酢豚のひとりごと

楽しい芝居と映画探しつづけま~す!

「雷神不動北山櫻」

2008-01-28 14:33:24 | 演劇
先週「雷神不動北山櫻」を新橋演舞場で見た。確か昨日が千穐楽だったはずである。

簡単に言えば、市川海老蔵の海老蔵による海老蔵のための芝居といったところか。
市川団十郎家伝来の「荒事」と、海老蔵の五役が見もの。
隈取の顔、見得を切り、六方を踏み、睨み、早口言葉など、三十歳の市川海老蔵の持てるものすべてを出しつくした感じ。

ただ途中で海老蔵が舞台から消えた途端、私の前と両隣の客が一斉に居眠りを始めたのには、笑ってしまった。
だから芝居全体としてどうだったかという問題はあるが、さすがの海老蔵、それにもちゃんと布石が打ってある。
筋書(パンフレット)にこんな海老蔵の言葉がある。

「この作品は、私の〈歌舞伎探し〉の始まりです。(中略)この作品は人の心を 打つ芝居ではありません。だから泣けるとか笑えるとか、そういうことを期待して劇場に来ていただくと裏切られることになるかもしれません」


市川家と関係の深い成田山新勝寺が開基1070年とか。その割にはラストシーンの宙吊りの不動明王の姿は小さくて迫力に欠けた。五役にならなくなるが、このシーンは不用か。
その前の梯のりの部分は迫力があり見応えがあっただけに惜しい。

ともかく海老蔵からのお年玉で、サービス精神一杯の舞台だった。


『キル』

2008-01-19 00:03:25 | 演劇
NODA・MAP 第13回公演「キル」
作・演出: 野田秀樹
出演:妻夫木聡、広末涼子、勝村政信、高田聖子、山田まりや、村岡希美、高橋恵子、野田秀樹ほか
渋谷シアターコクーン

羊の国の洋服屋テムジンはブランド「蒼き狼」で世界制覇を企てるが、いつかライバルの「蒼い狼」が出現。その野望も蜃気楼の彼方に消えてゆく・・・。

テムジンは、現実を生きたのか、それとも母の羊水の中で見た夢だったのか。
モンゴルの広く澄んだ青空が目に浮かぶラストシーンは感動的である。

主演テムジンは妻夫木聡。
出だしは声がかすれ、苦しそうだった。しかし芝居が進むにつれて、初舞台とは思えない堂々とした演技。テレビで見るひよわそうな雰囲気は全くなかった。

テムジンの妻シルク役には広末涼子。
「MajiでKoiする5秒前」からのファンとしては、本人のノリと、芝居の流れのずれにちょっとハラハラ。でも精一杯演じていた。過去のNODA・MAPの宮沢りえや松たか子と比べるのは酷だろう。

この芝居いつもの言葉遊びと下ネタが結構出てくるが、そういえばシェークスピアも同じ。
でも野田さんは今後「THE BEE」のような深刻路線に方向転換するらしいから、この軽さ楽しさは見られなくなるかもしれない。ちょっとさびしい。

ブレヒト幕や舞台の中ほどに段差をつけ起伏を見せるなど、大地の広さを感じさせる工夫が非常に効果的だった。芝居の成功に舞台装置の貢献度も高い。


新春浅草歌舞伎

2008-01-15 14:42:23 | 演劇
新春浅草歌舞伎に行ってきた。
出演者は市川亀治郎・片岡愛之助・中村獅童・中村勘太郎・中村七之助・市川男女蔵・中村亀鶴・坂東巳之助など若手の花形が勢ぞろい。

素人の私の目には、勘太郎と七之助の兄弟が際立って見えた。

七之助のお年玉(年始挨拶)で始まり雰囲気がやわらいだところで、
近松門左衛門作の「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」。
絵師の先生から土佐の名字を使うことを許してもらいたい弟子の又平であるが、吃音のせいもあり、断られてしまう。これでは生きる甲斐もないと、又平夫婦は自害を決意する。この世の名残りと手水鉢に自画像を書くと・・奇跡が・・・。
又兵の中村勘太郎は言葉が不自由な難しい役どころを気負いなく、さらっとこなしている。父親勘三郎譲りの軽妙さも見せ、泣かせどころもしっかり演じていて見事。

