酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

「私はだれでしょう」

2007-01-27 22:02:23 | 演劇
井上ひさし作・栗山民也演出 「こまつ座第81回公演」 新宿紀伊国屋サザンシアター(1月26日観劇)

まず、4日前の「劇団☆新感線」の舞台と客層の違いにびっくり。今日は団塊世代と思われる年齢が中心で、それも男性が四割。男子トイレで並んだのは芝居では久しぶりのことである。

舞台は終戦後GHQの占領時代のNHK。「尋ね人の時間」を担当する人たちの日々を描いている。
私は誰でしょうと自分探しをしている記憶喪失の青年、日米二重国籍の民間情報局員、組合活動家などがからむ。それぞれの抱える問題が少しずつ明らかになってゆくにつれて、点が線に変わってゆく。

当時の日本の状況、その時代を生きた人達の思いを風化させたくないという作者の思いは伝わってくる。

しかし如何せん芝居は未完成である。井上ひさしの脚本の遅れで、まだ幕があいて5日目。その先入観かも知れないが、セリフが不安定。不自然で、微妙な間が芝居の流れを悪くしている。

後ろに座ったおじさんたちの話題は、芝居よりたまたま見に来ていた山田洋次監督に集中。座っているだけで存在感があるのはさすがであるが、芝居側からはちょっとさびしい状況。

「天保十二年のシェークスピア」や「頭痛肩こり樋口一葉」など井上ひさしの切れは残念ながら見られない。次回の蜷川幸雄とのコンビの「薮原検校」に期待するしかない。

今回の出演者の中では大鷹明良に注目。「演劇舎蟷螂」で美加里などと共演していた頃は男っぽい精悍な役者のイメージだったが、一変して放送用語調査室主任という、さえないおじさん役に挑戦しているのが面白かった。


「朧の森に棲む鬼」

2007-01-24 00:14:00 | 演劇
中島かずき作・いのうえひでのり演出 新橋演舞場

今の日本の演劇でシェークスピアがこれほど手を替え品を替え取り上げられているとは、イギリス人もびっくりかも。
最近私の見た作品だけでも「天保十二年のシェイクスピア」「間違いの喜劇」「タイタス・アンドロニカス」「メタルマクベス」など。

この「朧の森に棲む鬼」もリチャード三世を下敷きにしているとか。
森の魔物と命を引き替えに王の座を約束されるライ(市川染五郎)。魔物にもらった「オボロの剣」は嘘をつく赤い舌と一体。あらゆる嘘で王位に近づいてゆく。
弟分のキンタ(阿部サダオ)や盗賊マダレ(古田新太)もからみ、悪のかぎりを尽くして、ライはとうとう王位につくのだが・・・。

でも正直言って前半は退屈した。光や効果音による劇画チックさばかりが目立って、肝心の芝居が遠くにあった。
加えて女優陣の歌と踊りにも乗れないまま・・・う~んという感じ。
「劇団☆新感線」と市川染五郎のコラボもここまでかと思ったのだが。

しかし三十分の休憩のあと、後半は見違えるように面白くなった。テンポのよい流れ、面白い筋書き、迫力ある殺陣に目を奪われた。
なりあがっていくに連れ、悪の凄味を増してゆく市川染五郎のライ。
会場はいつか赤に染められた染五郎ワールドへ。

これほどのアンコールやスタンディングオーベーションを見たのも久しぶりである。

先週は父の松本幸四郎の歌舞伎、今週は長男の染五郎、来月は長女松たか子の「ひばり」が入っており、いつの間にかこの一家の芝居に取り込まれているのに気がついた。

「初春大歌舞伎」

2007-01-17 00:06:42 | 演劇
歌舞伎座の夜の部は、「廓三番叟(舞踊)」・「金閣寺」・「春興鏡獅子(舞踊)」・「切られお富」

今回のお目当ては、「金閣寺」の玉三郎の雪姫。
雪舟の孫という雪姫(玉三郎)が松永大膳(幸四郎)に捕われるが、桜の花びらと涙で鼠の絵を書き、動き出した鼠が、括られていた縄を噛みきるというお話。
玉三郎が期待通りに、爪先と裾さばきで絵を描くシーンを華やかに演じてくれる。

「春興鏡獅子」は勘三郎と、宗生(橋之介の次男)・鶴松が共演。
子供はかわいらしさだけで見せるケースが多いが、この二人は長い時間を、胡蝶の精として、しっかり踊りきる。会場からも感嘆のため息が沸いた。
歌舞伎の伝統の継承が、しっかり行われていることに納得。
勘三郎は獅子の精の舞でひときわ高い拍手をあびていたが、必ず客を喜ばせてくれる貴重な役者さんである。

最後は「切られお富」 。
お富がメッタ斬りされるシーンなど、最近のバラバラ事件を思い出してしまう。
もうちょつと正月らしい楽しい出し物はないのだろうか。
お富を演じるのは福助。昭和57年に国立劇場の歌舞伎教室で「俊寛」の千鳥を演じたのを見て(当時は児太郎)、その明るい軽やかな動きに驚嘆したものだが、ここではしたたかなお富の役。かわらぬ芸達者ぶりが楽しい。
新春公演だからか、第三場でお富と蝙蝠の安蔵の立廻り途中で、二人が挨拶して終りになる。
歌舞伎通には当たり前のことなのかもしれないが、ちょっと肩透かしの気分。

したたかなお富が主役初芝居  酢豚