酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

読書気分(29年9月~11月)

2017-12-02 17:21:12 | BOOK



読書気分(29年9月~11月)

今日はある会の10周年記念パーティー。
楽しい会になりそうですが、病気の私はもちろん参加できません。
一人ショボくれてブログ書くことにしました。
久しぶりの「読書気分」。この三ヶ月は長い入院もあったため、ほとんど本を読めていません。11月の終わりから読みやすそうな戯曲から少しずつ復活です。

29年9月に読んだ本
大竹昭子『間取りと妄想』
福井隆子『ある狂女の話』

☆大竹昭子『間取りと妄想』
家の間取りに異常に興味をもつ作者の、間取りに関わる13の短編が収録。間取りが深くかかわっている話もあれば、さらっと出てくる間取りもある。添付されている間取図を見ながら小説を読むというちょっと変わった趣向。
小説の中では本棚の奥に小さな窓をつけ隣の息子夫婦の浴室を覗いている「浴室と柿の木」が異色で面白い。建築や設計に興味があれば一層楽しく読めるかもしれない。

☆福井隆子『ある狂女の話』
幼少期を戦時下で過ごした俳人のエッセイ集。俳人らしく、芭蕉や俳句に関する考え方など評論的な文章も混じる。


29年11月に読んだ本
野田秀樹脚本『贋作・桜の森の満開の下』
ルイージ・ピランデッロ脚本『作者を探す六人の登場人物』(ピランデッロ戯曲集Ⅱより)

☆野田秀樹脚本『贋作・桜の森の満開の下』
野田秀樹演出で最近話題になった芝居の戯曲。芝居は見てはいないのだが、読書生活に戻るには読みやすいかと選んだもの。文章は短く字数も少ないのだがこれが中々の難物。事前に芝居見ていないと野田さんの世界には急には入れない。登場人物の名前だけで大混乱。これが芝居を観た人にはすごく面白かったらしい。坂口安吾の小説『桜の森の満開の下』や『夜長姫と耳男』などを下敷きにしているので、次はそちらに手を伸ばしたい。

☆ルイージ・ピランデッロ脚本『作者を探す六人の登場人物』
先日神奈川芸術劇場で見た『作者を探す六人の登場人物』の脚本。
もっと演劇論が表面にでた理窟っぼい戯曲を想像していたが、以外にシンプルで読みやすい。
言葉のこなれた軽いタッチの翻訳の印象からくるものかもしれない。ただこれを演劇として、どうしたら魅力的に見せられるのか私にはわからない。先日見た長塚演出で感じたことは、原作を読んでも払拭出来なかった。二人の子供の死のことも本を読んでも納得出来ず。
作者を離れた登場人物という発想はすごく面白く興味深いのだが。


読書気分(29年8月)

2017-09-03 23:06:10 | BOOK



読書気分(29年8月)

抗がん剤中止で副作用が無くなって楽になるかと期待していたのですが、そうはうまくいきません。手足のしびれは消えそうにありませんし、体のだるさもそう変わりません。
それでもお腹の調子は改善し、本は少し楽に読めたのが救いです。

8月に読んだ本
川瀬七緒『フォークロアの鍵』
桜庭一樹『じごくゆきっ』
二宮敦人『最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―』
鈴木弥生子句集『大津』

☆川瀬七緒『フォークロアの鍵』
痴ほう年寄の心の奥の物語を聞き出し、論文作成を目論んでグループホームに入った大学生の羽野千夏。
有名私立高校に入学したが、不登校で退学を言い渡された立原大地。
前半は二人苦難の物語が並行して進む。
そして二人の話が交差したところから、おどろおどろしい新しい物語が・・・。
内容はかなり強引だが、小説と割りきれば結構面白い。民俗学的味付けが他の作品と一味違うところ。

