ゆきてかえりしひび――in the JUNeK-yard――

読書、英語、etc. jesterの気ままなおしゃべりです。(映画は「JUNeK-CINEMA」に引っ越しました。)

獄中記  佐藤優

2007-11-06 | 読書
佐藤優さんを覚えていらっしゃるでしょうか?

「鈴木宗男雄vs田中真紀子」騒動で、外務省職員ながら鈴木宗男さんの私設秘書化していたといわれ、背任・偽計業務妨害容疑で逮捕され、今裁判中の方です。

獄中記
これは彼が東京拘置所に拘留されていた512日の日記。

B5版62冊のノートからの抜粋と、弁護団に書かれた手紙で構成されています。

外交官としての死を受容し、真摯な思索と学習、神との対話を繰り返した記録。

ニュースなどで伝えられ、映像から感じていた彼の人間像を覆し、あのときの騒ぎ自体を再考させられるものでありました。

なにしろあのときの鈴木宗男バッシングはすごいものがありました。
うちの娘なんか鈴木宗男と田中真紀子の物まねがかなり上達してましたし。(爆)

その中で、佐藤さんの姿もニュースで何度か見かけました。
ギョロッとした目つきと太い首に「外務省のラスプーチン」という渾名がぴったりだなと思った覚えがあります。

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
なので、おととし、彼の書いた「国家の罠」がベストセラーになったときも「単に暴露本だろう」ぐらいの感覚で、手にとることもしませんでした。

今回「獄中記」を手にしたのも、書店でなんとなくだったのですが、最初の何ページかを立ち読みしているうちにぐんぐん引き込まれ、ついに買って、何度も読み返す本の1冊になりました。

それにしても最初は「この人は外交官であり、腹芸だの嘘をつくのだの情報操作はプロなんだからだまされちゃ駄目」と腹をくくって読んでいたのですが、最後のあとがきで「米原万里さんと仲が良かったが、死んでしまって残念だ」ということが書いてあり、びっくり。

実は米原万里さんの本は昔からの愛読書であり、最近、くっちゃねさんのところで『オリガ・モリソヴナの反語法』のレビューを読んで、「あ~~この本読んだっけ?」と思い、読んでみて、それから彼女の作品を全部再読していたところだったのでした。
(これらの本についてはまたいつか書きたいと思っています。)

それで米原万里さんのエッセイ集を読み返してみると、確かに彼だと思われる人物が登場するんですよ!

同じロシアを飯の種にしていること、無類の猫好き、という共通点があるとしても、米原さんが友人として佐藤優さんをかっていたというので、かなり彼の信頼度が増しました。

まあ、それ以前に「獄中記」自体にすごく惹かれるものがあって読んでいたのですが、これでダメ押しされた感じ。


同志社大学大学院神学研究科卒業で、外務省入省はノンキャリアとしてですが、とても賢い人で、その深い教養と人格の高さ、まさに彼が外務省の職を辞したことは「国家の損失」であると感じました。

記録文学としても、東京拘置所の詳細な描写がたまらなく楽しい。
生活、食事、取調べの様子などが客観的に書いてあって、興味をそそります。

4000冊という蔵書を持つ「読書家」の彼が、独房内に私本3冊、その他7冊しか本を置けないという状況で、どういう本を読むか。
「現代独和辞典」の通読、なんてことをしてるんですよね。

jesterの友人で、熱帯雨林の研究中、フィリピンの山の中で共産ゲリラにつかまって、軟禁状態になったヤツがいるのですが、彼女はゲリラが来たときとっさにペンと小さなフィールドノートを洋服の中に隠し、これがあったから軟禁状態を耐えることができた、と言ってました。
「読み書きお絵かきオタク族」にとって、筆記用具を取り上げられることほどつらいことはないですよね。

佐藤さんも入所当初は夜間、筆記用具を部屋に置くことを禁じられ、『書ける生活』の贅沢さをしみじみ感じたそうです。
現代ではまれな経験じゃないでしょうか。


しかし、最後にはこういう生活が気に入って、出所したあとも仕事場に同じような狭い部屋に小机を置く環境をつくった、というエピソードが彼らしくておかしかった。
結局シャバではうまく作用しなかったようですが・・・・。


接見禁止(弁護士以外の人と会えない)で4畳半の独房の中で、日中は横になることも許されず、取り調べ以外の時間をどうつぶし、どう自分らしく楽しみ、どう生き抜くか、という点では鄭念さんの記録文学の真骨頂、「上海の長い夜―文革の嵐を耐え抜いた女性の物語〈上〉」にも勝るとも劣らない、類まれなものとなっていると思いました。

それから彼の作品をつぎつぎと読みました。
どれも面白い。(そのうちレビューを書くかもしれません・・・)

しかし・・・・
最近でた、この本だけは表紙がいただけませんねえ・・・・

なんかダイエット、失敗してます、佐藤さん。(爆)


鈴木宗男さんも、彼が書くところを読むと、マスコミが造ろうとしていた鈴木宗男像と全く違う人物に思えます。

視点の転換を経験出来るのが心地よい。

しかしマスコミによって作られる虚像は恐ろしいですね。
政治には関心がない(ということ自体、大声で言えない、大人としては大変にみっともないことですが)jesterでも、もっと賢くならなくては、と思わされる1冊。


ところで、この本にはまっていろいろ関連本を読みふけってましたら、いつのまにか池袋のジュンク堂の7階に「佐藤優書店」が出来ていました。

以前お知らせした「萩尾望都書店」のようなイベント書店なんですが、この本に出てくる数々の書籍もここで手に入ります。

この本を読んでから訪ねると、さらに楽しい。
人の本棚を見るのが好きなjesterですが、そういう感覚で、「ふ~ん、こんな本がある!」と興味津々。

もちろん米原万里さんの本もあります。
京都やその他全国のジュンク堂書店で開催されているということなので、ご興味のある方はぜひ覗いてみたらいかがでしょう?



