読書三昧(27年12月)
今年も終りました。病気になってから一日一日を大切に思うようになりましたが、大晦日にはまた特別の感慨があります。来年もいい年になりますように。
12月に読んだ本
木内一裕『不愉快犯』
月村了衛『影の中の影』
辻村深月『きのうの影踏み』
雫井脩介『仮面同窓会』
中野京子『怖い絵』
堀切実『現代俳句に生きる芭蕉』
増成栗人句集『遍歴』
鳥羽田重直句集『蘇州行』
☆木内一裕『不愉快犯』
法律まで味方につけて完全犯罪をもくろむミステリー作家とそれを打ち破ろうとする警察の争い。一度は作家の勝利となったのだが・・・。
なれない法律用語も出て来るので理屈っぽい部分もあるが、作家と刑事のせめぎ合いは読み応えがある。主人公である刑事二人のキャラがもう少しはっきり出れば、もっと面白くなりそう。
著者紹介を見たら、前に映画で見た『藁の盾』の作者だった。
☆月村了衛『影の中の影』
少数民族であるウイグル問題や政治や警察の隠蔽体質など社会的な題材も取り入れられてはいるが、基本的には「カーガ―(影法師)」と呼ばれる元警察官の男が。不死身のヒーローとして大活躍するお話。これがハラハラドキドキとてつもなく面白い。筋立ても、登場人物(女性ジャーナリスト・ヤクザの子分たち・ウイグル亡命者など)も丁寧に描かれていて破たんがない。安心して楽しめる大おススメ作品。
☆辻村深月『きのうの影踏み』
ホラーの味付けのある13の短篇を収録。ただ作者の日常がエッセイ風に織り込まれていたりして、本格的なホラーを期待すると物足りないかも。
☆雫井脩介『仮面同窓会』
かなり強引な筋に見えるが、一気に読まされる。ラストの意外な展開にびっくりすると共に、突然登場する兄のキャラクターが笑える。
☆中野京子『怖い絵』
西洋絵画から「怖い絵」を20点選びその怖さを解説している。見るからに怖い絵や、表面上は見えない所に怖さが隠れている絵など、種類はいろいろである。怖い理由の解説を読みながら絵の背景を知ることも出来る貴重な本である。この本ではブリューゲルの『絞首台の上のかささぎ』やラ・トゥールの『いかさま師』などが取り上げられている。好評だったようで、『怖い絵2』『怖い絵3』の出版もされているようだ。
☆堀切実『現代俳句に生きる芭蕉』
近現代俳人の俳句への考え方を取り上げながら、それらが芭蕉の考えの枠内にあることが詳細に語られる。元が俳句誌という俳句作者を対象に書かれたものだけに、わかりやすいが舌鋒するどい部分がないので物足りない面も。
☆増成栗人句集『遍歴』
青によし奈良もはづれの粥柱
大海鼠つつけば海の荒れてくる
遍歴の始まる前の花筏
きちきちの跳びたる草の匂ひけり
雀来て雀隠れにあと少し
☆鳥羽田重直句集『蘇州行』
うなづきが眠りに変はる夜学生
日中韓の三人がゐて冷奴
二丁目のはずが五丁目街薄暑
さはやかな笑みや乗せられてはならず
梅見酒梅のことなど忘れけり