酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

読書三昧(12月)

2012-12-31 15:26:28 | BOOK


12月に読んだ本
三谷幸喜『清須会議』
アーサー・ミラー 戯曲『るつぼ』
湊かなえ『贖罪』
宮内悠介『盤上の夜』
モーリス・ルブラン『ルパン、最後の恋』
鈴木鷹夫句集『カチカチ山』

◎三谷幸喜『清須会議』
文句なく面白い。信長亡きあとの織田家の後継者と領土の再配分を決めるため、清須城で清須会議が開かれることになった。小説は会議に出るメンバーとそれを取り巻く人たちのモノローグで構成されている。信長の死から会議の終了後まで、順を追って関係の人物が次々自分の正直な胸のうちを語っていく。その中心をなすのが、羽柴秀吉・柴田勝家・丹羽長秀である。主導権を取るための駆け引きが、モノローグでうまく表現されている。

最近の三谷幸喜については、舞台の「桜の園」映画の「ステキな金縛り」など私には出来がいまいちに見え、そろそろ限界かと思っていたのだが、この小説により三谷の凄さをあらためて認識させられることになった。
構成もユニークで、内容も本当に楽しく面白い小説である。

◎モーリス・ルブラン『ルパン、最後の恋』
もう一つ懐かしかったのが、アルセーヌ・ルパンもの。モーリス・ルブランの『ルパン、最後の恋』 著者の幻の遺作だそうである。ルパンの小説も昔、我を忘れて読んだはずだが、ほとんど内容は覚えていない。今回の内容は、高貴な血をひく娘が巻き込まれた陰謀から、ルパンを中心にした4人の貴族の男性が助けるはずだったのだが・・・。まあ他愛のない活劇ものといった感じ。
面白かったのは、その中にルパンの言葉で「正しい方法で精神を鍛えあげるには何十年もかかる。そこがフランスの教育の愚かなところさ。鋼のように冷徹で、斧のように切れ味のいい強靭な精神の持ち主を作らねばならないのに、感受性ばかりを養っているのだから」と語らせているのだが、多分著者が1937年当時抱いていた教育への考え方なのだろう。フランス人を見ていると今も同じような教育が行われているように感じるのだが、間違いだろうか。
このハヤカワ・ミステリの本には巻末に付録として、ルパン第一作『アルセーヌ・ルパンの逮捕』の初出版の文章(1905年)が載っている。これがお洒落で中々面白い。当時大評判になったのもよくわかる。
いろいろ興味深い本だった。

『組曲虐殺』

2012-12-15 19:16:12 | 演劇


「組曲虐殺」   銀河劇場  こまつ座&ホリプロ公演

原作:井上ひさし  演出:栗山民也  音楽・演奏:小曽根真 他                
出演:井上芳雄・石原さとみ・山本龍二・山崎 一・神野三鈴・高畑淳子

「蟹工船」の作者で、非合法の活動家であった小林多喜二の物語。
貧しい家庭であった多喜二一家は、小樽でパン屋経営に成功した叔父のもとにひきとられる。厳しい労働と小樽高商での勉学から社会運動に身を投じた多喜二。左翼誌「戦旗」に小説を発表するなど、次第に活動家としての地位を高めてゆくが、特高に目を付けられ地下に潜る。しかし最後は捕らえられ拷問の末、29歳の若さで獄死する。

悲惨な話なのだが、井上ひさしはこれを笑いを交えた音楽劇にした。普通なら冷酷に描かれる特高も、苦悩を抱えた共感できる人物として描かれるのが井上ひさしらしい。

多喜二の劇中でのセリフ「武器ではなく言葉で世の中を変える」は作者である井上ひさしの考え方でもあるのだろう。

公演のチラシに書かれた「内気でやさしい少年が、なぜ、三時間に及ぶ拷問に耐え、しかも虐殺さえも怖れない青年になりえたのだろうか。作家小林多喜二のこの〈なぜ〉に挑む」というテーマが、今一つはっきりしない物足りなさは残るが、そこが曖昧な分、幅広い観客に受け入れられる作品になった気もする。

