酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

「オレステス」 №2

2006-09-23 17:33:33 | 演劇
昨日22日の夜シアターコクーンで『オレステス』見ました。
蜷川芝居の迫力はさすがです。

不倫をした上に、戦争から帰った父を殺した母親を、息子のオレステスが殺すというどろどろのお話。
母親殺しの罪に悩み、身も心も衰えていくオレステス。民衆の集会で姉エレクトラもろとも死刑を言い渡されます。友人ピュラデスの助けも受け反撃に出ようとするとき、神アポロンが水戸黄門のように登場、すべてまるくおさめてくれるのです。

今の私たちにも考えさせる復讐の連鎖という内容は、紀元前400年代の芝居とはとても思えない切実なものです。このような芝居がアテネの古代野外劇場で上演され、厳しい現実の前で民衆は神の登場を待ち焦がれたのでしょうか。

主演のオレステスの藤原竜也は狂気と平常をなんなく演じ分け、安定した演技で魅了します。カーテンコールで見せた笑顔は会心の出来であったことを感じさせました。ただ残念なのは丸顔に髭が今ひとつ似合わないのです。以前よりちょっと太ったのかな。

これに引きかえエレクトラの中嶋朋子。小柄で華奢な体の熱演は見ていて心配な程です(蛍ちゃん~藤原竜也を見習って少し太った方がいいよ~)
出だしで、声がかすれてはらはらしたけど、すぐ普通になったのでほおっ。

コロス(コーラスの語源・集団で役を演じる)の女性たちは、主役に劣らない重要な役回り。もう少し切れのある踊りや動きだともっと芝居が締まる気がするのですが。セリフもちょっと苦しそう。

舞台の上に降ったり止んだりする雨が美しく、非常に効果的です。今回の演奏は打楽器中心でしたが、音楽をフルに使えば、違った味わいも出そう。

上の写真は終幕に撒かれたチラシ。アメリカ・レバノン・イスラエル・パレスチナの国旗・国歌などが印刷されていました。蜷川さんの古代演劇と現代を結びつけるメッセージなのでしょうが、唐突で違和感を感じました。

今回は山形治江さん訳の戯曲を読むなど準備が過ぎて、意外性がなかったのですが、予習がなかったら筋も人間関係も私にはついていけなかったかもしれません。

最後に、藤原竜也はほとんど上半身裸の演技だったのですが、それでも初日の頃より露出度が減ったとこぼすリピーターのおばさんがいましたよ(笑)


『オレステス』

2006-09-16 19:32:43 | BOOK
『オレステス』 エウリピデス作・山形治江訳 れんが書房新社

蜷川幸雄演出・藤原竜也と中嶋朋子主演のギリシャ悲劇「オレステス」の脚本なんです。22日にシアターコクーンへ見に行く芝居の予習。

前に「シン・シティ」という映画を見た時、三話仕立てで主人公が変わっているのに、最後まで気付かなかったという恐ろしい私の過去を知る友人の忠告。登場人物の名前がややこしいから原作を読んでおくようにと。

不倫をしている母親が夫を殺し、その母親を一人息子(オレステス・藤原竜也)が殺してしまうという恐ろしい話。息子と同性愛関係らしい友人(ピュラデス・北村有起哉)や、近親相姦らしい姉(エレクトラ・中嶋朋子)も登場し、もうどろどろ。
これが紀元前四百年頃にギリシャで上演されていたというから驚きです。
民衆から見放され死刑が決まるオレステス。いちかばちかの反撃をはじめると神が登場。すべてがまるくおさまり、結末はちょっと拍子ぬけ。
でもギリシャ時代にも水戸黄門みたいな神が登場すると考えると、それはそれで面白い。

これで準備は万全。さあ芝居に行くぞぉー。



『まほろ駅前多田便利軒』

2006-09-08 10:01:37 | BOOK
春の直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒』(三浦しをん著 文藝春秋 2006年3月25日発行)を読んだ。

過去を引きずっている主人公の便利屋多田啓介のところへ、高校時代の同級生、行天春彦がころがりこんでくる。元々親しい仲ではなかったが、一緒に仕事をしているうちに多田の心に少しずつ変化が・・・。

最後まで明かされない主人公の過去、多田と行天との高校時代の出来事、便利屋へ仕事を依頼してくる人達との様々なエピソードなど、筋立ては非常に綿密に構成されている。

夜逃げ、麻薬、バスの間引き運転、人工授精など現代の問題も巧みに織り込んである。

ただ惜しむらくは、読後に爽快感がない。文章にリズムがないのが原因ではないかと私は考えたが、主人公のもやもやした感じを出すため作者が意図的に作り出したものかもしれない。

同じ直木賞をとった同傾向の作品との比較では、私は石田衣良の方に魅力を感じる。

『悪党芭蕉』

2006-09-04 11:04:51 | BOOK
『悪党芭蕉』(嵐山光三郎著 新潮社2006年4月25日発行 1500円)を読んだ。
タイトルは悪党とつけているが、作者は芭蕉が嫌いなわけではない。神聖化された芭蕉を俗人と同じレベルで考え直そうとしたのだという。

芭蕉の生涯を追って、その時々の面白い話を取り上げているので気楽に読める。

ただ、(1)深川の隠棲は、甥の桃印と妾の寿貞との駆け落ちを隠すためだった (2)不易流行で芭蕉の本心は、不易でなく流行にある(3)『奥の細道』は芭蕉の余技であって、故郷の兄松尾半左衛門に見せる旅行ガイド本であった等々、どちらかといえば全体的にセンセーショナルな取り上げ方をしている。
一般に普及している芭蕉研究者の説とはかなりへだたりがあるかもしれない。

私が一番魅かれたのは、「超簡訳『猿蓑』歌仙」の章。鑑賞のしにくい「猿蓑」をやさしく解説してくれている。
連句の流れがわかったような気になれるのが楽しい。