正岡子規というと、肺結核、脊椎カリエスという病魔に犯され、晩年は病床で創作を続け、34歳で亡くなった歌人・俳人・・・、ぐらいの知識しかないjesterでございますが、これはその一生を、
妹の律の目から描いた力強い小説。
兄いもうと
拷問のような病気の苦痛にのたうつ兄を看ながら、生きていて欲しい、でも苦しみは止めてあげたいと煩悶し、末には
『これから先もっとつらい状況になろうとも逃げはしない。極限まで耐えてみせると。兄一人には闘わせはしない。自分も共に戦い抜く。』(p291)と青い三日月に誓う律。
女は強いなあ・・・・and ・・・哀れである・・・・
ともすればもっと読みやすい、気軽な本に逃避傾向をもつわたくしですが、秋ともなれば、たまにはこういう「文学の底力」を感じさせてくれる作品を、じっくり読みたくなります。
去年、同著者が出版した「漱石の妻」は妻を描くことによって漱石像を描き出しているのですが、今年出たこの作品では妹の視点から子規を描き、「生きるということ」を真正面から捕らえた、女性の書き手ならではのしっとりした作品になっていると思います。
兄に憧れ、兄を慕って、ひたすら兄のために生きたような律の半生は、現代の女性が読むと疑問に感じる部分もあるかもしれません。
しかし初婚が16歳、そして夫の暴力で離婚、再婚するも再び離婚・・・と、当時の女性としては家の恥といわれるような苦しい状況になっても、自問を繰り返し、決して人のせいにしないひたむきさはあっぱれです。
最初は「この人、兄に依存しすぎでは?」とjesterも思って読んでましたが、後半、子規が起き上がれなくなってからの、二人の壮絶ともいえる闘病では、依存関係はある意味完全に逆転します。
彼女が悩みながらも果敢に子規を看取っていく姿に共感し、彼女がいなかったら「ホトトギス」もなかったかもしれないといえるほどだったことに感動しました。
そしてあふれる野望と才能を持ちながら、病魔に冒される子規の苦悩もつらいほど伝わってきます。
病床にあってもさまざまなことに好奇心を失わず、かなわぬ外出を夢見る子規。
あまりの肉体的・精神的苦痛から、妹にあたってしまい、お互いに苦しむさまも悲しい・・・。
モーツアルトにしろ、子規にしろ、あまりに若い、惜しまれる死でした・・・
(なぜ突然、モーツアルトが??? ←単に34とか5で死んだ、という連想からです
)
坂の上の雲〈1〉
正岡子規というと、この本でも登場します。
有名で、ファンの方も多いのではないかと思うのですが、「坂の上の雲」は激動の時代の若き青年たちの青春群像という感じでした。
この中で、律さんは高浜虚子が正岡家に行くと玄関に出迎えたり、ちらちらとですが登場してます。
でも「坂の上の雲」では、子規は前半(文庫本の3冊目の最初)で亡くなってしまいますよね。
「兄いもうと」では視点を変えて妹側から、身近で細やかな観察力に満ちた「子規像」が読めるのでとても新鮮です。出だしの、母子家庭に育ち、よりそう幼少の頃の「兄いもうと」二人の姿にも心を打たれます。
ところで余談ですが、この「坂の上の雲」、NHKの特別枠の大河ドラマになる話がありました。
けれども脚本家の死、さらに不祥事やらで「制作費1話4億円なんてとんでもない!」などなどと延び延びになっていたようですが、現在製作されているようですね。
このキャストですが、
正岡子規が香川照之、律は菅野美穂 がやるようです。
(他のキャスト 夏目漱石=小澤征悦、秋山真之=本木雅弘 、秋山好古=阿部寛、 などなど)
2009年の秋から放映予定。
うううう~~
子規を香川さん・・・・
「すざまじい」子規をやってくれそうだ・・・・・
本の中にあった、あ~~んな雄たけびや、あ~んなシーンを香川さんで脳内変換して、どきどき。
(香川照之さんは、気になる俳優さんです・・・)