酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

『三谷版 桜の園』

2012-06-27 14:32:49 | 演劇

パルコ・プロデュース公演(PARCO劇場)
「三谷版 桜の園」  
作:アントン・チェーホフ、翻案・演出:三谷幸喜、出演:浅丘ルリ子・、市川しんぺー・神野三鈴・大和田美帆・藤井隆・青木さやか・藤木孝

正直に言えば、今まで私の見た三谷幸喜の中では、多分最低水準の作品だと思う。

まず三谷作品に感じるいつもの切れ味がない。じんわり訴えてくる情感もない。
これが本当に三谷作品?と言うほど平凡である。はじめて取り組んだ翻訳劇。チェーホフという大作家の呪縛を打ち破れなかったというのが正直なところだろうか。

時代の大きな流れについてゆけず、没落するロシアの大地主階級の悲哀。自宅の屋敷も桜の園も競売にかけられ手放すこととなり、家族や従業員はそれぞれ新しい生活を求めて旅立っていく。悲しい中に少しの希望も感じさせる。
今まで悲劇的に扱われてきたこの作品を三谷は喜劇として演出したという。意図は面白いが、成功しているとは言えない。喜劇へのこだわりが、この作品が本来持つ情感までこわしてしまったように思える。

配役も浅丘ルリ子(ラネ-フスカヤ)、藤木孝(ガーエフ)、藤井隆(トロフィーモフ)など、いかにもという役者さんが割り当てられているのだが、喜劇という意識が邪魔をしたのか演技がどこかしっくりしない。

唯一この芝居を面白く見るには、三谷が原作をどう読み、どんな形で舞台に表現したかを緻密に検証して、マニアックな目で見るしか方法はなさそうだ。

ともかく三谷フアンとしては寂しい出来としか言いようがないのが残念。

東京公演は7月8日(日)まで

『サロメ』

2012-06-14 16:16:17 | 演劇
「サロメ」


4月中旬にさいたま芸術劇場へ『シンベリン』(作:シェークスピア、演出:蜷川幸雄)を見に行った翌日、病院の検査で引っかかり、動けない状況が続いていました。
2ヶ月たって、おとなしくしていてもあまり変わらないなら、好きなことをやろうと決断。
初台の新国立劇場に電話すると当日券が一枚だけあるとの返事。
体の不安を感じながらも、思いきって『サロメ』行ってきました。

作:オスカー・ワイルド、翻訳:平野啓一郎、演出:宮本亜門、出演:多部未華子・成河(ソンハ)・麻実れい・奥田瑛二他

『サロメ』は元々新約聖書にある話を、オスカー・ワイルドが脚本にしたもの。

サロメ(多部未華子)は、義父である国王(奥田瑛二)に囚われている予言者ヨカナーン(成河)を好きになるが、自分を振り向いてくれないことに業を煮やし、国王の自分への思いを利用し、ヨカナーンの首を切り落とさせ手に入れる。
切り落とされた首の口唇にキスをするシーンなど狂気の話ともみえるが、好きになった男は殺してでも自分のものにしたいというサロメの純粋な愛のかたちが描かれているとも解釈できる。

一般的には妖艶な女性として描かれるサロメに、宮本亜門は若い多部未華子を起用する。これは宮本亜門が、原作者や翻訳者の意図を踏まえ、この芝居を純粋な愛の話として描こうとしたものであろう。熊(?)のぬいぐるみを持たせたのも、サロメがまだ幼児性を合わせ持つ女性であることを意図しているのかもしれない。

当初、純粋な愛と猟奇的な生首の組み合わせには、無理があるのではと考えていたが、実際にはサロメ役の多部未華子を中心とした演技陣の好演により、舞台は十分説得力のあるものとなっている。

多部未華子は初舞台の『農業少女』で大きな評価を得たが、今回もサロメという難しい役で新しい境地を見せる。強弱のあるどんなセリフも、しっかりと客席に届くのが当り前とはいえ凄い。
ヨカナーン役の成河(ソンハ)の予言の声も心地よく響く。いつもは早口で高音のセリフの多い役者さんなのでこんな美しい声がでるのかとびっくり。
麻実れい(ヘロデの妻ヘロディア)は抑えた演技ではあるが、安定感はさすが。もし今までの解釈であればサロメ役に一番適任の女優さんかもしれない。

久しぶりでセリフを十分に追えなかった部分もあったが、見ごたえのある芝居だった。
6月17日(日)まで