☆桜庭一樹『じごくゆきっ』
女性作家らしい、細やかな心の動きが感じられる短編7編を収録。
ただちょっと世間からずれた人物が登場し、作者独自の世界があるので、素直に入れない読者もいるかもしれない。
私は前半のシュールな「ビザール」、SF的な少女アイドルの話「A」が面白かった。

☆二宮敦人『最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―』
奥さんが芸大生という作家が書いた東京芸術大学の裏話。美術を専門とする美校と音楽をやる音校の雰囲気や生徒の性格の違いなど内容は具体的。学内を巡ったり、生徒個人にインタビューして裏付けも十分。
ただもっとハチャメチャな話を期待したが、以外に真面目な芸大レポート。芸大に関心のある人にはお勧めだが、ミーハー的読者にはもの足りないだろう。

☆鈴木弥生子句集『大津』
箱庭に夕立をやる時刻かな
間仕切の向うは牡丹鍋らしき
玉三郎観にゆく髪を洗ひけり
風鈴の二階に鳴つてゐて眠し
雪うさぎ輪島の盆にかしこまる

読書気分(29年7月)

2017-07-31 18:13:10 | BOOK



読書気分(29年7月)

使える薬がなくなり、とうとう抗がん剤のない生活が始まりました。
頼るもののない不安はありますが、あとはがんと仲良く付き合っていくしかありません。
でもいままで攻撃してきたので、がんは仲良くなってくれるかな?

7月に読んだ本
近藤史恵『ときどき旅に出るカフェ』
三崎亜記『チエーン・ピープル』
佐藤勝明『俳諧の歴史と芭蕉』
金子敦句集『音符』

☆近藤史恵『ときどき旅に出るカフェ』
主人公は会社勤めの37歳の独身女性。舞台は会社で後輩だった女性が一人で経営するかわいいカフェ。10編の短編が並ぶ形式をとっているが、それぞれの話を進めていくなかで、カフェの若い女性店主の核心へとミステリー風に迫っていく。内容はドラマチックだが、外国のお菓子がふんだんに出てきて、イメージはソフト。

☆三崎亜記『チエーン・ピープル』
ルポルタージュという仕事を生業とする人物がちょっと変わった人物に取材した6編のお話。少し理屈っぽい文体だが、話は中々ユニークで面白い。現代社会の怖さがじわっと来る感じ。お薦めだがぼんやり本を読みたい人には向かないかも。

☆佐藤勝明『俳諧の歴史と芭蕉』
伊賀市が芭蕉生誕370年を記念して開いた五回の講座の講演録がまとめられたもの。
1章の貞門、談林の部分は少し退屈だが、芭蕉の話になると俄然面白くなる。例えば、五月雨の句を例にあげて、芭蕉の句とそれ以前の句の違いを述べているなど具体的でわかりやすいのもいいところ。芭蕉に関心のある人にはお薦め。

☆金子敦句集『音符』
浴槽にあひるの浮かぶ良夜かな
冬晴の渚までゆくクラス会
炎帝が雷門を跨ぎけり
半分に割り焼藷の湯気ふたつ
定員は妖精ふたり花筏

読書気分(29年6月)

2017-07-01 12:48:14 | BOOK


読書気分(29年6月)

読めた本はやっと4冊。だんだん「三昧」に程遠くなって来たので、題も「読書気分」に変えた。

6月の後半4・5日寝たきりになった。体がだるく何をする気もおこらない。ただただ、ベッドでうとうとしていた。胃が少し重い以外は何処も痛くないので医者にも行かなかった。過去の抗がん剤の疲れが一度に出てきたのか。
寝ていて自分の家が、カラスが鳴き、山に近くないのに鴬の声が聞こえ、電車の音が絶え間ないことをあらためて知った。
やっと動けるようになり、ブログ気分になったところ。

6月に読んだ本
川上弘美『ぼくの死体をよろしくたのむ』
恩田陸『失われた地図』
三上延『ビブリア古書堂の事件手帖7―栞子さんと果てない舞台―』
荻原透葉子句集『初暦』

