-ムウー』

2009-07-07 15:00:17 | 映画
映画「MW-ムウー」(監督 岩本仁志)を見た。封切り3日目という旬の映画。

だが結論を言えば悪の爽快感が不足。
殺人シーンも血の量で驚かせようというのは古いし、冒頭のカーチェイスも長いよ~新しい趣向があればいいけど、今までにどこかで見たようなシーンばかり延々。
まあタイまで行ったのだからという気持ちもわからなくないけど・・・。

主人公(結城)を演じる玉木宏の立ち姿はかっこよく見映えする。手塚治虫の漫画の主人公って感じだが、悪の凄みはない。
神父(賀来)役の山田孝之は地味過ぎて、出番が多いわりに印象が薄い。
石田ゆり子など女性の描き方も全体に淡白で、それが映画に深みの出ない原因か。

ラストの飛行機のビルをかすめるシーンなど中々良く撮れていると思うのだが、その緊迫した場面に、トイレに立つ人が二人。トイレを忘れるほどの面白さがない証拠だろう。
続編もありそうな終り方だが、新味を出さないと苦戦しそう。

今朝テレビに、映画「のだめカンタービレ」のウィーンでの撮影映像が流れた。玉木はやっぱり指揮する千秋が似合う。