読書三昧(28年8月)
手術・入院があったため、4冊しか読めなかった。
分野は違うがそれぞれパワフルで魅力的な本だった。
8月に読んだ本
誉田哲也『硝子の太陽Rouge』
駒村吉重『君は隅田川に消えたのかー藤牧義夫と版画の虚実』
村上春樹『雑文集』
伊藤龍平『怪談おくのほそ道』―現代語訳『芭蕉翁行脚怪談袋』
☆誉田哲也『硝子の太陽Rouge』
誉田哲也に〈ジウ〉サーガと姫川玲子のヒットシリーズがある。コラボで書かれたうち、先月は『硝子の太陽Noir』を読んだ。今月は姫川玲子シリーズの『硝子の太陽Rouge』。
こちらのシリーズは、登場人物の人間関係が良くわかっているから、すらすら読みやすい。事件自体は殺伐な話であるが、いつもどおり姫川玲子と上司や部下との付き合いが非常に魅力的に描かれていて楽しい。また職場の天敵である勝俣健作警部補とのやりとりが大きなアクセントになっており面白く読める。お薦め!
☆駒村吉重『君は隅田川に消えたのかー藤牧義夫と版画の虚実』
7月27日のブログに町田国際版画美術館の『小野忠重コレクション展』のことを書いたところ、小野忠重について興味深い本があると教えてもらったのがこの本。実在した人物が登場する生々しさにミステリーの要素もあって凄く面白い。さすがノンフィクション大賞をとった著者だけあり文章に説得力もある。
ただそれなりに有名な版画家であった小野忠重が何故こんなに手の込んだ危険なことをやらなければならなかったのかは、一応著者の説明はあるもののやっぱり疑問。
近代版画に関心あればお薦め。
☆村上春樹『雑文集』
村上春樹の本の序文・解説や挨拶などをまとめた短い雑文からなっている。
だからほとんど私の知らない外国のジャズ奏者や小説家などのことが書かれており、本来何の興味も湧かないはずなのだが、不思議に読んでいて楽しい。
文章が明快なこともあるが、一番大きいのは、多分ジャズ奏者や小説家のことを媒介にした村上春樹自身がそこに描かれているからだろう。
文章の中ではエルサレム賞・受賞の挨拶『壁と卵』に感銘を受けた。難しいスピーチを強いられる中で、相手を傷つけることなく(多分)自分の意見をきっちり言えるのが凄い。
☆『怪談おくのほそ道』―現代語訳『芭蕉翁行脚怪談袋』
江戸時代後期の奇談集『芭蕉翁行脚怪談袋』の現代語訳に、著者の解説をつけたもの。この時代の人々の思う芭蕉像が読みとれて面白い。ただ怪談とついているわりにはそれほど引き込まれる話はなく、また芭蕉が中国地方や九州に登場したり、掲載されている俳句の作者が違っていたり史実的にはかなり変。芭蕉やその門人を登場させて興味をひいたのであろう。
著者は本書を『怪談おくのほそ道』名付けたことについて解題で説明はしているのだが、違和感は残る。