俳優陣は再演ということもあり、流れがスムーズでまとまりが良く、気持ちよく見られる。

東京公演は12月30日まで。

中村勘三郎さん

2012-12-05 09:02:13 | 演劇


歌舞伎の中村勘三郎さんが亡くなった。57歳とのこと。
同じころに癌が見つかり、手術をしたこともあり、大きなショック。

コクーン歌舞伎もよく見たが、一番印象に残っているのが東京芸術劇場で野田秀樹と共演した「表に出ろいっ!」。勘三郎さんも野田さんも演技しながら本当に楽しんでいるのが伝わってきて、最高に面白かった。
ただあまりに勘三郎さんがはじけているのに、どこか不安を覚えたことも思い出す。

ただただご冥福をお祈りするばかり。

『はじまりは国芳―江戸スピリットのゆくえ』

2012-12-03 22:57:22 | 美術館


「はじまりは国芳―江戸スピリットのゆくえ」を見に横浜美術館に行ってきました。

浮世絵、日本画それと常設展の洋画、彫刻など盛りだくさんの1日になりました。

特別展は「はじまりは国芳ー江戸スピリットのゆくえ」と題し、歌川国芳の浮世絵をスタートにその弟子(月岡芳年・水野年方)たちの流れを引く昭和の鏑木清方や伊東深水等までを追う。
国芳が鏑木清方や伊東深水などとつながりがあること自体は面白いが、展示を見ているだけでは浮世絵から日本画へ行く流れの意図がはっきりせず、印象も散漫で企画としては物足りない。清方や深水まで広げず浮世絵だけで企画を考えた方がすっきりしたのでは。

常設展ではギュスターヴ・モローやポール・デルヴォーの絵が目を引く。


「はじまりは国芳―江戸スピリットのゆくえ」の前期は12月5日まで。後期は12月7日~1月14日まで
 
浮世絵と言えば、興味のきっかけを作ってくれた東洋大学通信の藤澤紫先生のここちよい授業が懐かしい。

読書三昧(11月)

2012-12-02 11:01:21 | BOOK


11月に読んだ本

高野和明『ジェノサイド』(日本推理作家協会賞・山田風太郎賞など受賞)
梨木香歩『雪と珊瑚と』
角田光代『紙の月』
村松友次『芭蕉の手紙』
川端康成『雪国』
三上延『ビブリア古書堂の事件手帖2~栞子さんと謎めく日常~』


面白かったのは、高野和明『ジェノサイド』
アフリカのコンゴで生まれた新しい生物は人間を圧倒的に上回る知力を持っていた。それを知ったアメリカの大統領は現人類の危機と、この生物を秘密裡に抹殺する命令を出す。アメリカ大統領とその部下、抹殺のため派遣された4人の傭兵、新しい生物を守ろうとする人類学者、人類学者とアフリカで一緒に仕事をしたことのある日本の科学者と薬学の大学院生のその息子などなどが複雑に絡み合い物語は進展する。そしてコンゴ、アメリカ、日本での出来事が同時進行的に小気味よく語られる。

わくわくする面白さに一気に読んでしまった。
ラストがあまりに上手く進展し、めでたしめでたしで終るのに多少物足りなさは感じたがお薦めである。

今月はもう一冊。私の好きなハラハラドキドキとは正反対にあるのだけど、読まされてしまった本。梨木香歩の『雪と珊瑚と』。
梨木香歩はベストセラーで映画化もされた『西の魔女が死んだ』の作者。

離婚して一人で子育てをしながらカフェを開く21歳の珊瑚という女性のお話。彼女の日常と内面の葛藤、それを暖かく見守る周りの人々をたんたんと描いている。全体のゆったりした流れが心地良い。
心が洗われる小説もたまにはいいものだ。