酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

『象』

2010-03-31 23:06:29 | 演劇
「象」 新国立劇場
 作:別役 実  演出:深津篤史 出演:稲垣吾郎/奥菜 恵/神野三鈴/大杉 漣

原爆の被爆者を描いた物語で、内容は結構重い。ただ舞台上でのセリフのやりとりは、その深刻さを感じさせない。

ともに被爆者である男(大杉 漣)とその甥(稲垣吾郎)。男は入院中であるが、肩のケロイドを見せて自分を誇示した昔が忘れられず、もう一度人前に立つ機会を狙っている。甥の方はひっそりと生きようと男を説得する。
二人の病人の生き方から、被爆者を見る世間の目がちょっと皮肉に語られる。

稲垣吾郎、奥菜恵(看護婦)、神野三鈴(妻)などが役にはまった演技を見せているのだが、それを上回って大杉 漣の熱演が目立つ。あまりに力が入り過ぎて、大衆演劇の座長芝居風に見えるところもあったほど。悲しいまでに一途な男を演じきる。

全体に面白かったのだが、一つだけ不満がある。
見知らぬ通行人同士が何気ない会話をしている内に、その会話のずれからいつかステッキで殺し合いになる場面。一番別役芝居らしいところなのだが少し空回りしている。セリフはしっかりしているから、二人の掛け合いの間合いに問題があるのだろう。


『シャーロック・ホームズ』

2010-03-29 15:21:11 | 映画
「シャーロック・ホームズ」 監督ガイ・リッチー、出演ロバート・ダウニーJr.・ジュード・ロウ・レイチェル・マクアダムス他

ロバート・ダウニーJr.のシャーロック・ホームズが、とぼけた表情の一方で、難問を解決し、すぐれた身体能力を発揮するその落差が面白い。
またワトソン(ジュード・ロウ)との微妙な男と男の関係や、悪の一味になっている女性との恋のやりとりにも味わいがある。

ただ筋自体はたわいがないもので、過去の007やダ・ヴィンチコードの寄せ集めの感じがしなくもない。
でも単純明快で息抜きにはもってこいの映画とも言える。ぐじぐじ悩んでいる人にお勧め!

『ヘンリー六世』

2010-03-26 00:00:26 | 演劇
「ヘンリー六世」 彩の国さいたま芸術劇場
原作:シェイクスピア 演出:蜷川幸夫 出演:上川隆也・大竹しのぶ・吉田鋼太郎・長谷川博己・草刈民代他   

上演時間約8時間(休憩含む)という長丁場。

舞台はイングランド。外にはフランスとの戦いがあり、内には王位をめぐる貴族の間に欲望が渦巻く。百年戦争・薔薇戦争時代の絵巻といった感じ。

出演者が多く、流れも早い。観客の理解を助けるための小道具が天井から落ちてくる。紅白の薔薇、白い百合そしてドスンドスンと落ちてくる肉の塊(のようなもの)。それぞれが、場面の展開をあらわしている。

俳優で目立ったのはリチャード役の高岡蒼甫。宮崎あおいは変な男と一緒になったのかと思っていたが認識不足。演技者として中々のもの。不自由な体に生まれた心の屈折と野心をかかえる複雑な心境を見事に表現。他ではサホーク伯爵の池内博之が目立つ。
大竹しのぶは前編でのジャンヌ・ダルク役のノリが悪かったうえ、殺陣の下手さが緊迫感を削ぐ結果に。後編のマーガレットで持ち直したが実力者だけにちょっと不満。
上川隆也は弱気なヘンリー六世役。、今までにない役柄のためか苦労しているように見えた。

しかしこれだけ長い時間、退屈せずに見られる芝居を作ったシェイクスピアはやっぱり凄い!

