酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

『コンフィダント・絆』

2007-04-26 00:11:02 | 演劇
渋谷パルコ(5月6日まで)

先週見た『写楽考』が浮世絵師の話なら、23日に見た『コンフィダント・絆』
は浮世絵が影響を与えたと言われる印象派画家たちのお話。

ゴッホ(生瀬勝久)、ゴーギャン(寺脇康文)、スラー(中井貴一)と、絵の才能は乏しいがこれら三人のそれぞれの心許せる相手(コンフィダント)となるシュフネッケル(相島一之)。そしてモデルのルイーズ(堀内敬子)が登場人物。

まだ有名になる前のひとくせある画家たちが、シュフネッケルをまとめ役にして、共同で借りたアトリエで制作をしています。ところがモデルのルイーズが来たことでそれぞれの心に微妙な変化が・・・。

内容は人間の心の奥底に迫るシリアスで、悲しい話なのですが、演出の三谷幸喜さんは、ピアノや歌も入れたシャレタ演出と笑いで、後味のいい芝居に仕上げています。
役者たちも個性的で、のびのびと演じているので、それぞれの画家の心情にも素直に共感できます。

本当に気持ちのいい舞台で文句なくおすすめです。

23日は市村正親・篠原涼子夫妻や川平慈英さんがすぐ近くの席にいて、芝居の合間も楽しませてもらいました。


『写楽考』

2007-04-20 12:38:28 | 演劇
「写楽考」シアターコクーンで見ました。

作:矢代静一   演出:鈴木勝秀
出演  東洲斎写楽(伊之) 堤 真一
喜多川歌麿(北川勇助)   長塚圭史 
十返舎一九(重田幾五郎)  高橋克実
蔦屋重三郎          西岡徳馬

謎の浮世絵師写楽の短い生涯を描いています。役者絵など作品は有名なのに、どんな人物であったかわからない東洲斎写楽。
この芝居では伊之(写楽)を歌麿の弟弟子で、生き方の定まらない、周囲に翻弄される人物に描かれています。

性格の違う兄弟子歌麿との対比で芝居はすすみます。
「愛の流刑地」と同じような流れで、殺人の罪をかけられる写楽、一方歌麿は浮世絵師として名をなしていきます。

10年後、今は大浮世絵師となった歌麿のもとへ、落ちぶれた伊之(写楽)が絵を持って訪ねてきます。冷たくあしらわれる伊之。
そこに居合わせた蔦屋重三郎が伊之の役者絵を見て商売になると判断、東洲斎写楽の名で売り出します。
絵は大ヒットし、本人は夢中で絵を描くのですが、蔦屋重三郎の裏切りにもあって捕われ、縛り首になってしまいます。

主役の堤真一。頼りなげな写楽を好演しています。ただ、いま一つ写楽の性格が見えてきません。これは台本の方にも問題ありです。

一方歌麿の長塚圭史。芝居には硬さがありますが、歌麿の性格をはっきり見せて印象的な芝居です。
ただ惜しいのは立ち姿が美しくありません。着物の着方が悪いのか、芝居には背が高すぎるのかわかりませんが、立ち居振る舞いにもう少しこの時代の色気みたいなものが出るとよかったと思いました。

十返舎一九の高橋克実。昔劇団「離風霊船」の有名な芝居『ゴジラ』で確かモスラをやっていた、私にとっては本当に懐かしい役者さんです。狂言回し役を面白く演じています。
私の横の通路を通ったとき、思わず「頑張ってますね!」と声かけたくなりました。

残念なのはラストシーン、老人になった十返舎一九が、写楽の妻お米を訪ねてくるのですが、まったく余計なシーンです。学芸会じゃないんだから、のどかにまとめないでほしいという感じ。
芝居は、処刑され首を吊られた写楽が宙に浮ぶところで終わるべきです。後は観賞者の想像にゆだねたいところです。


『真鶴』

2007-04-05 18:36:49 | BOOK
『真鶴』2006年10月刊 (株)文藝春秋

川上弘美らしい、もやもやした小説である。
筋がわかりにくいわけではない。文章もセンテンスが短くはっきりしている。でも印象はもやもやしている。
そこが彼女の魅力なのだが、今回はもやもやがいつもより暗い。

書くことを職業とする女主人公。他に失踪した夫と新しい男。実の母と前夫との娘。それに主人公だけに見える分身のような女が登場。

前半はそれらの人物の関係が行ったり来たりの感じで語られる。

真ん中を過ぎたあたりで、話は急展開かと思わせるが、それも一瞬。また、夢か現実かわからないまま話はすすんでいく。

小説はふっきれた主人公が明るさを取り戻す場面で終わるが、もやもやの暗い印象は払拭されないまま残る。

川上弘美の文章は包み込むようなやさしさがある。さりげない言葉で心の内面を浮き立たせる。読んだあとはあたたかい気分になれる。

でもこの『真鶴』はちょっと違う。普通は光きらめくという感じで語られる真鶴の海が、黒いイメージで迫ってくる。
どうかしたの弘美さん??と問いかけてみたくなった。

「恋の骨折り損」

2007-04-02 11:14:21 | 演劇
「恋の骨折り損」の彩の国さいたま芸術劇場の公演は3月31日が千秋楽。4月14日から大阪公演が始まる。
少し遅れたが、埼玉公演の感想を書いてみた。

シェークスピアのこの芝居を日本人に面白く見せるのには、かなり難しい。何故ならこの芝居の面白さが、筋よりも登場人物の言葉のやりとりにあるからである。愛を伝えるための詩、相手をやりこめる言葉の数々、ダジャレや下ネタ、どれも微妙な部分がわからないと面白さが伝わらない。翻訳のまどろっこさがどうしても残る。

演出の蜷川幸雄はその辺ぬかりがない。
まず舞台の背景に一本の美しい柳の大木を配し観客をひきつける。柳が風に揺れるシーンなど豊かな気分になる。いつもながら舞台装置も蜷川芝居の魅力である。
また重要な役割のフランス王女とその3人の侍女をはじめ、全員を男性が演じる。前回の「間違いの喜劇」や次の「お気にめすまま」も男優だけなので、シェークスピア喜劇については蜷川の方針は一貫しているようだ。

筋は、ナヴァールの若い王と三人の家来が、面会に来たフランス王女と三人の侍女にそれぞれ恋してしまう。都合よく四組のカップルになるという単純な筋を、恋の駆け引きで面白く見せようという芝居である。
王様と家来といっても関係は友達風。若い四人はフランス王女と三人の侍女に手玉に取られるのだが、最後はハッピーエンドになりそうな予感を感じさせる。

実質の主役と言える高橋洋がいい。笑わせる役より押さえた演技が似合う。「あわれ彼女は娼婦」「間違いの喜劇」のオーバーな演技には多少違和感があったが、今回は落ち着いた演技で好感がもてた。

ダジャレの日本語訳の苦しさ、学芸会風になってしまう着ぐるみの演技など気になるところもあったが、全体的には後味のいい芝居である。

シェークスピアについては、原作を少し離れて、言葉をわかりやすくするのもやり方の一つだと思うが、原作を忠実にやろうとするなら、この舞台の水準が多分最高なのであろう。