「かもめ」第七劇場 シアター トラム
原作:A.チェーホフ
構成・演出・美術:鳴海康平
出演:佐直由佳子・小菅紘史・伊吹卓光他
チェーホフの「かもめ」の原作は、若い作家コースチャが銃で自殺するシーンで終る。今日見た第七劇場の芝居は残されたニーナのその後を、チェーホフの他の作品を加えながら描く意欲的な作品。
場所は精神病院。医者のドールンが入院中のニーナの見舞いに訪れる。入院中の患者たちとの会話の中で、ドールンがニーナの過去について話しはじめ、いつか舞台では原作の「かもめ」が回想シーンとして演じられる。現実と回想のあわいが曖昧となってゆく。
ラストシーンでは患者の一人が町のこと、向こう側のことを教えて欲しいと言う。ドールンの「町はうんざりするほど退屈だ」というセリフで幕となる。
精神病棟の中と外。どちらが正常でどちらが異常かとの問いかけとともに、病棟の中の方が、いい場所ではないかと匂わせる。
ラストシーンはアフタートークによるとチェーホフの「6号室」という作品にあるのだという。
料金が1000円(初めて第七劇場の舞台を見るもの・世田谷パブリック会員)という安さだったので正直期待していなかったのだが、演技はよく訓練されており、白を基調にした舞台も美しく、内容も刺激的だった。
チェーホフの「かもめ」を知らないと内容についていけない気はするが、小劇場では実験的な要素もあるので、許されるだろう。
ただ唯一、ニーナ(佐直由佳子)の演技が、精神を病んでいるというより痴呆的な感じに見えてしまうのが気にかかった。左手の指先を鼻の近くにもっていく動作を繰り返すことに原因があるように思う。
この芝居は2007年に初演され、日本各地やフランスで上演され好評を博したという。
東京公演は11日で終了。広島公演が11月にある。