☆川上弘美『ぼくの死体をよろしくたのむ』
あいかわらずこの人の小説はつかみどころがない。半分夢を見ているみたいだ。
18編が収録された短編集。だから一つ一つはすごく短いのだけれど、それぞれに世界があり、雰囲気がある。身近なことを描きながら、内容はいつのまにか異界に飛んでいる。
中ではストーリー性のはっきりした「バタフライ・エフェクト」や洒落た感じの「ぼくの死体をよろしくたのむ」などが好き。

☆恩田陸『失われた地図』
変な小説だ。
厄災を生む都会の「裂け目」を縫い合わせ、「グンカ」と呼ばれる敵と戦う浩平、遼平、鮎観たち。風雅一族と呼ばれ、世間の人が知らないところで世のために戦っている。
一番変なのは武器が写真撮影の器具であること。銃に改造した三脚と写真撮影のレフ板。思っただけでも持ちにくそう。
今の世の不安を救いとっているような小説ではあるが、正直なじめなかった。

☆三上延『ビブリア古書堂の事件手帖7―栞子さんと果てない舞台―』
シリーズ第7巻。多少だれてきそうだが、本書は力がみなぎっている。シェイクスピアという魅力的な題材もあいまって読みごたえがある。
湘南鎌倉が舞台でありながら、登場人物がみんなどこかに闇を抱えているのが、この小説の魅力になっている。古書入札の値付けの方法や本の複製のやり方など理解出来ないところもあるが、シェイクスピアの古書の入札シーンから最後の解決部分への迫力はすごい。栞子さんの恋にも目途がつきそうで、シリーズの中で一番面白く読んだ。

☆荻原透葉子句集『初暦』
九十八歳という作者。八十歳ではじめた俳句という。ゆとりのある詠みぶりが羨ましい。
娘との年の差狭め炬燵かな
子が愛でしさくら老木となりにけり
麦藁帽だれがだれやらどの子やら
初写真猫も私もまるまると
初暦九十八歳こはれもの


読書三昧(29年5月)

2017-06-01 22:23:33 | BOOK



読書三昧(29年5月)

医者から、とうとう使える薬がなくなったとの宣告。
まあ、あとは体力勝負。おいしいものでも食べて、のんびりしよう。

5月に読んだ本
山下澄人『しんせかい』
森晶麿『僕が恋したカフカな彼女』
恩田陸『錆びた太陽』
原田マハ『サロメ』

☆山下澄人『しんせかい』
第156回芥川賞受賞作品。
作者は、ドラマ「北の国から」を書いた倉本聰の主宰する富良野塾の二期生。入所からの生活をそのまま小説にしているように見えるが、作者いわくそうでもないらしい。
若くてとぼけた主人公に好感が持て、芝居の好きな私には内容的にも面白い。ただ芥川賞を受賞するほどの小説かと言われるとちょっと疑問。
ともかく人の名前がずらずら出てきて読みにくい。
独特の文体や自分を客観的に見る自分を登場させるなどを、味のある文章と見るかどうかは読み手の感性で違ってくるだろう。

☆森晶麿『僕が恋したカフカな彼女』
高校生の恋に無理やりカフカが入っている感じ。多少カフカに興味があるので、一応面白く読んだが、一般的にはどうなんだろう。ミステリー的な部分も意表をつかれることもなく、全体的にはまあまあかな。

☆恩田陸『錆びた太陽』
直木賞の「蜂蜜と遠雷」に次ぐ長編第一作という。
これが同じ恩田作品とは思えないすっとぼけた作品。原発事故汚染以後の制限区域を守るロボットたちのもとへ、人間の国税庁職員を名乗る風変わりな女性、財護徳子がやってくる。その目的は何なのか。最後まで明かされないまま話はすすむ。
中で徳子とロボットの噛み合わない会話が面白い。吉本の「のり」みたいなところもあり笑える。
内容は突拍子もないが、この作者の文章力と発想は抜群で最後まで引き付けられる。
軽いのりのまま終わるが、背景に原発の無駄、戦争のむなしさなども匂わせている。