最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ふ~む・・・ (くっちゃ寝)
2007-11-06 15:04:28
佐藤優?鈴木宗男?
正直言って、それだけで一瞬ひいてしまいました~。

でも。
最近マスコミの、さまざまなバッシングにうんざりもしています。
マスコミがつくりあげた虚像に踊らされる私たち。
人は誰であれ様々な面を持ち、ひとつの面から断定できるわけないのに、「悪役」にきめつけられてしまう。
本人にしたら、たまったもんじゃないですよね。
そういう意味でも、jesterさんのこのレビューは興味をひきました。

それにしても、独房って本が7冊しかダメなの?筆記用具も!?
そんな~!一体何して時間つぶすんですか~!?
せいぜいそんなところへ入らなくてもいいよう、悪いことはいたしません、と決心したくっちゃ寝でした(爆)
返信する
くっちゃ寝さん~ (jester)
2007-11-06 21:47:06
くっちゃ寝さん、毎度コメントありがとうございます♪

>佐藤優?鈴木宗男?正直言って、それだけで一瞬ひいてしまいました~。

そうですよね~
でも読んでみると結構意識が変わりました。
「本当にこんな高潔な人なのかしら」と思いながら読んでましたが、米原さんが友人、と聞いてかなり信頼できるのかなと思いました。

>マスコミがつくりあげた虚像に踊らされる私たち。
人は誰であれ様々な面を持ち、ひとつの面から断定できるわけないのに、「悪役」にきめつけられてしまう。

私たちはマスコミの作る情報以外に情報を得ることが難しいですものね。

この事件でも産経新聞の記者が、『真の佐藤優について』記事を書いたらしいのですが、他のメジャーな新聞には彼を擁護する記事は載りませんでした。

>それにしても、独房って本が7冊しかダメなの?筆記用具も!?

詳しくは、私本3冊、宗教経典・教育用図書7冊、パンフレット10冊、しかも全部検閲ありで、要望した本を全部置けるわけじゃない、ということです。
読んだら次の本を要望して、替える、という形で次々読んでいますが・・・

筆記用具は最初は全く許されず、それから夜間は禁止になり(自殺などの防止のため)、その後終日許されるらしい。
そして紙の量も制限されているので、書きたいだけかけるというのでもないらしいです。

>そんな~!一体何して時間つぶすんですか~!?
せいぜいそんなところへ入らなくてもいいよう、悪いことはいたしません、と決心したくっちゃ寝でした(爆)

彼は「自分は悪いことはしてない」といってます。
それはかなり信じられます。

オリガは収容所で反省房に入れられたとき、ヨガをして過ごしたんですよね。
返信する
マスコミ (MARY)
2007-11-07 08:27:26
あまりきちんとニュースを読み込まないので、マスコミの操作のお得意さまになっているんだと思います。最近の医療報道(お産で救急車うんぬん等)でマスコミは「話題になる」ということを目安に記事にしてるなぁと実感してますので、これもそうだったんでしょうね。司法も踊らされてそうで・・・。

ちょうど昨日、刑務所や拘置所ってどんな時間の過ごし方をしてるんだろうって話をしてたんですよ(お茶の話題に何を出すやら)

それにしてもjesterさん、いつもながら掘り込まれてご自分の身にされてますね~。どれだけ引き出しがあるのやら。jester書店を開催してくだされ。
返信する
MARYさん、いらっしゃい♪ (jester)
2007-11-07 21:32:09
MARYさん、コメントありがとうございます♪

>あまりきちんとニュースを読み込まないので、マスコミの操作のお得意さまになっているんだと思います。

日本のマスコミってすごくヒステリックで、全部が同じ色になりますよね~
先祖が農耕民族だからかしら・・・
足並みそろえるのが得意です。
反対にDebateが不得意ですよね・・・すぐ感情的にかっかきて切れちゃう人が多いし。

>司法も踊らされてそうで・・・。

というか、国家によって動かされた司法がでっち上げた「国策捜査だ」と佐藤さんはいってます。

>ちょうど昨日、刑務所や拘置所ってどんな時間の過ごし方をしてるんだろうって話をしてたんですよ(お茶の話題に何を出すやら)

わ~~お茶の話題にそんなお話なんて楽しそうです!
だったらぜひ読んでみて~~
お正月にどう過ごすのか、どんなご馳走が出るのかまで載っています♪

>どれだけ引き出しがあるのやら。

どの引き出しも、あけると埃と猫の毛ばかりで、内容がともなってません・・・(涙
返信する

コメントを投稿