酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

『クリプトグラム』

2013-11-23 19:55:53 | 演劇


「クリプトグラム」   於:シアタートラム
原作=デイヴィッド・マメット 翻訳・演出=小川絵梨子
出演: 谷原章介、安田成美/坂口湧久・山田瑛瑠(Wキャスト)

チラシには次のように書いてある。
『登場人物は、三人。ドニー、デル、そしてジョン。
三人の関係が、単純な言葉の応酬から、思わぬ展開をみせてゆく。
ミステリアスな展開で、見る者を引きつけてやまない
アメリカを代表する劇作家・映画脚本家デイヴィッド・マメット。
マメットが仕掛けた「暗号」とは……』

確かに短調のピアノ演奏や噛み合わない短いセリフの応酬は観客を不安にさせ、ミステリアスと言えなくもない。しかし作者マメットの仕掛けたという「暗号」は残念ながら私には見えてこない。

配役は妻ドニー役の安田成美、夫妻の友人デル役の谷原章介、そして夫妻の子供ジョンの子役。夫は重要な役割を果たすのだが舞台には登場しない。

それぞれが相手に質問を投げかけるのだが、殆どそれには答えないまま新たな質問を発する。どんな形で収斂するのかと思いきやそのまま流されてしまう。
小道具もナイフ・破れた毛布・古い写真など意味ありげに登場するのだが、ナイフがデルの嘘を暴く以外は、意味ありげだけで終わってしまう。
劇が終わった時、後ろのおばさんが「休憩なの?」と隣の人に聞いていたが、確かにこれから何が起こるのかと期待した者にはその終わり方も唐突であった。

翻訳劇のため意味合いが十分伝わってこないのかもしれないが、もやもやの残る舞台であった。

実はデイヴィッド・マメットの芝居は今回が二度目。『ライフ・イン・ザ・シアター』
という市村正親と藤原竜也の二人芝居を見たことがある。今回の芝居よりわかりやすかったが、正直余り面白くなかった記憶がある。
残念ながらマメットの期待する観客には永久になりえないかもしれない。
ちなみにデイヴィッド・マメットは「郵便配達は二度ベルを鳴らす」「アンタッチャブル」などの映画脚本を書いた作家である。

終わっていろいろ考えてみて、これは三人それぞれの、傷を抱えたままの自立の物語と私は解釈したのだが、的外れか。
(公演は明日11月24日で終了)

『モローとルオー  -聖なるものの継承と変容-』

2013-11-14 13:14:49 | 美術館


「モローとルオー  -聖なるものの継承と変容-」
 於:パナソニック 汐留ミュージアム 

キャッチフレーズは「世界で初めて、フランスを代表する二人の画家の芸術世界と心の交流がいま明かされる。」

フランスの象徴主義の巨匠ギュスターヴ・モロー(1826-1898)と彼に最も愛された弟子ジョルジュ・ルオー(1871-1958)の二人展。
二人とも好きな画家なのでもっと早く行きたかったのだが、今になってしまった。

ギュスターヴ・モローの作品で有名なものでは、『バルクの死の天使』『一角獣』『ユピテルとセメレ』などが出ている。ただ『一角獣』は女性に魅力がないし、『ユピテルとセメレ』は最晩年の同じ題の作品と比べるとずっと地味。モローと言えば『出現』などのきらびやかでインパクトのある作品を思ってしまうので、全般的には物足りない印象。

それに比べジョルジュ・ルオーの作品には面白いものが多かった。好きなものは『聖顔』、『我らがジャンヌ』、『道化師』、『キリスト』などなど。
中でも『道化師』は全般的に暗い印象のルーオー作品の中で穏やかな表情が魅力的であり、『キリスト』はちょっと落ち込んで見えるところがかわいい。椅子に座ってしばらく見つめてしまった。

体調に多少不安はあったが、展示の点数が程良く、込み具合もまずまずで、いい時間を過ごすことができた。

2013年12月10日(火)まで

『メリリー・ウィー・ロール・アロング〜それでも僕たちは前に進む〜』

2013-11-10 12:17:42 | 演劇


「メリリー・ウィー・ロール・アロング〜それでも僕たちは前に進む〜」

於:銀河劇場
演出:宮本亜門、作詞・作曲:スティーブン・ソンドハイム
出演:小池徹平、柿澤勇人、宮澤エマ、ICONIQ、高橋愛ほか

40歳を超えプロデュ―サーとして確かな地位を築いているフランク(柿澤勇人)。だが今の自分は本当の自分ではないとの思いを抱えている。若い時代に親友だったチャーリー(小池徹平)とメアリー(ラフルアー宮澤エマ)は、離れていった。あの熱い友情はどうなってしまったのだろう。舞台はそこから時代をさかのぼりながら展開してゆく。20年前に3人が出会った時まで。
40歳以降のフランクは描かれない。若い歌声で終わったことで元気の出る芝居になった。