☆原田マハ『サロメ』
またまた原田マハの美術もの。今回はオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』の挿絵を書いたオーブリー・ビアズリーのこと。内容は主にその妹メイベルの目で描かれる。3人以外にも癖のある人物が登場し面白い。ただ作者のサロメへの思いが強くて、ドラマティツクに仕上げ過ぎたように私には思えた。

読書三昧(29年4月)

2017-05-02 22:46:54 | BOOK



読書三昧(29年4月)

本を読む気力も減退。テレビを見ていてもすぐチャンネルを変えてしまう。集中力が少しずつ衰えているのは確か。

4月に読んだ本
村上春樹『1973年のピンボール』
石持浅海『殺し屋、やってます』
ストリンドベリ脚本『死の舞踏』(ストリンドベリ名作選)
江戸川乱歩『江戸川乱歩傑作選』
武井美代子句集『あしかび』

☆村上春樹『1973年のピンボール』
今頃村上春樹の初期作品を読んでいる私はすごく遅れているのかもしれない。先月最新作の『騎士団長殺し』を図書館で借りながら体調をこわして読みそこねたので、かわりに気軽に読めそうと借りてきたのがこれ。
内容をどう受け止めたらよいのかもよくわからないのだが、頭のどこかが刺激されるのはたしか。
同居する、僕と双子の姉妹の会話が面白い。

☆石持浅海『殺し屋、やってます』
7編の短編集。話ごとに主人公を変えてみたり、視点や角度にいろいろ工夫はされているが、パターンが同じで単調な感じがする。
表は経営コンサルタント事務所、裏で殺し屋をやっている男と二人の仲間の話。殺しが題材ではあるが、依頼をひきうけるかどうかの判断や、依頼人の行動を探るなどに重点があるため怖さやどろどろ感は全くなくさっぱり系。

☆ストリンドベリ脚本『死の舞踏』(ストリンドベリ名作選)
3月に見た芝居『死の舞踏』の脚本。芝居以上に脚本は複雑。登場人物の心理が複雑に描かれていて一筋縄では行かない。誰が本当の悪なのか?結局誰も悪ではないのか。これは何度も読まないと作者ストリンドベリの意図はくみ取れなさそう。この脚本は二部構成になっているが、見た芝居は第一部のみが舞台化されていたのを今回知った。

☆江戸川乱歩『江戸川乱歩傑作選』
何度読んでも乱歩は面白い。発想はユニークだし、文章も上手い。「D坂の殺人事件」「屋根裏の散歩者」などはもちろんであるが、今回読んで目についたのが「二廃人」、普通の小説として読んでもしみじみとした味わいがある。あらためて乱歩の凄さを感じた。

☆武井美代子句集『あしかび』
駅見えて筍つつみ直しけり
月の椅子ひとつ残して夫逝けり
寝ころんで若き父なり花筵
すこし濡れやがて胸まで水遊び
子がこぼすパン屑を蟻引きてゆく

読書三昧(29年3月)

2017-03-31 23:24:46 | BOOK



読書三昧(29年3月)

3月後半は体調を崩して本が全く読めず。ベッドでゴロゴロ。
せっかく図書館で借りられた村上春樹の『騎士団長殺し』第1部を、プロローグだけ見て返す羽目に。なんと悲しいこと・・・。

3月に読んだ本
真保 裕一『脇坂副署長の長い一日』
竹本健治『涙香迷宮』
倉持裕戯曲(原作江戸川乱歩)『お勢登場』
松井恭子写真俳句集『月あがるまで』

☆『脇坂副署長の長い一日』
脇坂という賀江出署の副署長が、警察内での派閥、若い警官、アイドルや脇坂の家族、怪しい会社などにふりまわされる一日の話。イライラとスリリングがこの小説の持ち味。一日に絞ったことにより緊迫感を増した。
ただあまりに登場人物を複雑に絡み合わせてあるため、少し時間を空けて読んだりすると理解不能に陥るのが、われながら悲しい。一気に読んでしまうのが、いいかも。