一時間休憩の時、駐車場側の出口をでると、逆の戸口で横田栄司さんが何気に煙草を吸っていた。つい今まで舞台でウォリック伯爵を演じていたのに、もう目の前で私服で煙草を吸っているのが、何か不思議で面白かった。


『農業少女』

2010-03-19 19:08:58 | 演劇
「農業少女」東京芸術劇場小ホール
作:野田秀樹、演出:松尾スズキ、出演:多部未華子・山崎一・江本純子・吹越満

芝居が始まった途端、私は今月後半予定の高校演劇をもう見に来ているような錯覚に陥った。それほど登場した主演の多部未華子は幼い感じで、可愛いかった。

農業が嫌いで東京に出る少女百子(多部未華子)。都会への憧れは、胡散臭いボランティア団体の指導者都罪(吹越満)への思いに変わる。
少女たちが作ったとして、売る米の名前は「農業少女」。いつかその名前だけが一人歩きして、怪しげな組織はふくらんでゆく。自分の夢が架空の世界だと知った少女は壊れはじめ・・・。

イルカの問題など時事問題もおりこまれ、タイムリーな笑いも随所にあるのだが、松尾スズキの演出は意外に手堅い。野田秀樹作品の良さを上手く表現したと見るか、野田の枠をはみだせなかったと見るかは意見の分かれるところであろう。
ただ非常に面白い作品に仕上がっているのは間違いない。

四人の出演者はキャラクターがうまくはまっている。中でも山崎一は奔放な少女へ、のめりこんでしまう中年男を好演。いつも印象に残る役者さんである。

「気分」が支配している社会への警鐘という野田秀樹のメッセージが、ほどよい味付けになっている。

毎日が芝居

2010-03-16 17:36:02 | 演劇
明日から私にとっては春の演劇祭みたいなもの。

「農業少女」(原作:野田秀樹、演出:松尾スズキ)を皮切りに楽しみな芝居が続きます。

3月後半には相鉄本多劇場の「春の高校演劇フェスタ」もちょっとのぞきたいし、観劇の合間に仕事といった状況になりそう。
体力勝負です。


『渇き』

2010-03-06 11:53:52 | 映画
「渇き」 横浜ニューテアトル
カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した韓国の吸血鬼映画である。

私の吸血鬼(ドラキュラ)狂いは結構古い。ドイツ文学の授業でムルナウ監督のサイレント映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」を見たのがきっかけ。それ以来、ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」はもちろんのこと「夜明けのヴァンパイア」「ドラキュラ紀元」などの小説を読み、「魔人ドラキュラ」や「ドラキュリア」などの映画、海老蔵の舞台「ドラクル」、そして銀座の居酒屋「ヴァンパイアカフェ」まで、関係あればどこでも出かけるという状態に。ドラキュラ城のルーマニアにはまだ行けてないが。

吸血鬼映画は過去、日本では苦戦している。アメリカで大ヒットの「トワイライト」もパッとしなかったようだ。吸血という動物的行為が、日本人の嗜好に合わないのかもしれない。

ではこの韓国の吸血鬼映画「渇き」はどうか。監督は「オールドボーイ」などで有名なパク・チャヌク。
最近は吸血鬼との戦い中心のパターンは少ない。この映画も人間を愛し、そして人間性を捨てられない吸血鬼の苦悩を描く。

神父として行き詰まったサンヒョン(ソン・ガンホ) は別の形で人に役立ちたいと、ある研究所の人体実験に身を投ずる。次々死んで行くなかで彼だけが生き残るが、体は吸血鬼になってしまっていた。奇跡の生き残りの神父として崇められるのだが、人に言えない苦悩が・・・。
いつか友人ガンウの妻テジュ(キム・オクビン)と愛し合うように。そしてテジュも吸血鬼になるが、テジュの割り切りは早い。「人間じゃないんだから、人間らしく考えなくていい」と奔放に振る舞う。しかし男は人間性を捨てきれない上、テジュのために犯した罪の意識にもさいなまれる。吸血鬼を楽しむテジュと、それを止めようとする二人の行き着くところは・・・。

吸血鬼を下敷にウェットな男性とドライな女性との愛の物語になっている。筋は結構荒く、血の飛び散る凄惨なシーンも多いが、色のトーンの変化や小道具が画面を引き締めている。

ラストで二人の思い出の靴が、落ちるシーンがオシャレ。