主役の柿澤勇人と小池徹平が好演。ただ柿澤勇人は40代を演じる時はいいのだが、若い時代にも時々姿勢が悪いのが気になった。体力を鍛えて肩に筋肉がついたせいでそう見えるのかもしれないが、主役は立ち姿が美しくあって欲しい。
ガッシー役のICONIQの存在感、メアリー役のラフルア-宮澤エマの初舞台と思えぬ落ち着きにも注目したが、元モーニング娘。の高橋愛がベス役を堂々と演じているのにびっくり。
他ではガッシーの夫役の広瀬友祐や、万理沙がキャスター役でいい味を出していた。
シンプルな舞台装置を、映像がうまく補完しているのも成功している。

演技陣20代中心の若い熱気をうまく引き出した演出の宮本亜門の手腕で、見栄えのする舞台になった。
東京公演は 11月17日まで

読書三昧(25年10月)

2013-11-04 09:43:52 | BOOK


読書三昧(25年10月)

抗がん剤の翌日、しゃっくりが止まらなくなった。前から時々症状があったが、こんなひどいのは初めて。うつむいてコップの逆から水を飲むとか、しばらく息を止めて我慢するとか「しゃっくりを止める方法」を、やってみたが効果なし。翌日はぴたっと止まったが苦しい一日だった。

今月はかなりバラエティに富んだ本を読んだ。

10月に読んだ本
桜木紫乃『ホテルローヤル』
綿矢りさ『憤死』
村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
小栗虫太郎『完全犯罪』
東野圭吾『夢幻花』
原田マハ『ジヴェルニーの食卓』
今瀬一博句集『誤差』

☆綿矢りさ『憤死』
4編の作品があるが表題の「憤死」より、「トイレの懺悔室」の方が面白い。内容は違うが最後がホラー風なのは、先月読んだ芥川賞の藤野可織『爪と目』に似ている。作品発表は綿矢りさの方が先のようだが。
「トイレの懺悔室」の内容は、小学6年生4人が親父と呼ぶ中年の男からキリスト教の懺悔室をまねて、懺悔をさせられる。時がたち今は社会人となった4人は同窓会で久しぶりに再会。おれとゆうすけ2人は親父の家を訪ねるのだが・・そこに親父はいず、一緒に行ったゆうすけは昔の彼ではなかった。おれをトイレに閉じ込め、ゆうすけは勝手に懺悔を始めるのだった。
ラストのインパクトは強く、綿矢りさの成長を示す作品であると思う。

☆村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
今でこそ乱読であるが、どちらかと言えばへそ曲がりなので、人がもてはやすものは近づかないようにしてきた。村上春樹を読むのはこの本が初めてである。だから過去の彼の小説と比べることは出来ないが、文句なく面白い。
そんなに突飛な題材でないのにもかかわらず、他の小説にはない異次元とおもえる世界に引き込まれる。主人公ともすぐ同化出来る。それはなめらかな文章と、音楽や陶芸や哲学やその他もろもろをさりげなく組み込む独特の手法によるものであろう。
最後の章だけはちょっとくどい気はするが。
過去村上春樹に手を出さなかったことをちょっと後悔している。

☆原田マハ『ジヴェルニーの食卓』
この本は四篇の中編小説からなる。それぞれ画家のマティス・ドガ・セザンヌ・モネが題材になっているが、物語はその画家の召使や画家仲間、画商の娘、そして画家の後妻の娘などの目を通して語られる。語りにはそれぞれ画家への強い尊敬、深い愛情が感じられる。本来なら絵への知識がないと感情移入がしにくいはずだが、原田マハはそれなくしても感動出来る作品に仕上げている。中で私が特に好きなのは、マティスのことを書いた「うつくしい墓」。
村上春樹を凄いと思ったが、原田の四編も珠玉の作品と言っていいのではないだろうか。文句なくお薦め!