☆竹本健治『涙香迷宮』
いろいろな知識の披歴が、小説の流れの邪魔をする。特に「いろは歌」は多すぎ。短歌の塚本邦雄の兄春雄が「芭蕉」という「いろは歌」を作っていたとか、黒岩涙香の多彩さとか別の意味で興味深い記述もあるが、本筋とは関係なく小説としては蛇足。
私には類子の性格付けもしっくりこなかった。シリーズで読みなれている人には違和感がないのかもしれないが、やっと最後の謎解きで推理小説らしくなった。

☆倉持裕戯曲(原作江戸川乱歩)『お勢登場』
2月にシアタートラムで上演された芝居の脚本。江戸川乱歩のいくつかの短編をミックスして構成されている。脚本を読んでいると転換が分かりにくいが、芝居を見た人によると場面転換がうまく、スッキリ仕上がっていたとのこと。倉持裕演出の舞台が最近低調だったので外したが、中々好評で判断を誤ったかも。

☆松井恭子写真俳句集『月あがるまで』
白椿しづかに夜を容れにけり
緑さすガラスをへだて被爆の書
かすかなる焦げもきざまれ鱧の皮
錆鮎の小さきものより串うつて
おそろひの桑の箸買ふ初薬師

読書三昧(29年2月)

2017-03-02 18:38:08 | BOOK




読書三昧(29年2月)

新しい抗がん剤の副作用が意外に軽くて、外出できたのがうれしい。
ただ治療効果がわかるのは少し先。効果が無ければ何の意味もないが・・・。祈るのみ。

2月に読んだ本
奥田英朗『variety(ヴァラエティ)』
津島佑子『狩りの時代』
恩田陸『蜜蜂と遠雷』
岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿5ーこの鴛鴦茶がおいしくなりますようにー』
野田秀樹戯曲『足跡姫 時代錯誤冬幽霊』

☆奥田英朗『variety(ヴァラエティ)』
本としては短編7、対談2、ショートショート1での構成。あとがきで作者が言うように全体として一貫したものはない。
短編の中では、独立して会社を興し性格が変わっていく同じ主人公の登場する「おれは社長だ!」「毎度おおきに」が面白い。対談は2つとも盛り上がりに欠ける感じ。

☆津島佑子『狩りの時代』
病気の作者が精魂込めて最後に書き上げた小説。まだ病床で推敲の途中だった。
未完ではあるが、娘の津島香以と編集者の相談で出版したという。
作者がもつ差別への思いは、一人の読者としてなんとか受け止めたい気持ちにさせられた。ただ主人公、絵美子の「フテキカクシャ」という差別用語に対する思いや、子供のころ日本に来たヒトラー・ユーゲントの少年と出会うエピソードなどからだけでは、私には作者の思いが十分伝わってこなかった。

☆恩田陸『蜜蜂と遠雷』
ピアノコンクールに挑戦するコンテスタントの苦闘、悩み、よろこびなどが、生き生きと描かれた小説。
私のピアノとの繋がりと言えば、小さな子供のピアノ発表会を聞いたことがあるぐらい。ピアノ曲も作曲家の名前も知らない。そんな私がピアノの演奏を言葉で表現するこの小説に引き込まれるのだから一言で言えば凄い! 
ピアノの楽曲を文章化し、それで読者にイメージを浮かべさせ、違和感なく作品に引き込んでしまう凄さ、あらためて恩田陸という人の才能にビックリした。さすがに後半の第三次予選の章ぐらいになると、、語られる音楽に多少飽きたが、それでも最後までグイグイ引っ張っていく筆力には驚かされる。
直木賞も当然の結果だろう。お薦め。