一方中村七之助は、次の演目、河竹黙阿弥作「弁天娘女男白波(べんてんむすめめおのしらなみ)」に登場。弁天小僧菊之助を演じる。
大家のお嬢様として呉服商の浜松屋に来るところなどすごいオーラを感じる。セリフもはっきりして気持ちが良い。ただ正体を見破られ、本来の男に戻った途端精彩がなく見えるのは私の気のせいだろうか。

同じように共演だったコクーンの「三人吉三」では、七之助の演技が勝っていると感じたが、今回は兄の勘太郎の勝ちか。

ともかくも浅草の正月が身近に感じられる華やかな舞台で満足した。


「失踪者」と「審判」

2008-01-01 00:03:25 | 演劇
今年の締めくくりのブログです。観た後ずっと書けなかった芝居のことを、最後に書きます。
十一月後半と十二月の始めの二回、三軒茶屋シアタートラムで「失踪者」と「審判」見ました。構成・演出はどちらも松本修、作者はフランツ・カフカです。
12月で国内ツアーも終わりました。

すぐにブログに書けなかったのは、原作を読んで見たくなったからです。もしこの芝居に出会わなければ、カフカの小説を読むことは無かったと思います。二つの芝居に刺激を受け、原作を読まないではいられない気分になりました。

まず「失踪者」はすでに読売演劇大賞優秀作品賞ほかを受賞して評価されたものの再演です。
劇場の入口側をステージにという面白い試み。時間ギリギリに来た客は、入った途端、観客の視線を浴びてびっくりしていました。船の甲板になったり、高層階の部屋になったりします。
筋は、17歳のドイツの青年カールロスマンが家族から追い出され、アメリカに出て来る話。上院議員になっている叔父さんに偶然会ったり、ホテル仲間の少女と恋仲になったり、フランスやアイルランド出身のチンピラと仲良くなったりするのですが、ドイツ人らしい融通のきかない正義感から、アメリカ社会になじめません。最後はオクラホマ劇場の劇団員として採用され、列車に乗せられるのですが・・、芝居ではそれがゲットー行きの列車。何も知らないまま乗せられるという印象的な終り方です。
原作本では、採用されたオクラホマ劇場に列車で向かうところで淡々と終ります。
ゲットーという解釈は演出家独自のものなのか、カフカが別のどこかで書いているのか、まだ究明出来ていません。
主人公は五人の俳優が場面場面で交替します。この作品は評価を受けた作品なのですが、残念なことに五人の演技力に差があり、芝居に乗れないところもあります。印象的なラストシーンや独特の面白い動きの割には、芝居のところどころに緊迫感がない部分があるのを物足りなく思いました。

もう一つみた芝居は「審判」です。
ある日銀行員ヨーゼフKはわけも分からないまま逮捕されてしまいます。相手であるはずの裁判官達はつかみ処がありません。裁判官に近い画家や女性、そして弁護士に打開策を見い出そうとします。しかし彼らの話も要領を得ません。ヨーゼフKの頭の中は裁判のことで一杯なのですが、あらがいは必死のようであり、必死でないようでもあります。そんな日常に慣れはじめた時、死刑の執行が・・。「犬のようだー」と叫ぶ主人公。ヨーゼフKは何がなんだかわからないまま死刑なるのですが、どこかで死を受け入れているような雰囲気もあります。これはカフカがユダヤ人であるせいでしょうか。
こちらの「審判」は初演ですが半年をかけたワークショップの成果が十分感じられる舞台でした。主役の笠木誠も迫力ある演技で見せます。高低差を利用した舞台美術も魅力的でした。

「失踪者」よりも私は「審判」の方を評価しますが、どちらも今年見た中ではいろんな意味で刺激を受けた面白い作品でした。