酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

『パレード』

2010-02-26 18:06:39 | 映画
「パレード」  原作:吉田修一 監督:行定勲

ルームシェアしている4人。それぞれが微妙なバランスの上に、日常生活を送っている。そこへオカマの若者サトル(林遣都)が入ってきたことで、何かが動き始める。

若者の他者との付き合い方に見る、現代社会の怖さを浮き彫りにしようとする試みと言えようか。
ヘリコプターの飛ぶ音や音楽が効果的で、不安感を増幅する。ただ怖さを徹底するには、政治家が出入りする隣室のエピソードが弱い。
またネタバレになるので書けないが、一見奔放な未来(香里奈)や真面目で社会に一番適応しているように見える直輝(藤原竜也)の行動も、現実味には今一つ欠ける。

ただ俳優達は5人の個性がうまくかみあって面白い雰囲気を作っている。特に良介の小出恵介と琴美の貫地谷しほりのかけあいが面白い。サトル役の林遣都の個性も光る。

アクションやお涙ものの多い最近の映画の中で、心を波立たせる異色作である。
上映の映画館が少ないのが残念!


『血は立ったまま眠っている』

2010-02-13 13:00:28 | 演劇
「血は立ったまま眠っている」 原作:寺山修司、演出:蜷川幸雄、出演:森田剛・窪塚洋介・寺島しのぶ・遠藤ミチロウ

「ムサシ」などを見てわかるように、蜷川幸雄は非常に美しい舞台を作る人だ。その蜷川が、何故これほど汚ならしい舞台を作るのかが不思議。
美的とは言えない、セックスシーン・放尿や嘔吐シーンが、それも延々と続くのだ。場所はシアターコクーンという大劇場、観客の大部分はV6森田剛のファンの若い女性。そんな対象が素直に受け入れるとは思えない。それでもやることに、「本当の芝居を見せてやる」という蜷川の気負いを見てしまう。

「血は立ったまま眠っている」は寺山修司最初の戯曲で23歳の時の作品。60年安保時代の若者の屈折する青春を描く。原作からは、蜷川の舞台ほどの汚ならしさは感じない。

森田剛(良役)は熱演だが、17歳の役はちょっときつい。たまたま前の席だったせいで、もう少し後ろだったら気にならなかったかもしれない。テロリスト灰男役の窪塚洋介は、かっこよい立姿で初舞台としては上出来。寺島しのぶ(良の姉・夏美役)は出番は短いが、存在感を見せる。

床屋などの舞台装置の細やかさに比べ、集団演技の部分は荒い感じ。猥雑さやエネルギーの方に重点を置いたせいだろう。
もう少し寺山戯曲の叙情的な部分で勝負して欲しかった。

疲れた手
の上に十一月のレモンが
ある
これは終着駅だ。
そこにゆくまでに私の人生は
さよなら
をもうあと何べん言うだろう
・・・
([血は立ったまま眠っている」より)


『ゴールデンスランパー』

2010-02-09 13:26:51 | 映画
「ゴールデンスランパー」  原作:伊坂幸太郎  監督:中村義洋
映画は原作より、甘酸っぱい青春ものの雰囲気が色濃い。そのぶん逃走劇のスピード感や対権力への視点などは薄まっている。

権力側の策略で、首相狙撃犯にされてしまう青柳雅春(堺雅人)。学生時代のクラブメンバーや昔の仕事仲間、得体のしれない殺人犯キルオ(濱田岳)などの助けを得て、警察の追走を逃れようとするが・・・。

堺雅人のほのぼのとした雰囲気が、犯人にされてしまう平凡な市民という役柄にぴったり。竹内結子もちょっと気丈な青柳の元恋人樋口晴子を好演している。
脇役たちも多彩で、ドラマに深みを与える。中でも晴子の子供七美を演じる子役と青柳の父役の伊東四朗が芸達者で泣かせ、笑わせてくれる。
ベンガル、柄本明、岩松了などもいい味を出している。劇団「東京乾電池」には昔、個性的な役者さんが揃っていたことにいまさらながら感心。

細かいシーンまで、非常に丁寧に作ってある映画で、現代社会に隠された不安と青春への郷愁がうまくバランスしており、上々の仕上がりと言える。


『Dr.パルナサスの鏡』

2010-02-08 09:27:44 | 映画
映画「Dr.パルナサスの鏡」見ました。監督テリー・ギリアム 

ダークナイトで有名なヒース・レジャーの急死により、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルが代役をつとめることで話題になった作品。
ディズニー映画が描きそうなイマジネーションの世界を皮肉っぽく、一ひねりしている作品と言えばいいのでしょうか。

舞台の上の鏡を抜けると別の世界が現れることを売り物にする、旅芸人の一座がロンドンにやって来ます。座を率いるパルナサス博士は、過去に悪魔と取引して不死を得ています。ただ賭けに勝たないと、娘の十六歳の誕生日には、悪魔にかわいい娘を差出すという条件で。
ところが娘が旅の途中で、橋に吊り下げられた男を助けてから事態は急展開。

奇妙な舞台設定、イマジネーションあふれる映像、「物語がないと人間は生きられない」などの哲学的セリフなど面白いところもあるのですが、どこかもやもやが残ります。

問題はパルナサス博士と悪魔の賭けにあるような気がします。5人を自分の方に引き入れた方が勝というのですが、どうなれば引き入れたことになるのかが、わかりませんでした。博士の方は舞台にある鏡の中へ客を引きずり込めばいいようなのですが、みんな最後は鏡の外へ戻ってきてしまいます。悪魔の方は一人だけの確保はわかったのですが・・・。
もう一度見る気力はないので、いずれテレビで放映の時ゆっくり確かめるつもりです。
ともかく二人の対立が鮮明でないと、痛快さは生まれないと思います。

カラフルで夢のような映像は、何年か前の鈴木清順の映画に似たものを感じましたが、私だけでしょうか。

『アンチクロックワイズ・ワンダーランド』

2010-02-06 10:23:27 | 演劇
阿佐ヶ谷スパイダース「アンチクロックワイズ・ワンダーランド」を見た。
作・演出はロンドン帰りの長塚圭史  下北沢本多劇場
出演 池田鉄洋・加納幸和・光石研・中山祐一朗ほか

内容はホラーで高い評価を得た作家が、観念的な小説へと転換して批評家から酷評を受ける。悩む内に、現実と作品世界の境界が曖昧になって・・・。

作家長塚圭史の試行錯誤がそのまま舞台になった感じ。劇中の作家は、留学を期に過去の評価を消し、再出発しようとする長塚自身にも見えた。

作家が、現実と作品世界を漂流するシチュエーションは、映画にもあり新しくはない。セリフは観念的というか哲学的というか、今ひとつ心に響いてこない。加えて途中から登場の男女(馬渕英俚可・伊達暁)も、作家との関係が希薄で効果的な役割を果たしているとは言えない。
長塚作品にしては、ホラー度不足(これは意図的か)の上、いつもの切味も見られず不満が残る。

ただ村岡希美・小島聖・馬渕英俚可など女優陣の迫力ある演技が、最後まで芝居をだれさせないのは見事。(~2月14日まで)