☆岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿5ーこの鴛鴦茶がおいしくなりますようにー』
タレーランのシリーズの中で一番読みごたえを感じた作品。源氏物語を味付けに、青山くんと二人の女性の間での微妙な心の動きもあり中々面白い。
謎解きは源氏物語に疎い私にはちょっときつかったが・・・。

☆野田秀樹戯曲『足跡姫 時代錯誤冬幽霊』
2月22日に見た芝居『足跡姫』の脚本。芝居より面白いかも。

読書三昧(29年1月)

2017-01-31 20:03:34 | BOOK



読書三昧(29年1月)

寒い日が続いたので本がよく読めた。ただ歯が抜けたり、欠けたりぼろぼろになってきて不安。抗がん剤の影響か、単なる虫歯のせいかわからないが、これが現実。悲しい。

1月に読んだ本
河合莞爾『800年後に会いにいく』
蓮實重彦『伯爵夫人』
西尾維新『掟上今日子の旅行記』
森見登美彦『夜行』
原田マハ『デトロイト美術館の奇跡』
西脇順三郎『芭蕉・シェイクスピア・エリオット』(芭蕉関連部分のみ)
富山奏『伊賀蕉門の研究と資料』(第一章・第二章)
七種年男句集『輪中の空』

☆河合莞爾『800年後に会いにいく』
原発テロというぶっそうな話も出てくるが基本的にはSFファンタジーと言っていい作品。
800年後の未来に住む少女メイから、助けを求めるとともにすずらんの花を届けてほしいとのメッセージが送られてくる。
誰も信じない中、青年飛田旅人はメイを助けようと決意するのだが・・・。
中々の書き手である。主要登場人物である3人は魅力的で、みんな心優しい。
また文系には難しい科学的な説明も入るが、文章の流れが停滞することはない。
なんと言ってもこの小説のいいところは、読んだあと幸せな気分になれること。お薦め。

☆蓮實重彦『伯爵夫人』
第29回三島由紀夫賞受賞作品。エロ表現満載である。ここまで明け透けに書かれると、独特の文体と相まって意外に心地よい。最近見ないこういう小説が、本当の文学作品なのではないかと思わせる。
考えてみれば、元大学総長で80歳のじいさんがよくこんなものを書いたものだ。かえって爽快な感じがするは私だけか。
回転扉が「ぱふりぱふりと回る」というフレーズが印象的。

☆西尾維新『掟上今日子の旅行記』
またまたまたまた8冊目の掟上今日子。もうすっかり取り込まれている。最初はなんてじれったい小説だと思ったのだが、今は次にどういう言葉が出てくるかまでわかるのですいすい読める。今回の相手役は前にも登場した隠舘厄介。今日子と厄介がパリで遭遇する前半が面白い。エッフェル塔を盗むという奇想天外な話だが、いろいろ事件が起こるわけでないので、中盤はちょっと退屈。最後の種明かしで何となく納得する感じ。
全体の感想はまあまあというところなのだが、近々出るという、今日子、厄介のロンドン編が出たらまた読んでしまいそう。

☆森見登美彦『夜行』
英会話スクールの六人の仲間の内の一人が鞍馬の火祭りの途中失踪してしまう。それから10年、もやもやした気持ちを抱えた残りの五人が鞍馬で再会するのだが・・・。
話はいつか虚か実かわからぬ世界に入り込んでゆく。銅版画をキーワードにした、ホラーっぽい話の流れは面白い。ただ登場人物の描き分けが十分でなく名前だけではイメージできないのが少し不満。本屋大賞・直木賞の候補作。

☆原田マハ『デトロイト美術館の奇跡』
気持ちのいい心温まるお話である。
市の財政破綻でセザンヌの絵「マダム・セザンヌ」の展示されているデトロイト美術館が存続の危機に。一枚の絵を愛する一人の市民の気持ちがその危機を救う。
キュレーターの経験をもつという作者得意の美術もの。淡々とした語り口ながら心をうつ。お薦め。

☆西脇順三郎『芭蕉・シェイクスピア・エリオット』
読んだ部分は「芭蕉の精神」「はせをの芸術」「芭蕉雑記」

☆七種年男句集『輪中の空』
蟻の列銀座住まひの小部隊
老人と蛍の里になりにけり
蔭を売るやうに日傘の売られをり
滝壺に滝の溺れてゐたりけり
茶の花や島の半分日が暮れて

読書三昧(28年12月)

2017-01-01 18:30:03 | BOOK



読書三昧(28年12月)

明けましておめでとうございます。
初詣はドラマ「逃げ恥」の撮影場所となった新横浜近くの「篠原八幡神社」へ。
結構混んでいてお参りまで一時間近くかかりましたが、舞台でお神楽が演じられていて、退屈しませんでした。
天気も良く気持ちのいい新年を迎えることが出来ました。

12月に読んだ本
村田沙耶香『コンビニ人間』
逸木裕『虹を待つ彼女』
辻村深月『東京會舘とわたし』(上)旧館・(下)新館
桐野夏生『猿の見る夢』
白倉敬彦監修・編『浮世絵を知りたい』
栗原公子句集『銀の笛』

☆村田沙耶香『コンビニ人間』
第155回芥川賞受賞作品。
主人公は36歳でコンビニに勤める独身女性の古倉恵子。世間からはちょっと変わっていると思われている。そんな時こちらも世間に同化できない男性白羽と同居することになる。
世間はそれの方が普通だとし仲間として認めてくれるようになるのだが、彼女の最後の選択は・・・。
ともかく面白い。持って回ったところがなく、文章は読みやすく軽やか。
変にべたべたしていなくて、爽快な読後感もある。芥川賞にも納得。文句なくおすすめ。

☆逸木裕『虹を待つ彼女』
第36回横溝正史ミステリー大賞受賞作
横溝正史の賞と言うと、どんなおどろおどろしい小説かと思うが、全くちがうIT社会の小説。
人工知能を研究するオタク青年が主人公。過去にドローンを使って自殺した美貌の女性を人工知能化で復活させようとするのだが・・・。
主人公の人物像が上手く浮かばないし、感情移入しにくい難点はあるが、発想がユニークで一気読み出来る面白い小説である。これもおすすめ。

☆辻村深月『東京會舘とわたし』
東京會舘の紆余曲折の歴史が時代を追って書かれた小説。それぞれの時代に東京會舘で働いていた人物や会館の顧客に焦点を当て感動的な物語がつづられる。主人公はバーテンダーであったり、ボーイであったり、挙式する花嫁だったりする。ただ話があまりに感動的で上手く出来すぎていて、読んでいるものがくすぐったく感じてしまうほど。東京會舘讃歌と言ってもいい。

☆桐野夏生『猿の見る夢』
面白いというより、なんか変な小説である。小心者で会社役員の主人公がいろいろ策を弄して世渡りしようとするのだが、結局はまわりの女性に翻弄されてしまう話。登場人物はほとんど中高年で、下世話な話がいろいろ巻き起こる。夢で占う高齢女性の長峰という謎の人物が登場して俄然面白くなる。
どうも全体的に男は馬鹿にされている感じで、男性より女性が読んだ方が爽快感を得られるかも。

☆白倉敬彦監修・編『浮世絵を知りたい』
小冊子であるが、カラーの浮世絵がふんだんにでて来るのがうれしい。それも「お江戸のアイドル」「旅への憧れ」「江戸っ子のヒーロー」など上手く分類されていて、楽しく読める。少し古い本(2012年刊)だが、浮世絵入門書としておすすめ!

☆栗原公子句集『銀の笛』
てふてふはひらひらみどりごよちよちと
本気とは他見えぬこと潮干狩
あぢさゐが好き音たてぬ雨が好き
小春日やけふは大人をひと休み
冬うらら色鉛筆を背の順に