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10月24日の京都新聞朝刊に,タイトルの見出しの記事が載った。同じ事件について裁判員裁判の模擬裁判が全国11の裁判体(東京4,高知,松山,奈良,大津,山形,大阪,京都)で行われたが,有罪が5(懲役5年が3,同6年が2),無罪が6であったという。
 事件は,42歳の被告人が,一緒に飲酒していた大工仲間の39歳の男性を,路上で踏みつけて死亡させた,という傷害致死被告事件であり,被告人は,記憶がハッキリしないが,死亡させるような暴行はしていないと否認した。
 検察側は,二人がほぼ一緒に行動していたこと,被害者のシャツについた足跡が被告人の靴の形と類似していること,被告人が事件後,知人に対し「蹴ったかもしれない」と話したことなどを主張し,弁護人は,二人が別行動した時間が約10分あること,足跡鑑定は類似というだけで信用性がないこと,被告人に動機がないことなどを主張したという。
 同じ事件を扱いながら,結論が二分したことについて,読者は裁判員裁判の信頼性について不安を感じられたかも知れない。
 しかし,今回の事案は,もともと結論が別れるように微妙な証拠構造に設定されていたものであるうえ,11の裁判体が同じ事件の審理に望んで評議をしたとはいっても,模擬裁判ですから,それぞれの審理毎に,配役の演じ方に微妙な差が出たことは避けられず,11の裁判体が「全く同じ証拠」に基づいて判断したとはいえないのです。したがって,11の裁判体で結論が二分したことは当然であると思います。
 むしろ,結論が別れてもおかしくない事件で,無罪が有罪を上回ったということから,裁判員裁判の評議が適切に行われたものといえ,積極的に評価したいと思います。 瑞月

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コメント
 
 
 
演技のせい? (jsds001)
2008-10-26 20:54:05
判決が二分というのはありうることだと思います。ただ「模擬裁判ですから,それぞれの審理毎に,配役の演じ方に微妙な差が出たことは避けられず,」というのはどうでしょうか? 11ケ所でそれぞれ実演があったとは思われず、同じビデオを見た上での模擬裁判ではなかったでしょうか?
 
 
 
実演しています (くまちん)
2008-10-30 22:06:49
誤解を放置しておくのも良くないと思うのでコメントします。
各地裁ごとに行っている模擬裁判は,題材こそ同じですが,各地の検察官・弁護士が実演しています。だから,配役の演じ方はもちろん,微妙なニュアンスの差等によっても,差は出てきうると思います。
もちろん,大きい裁判所では,ビデオに収録した審理を,いくつかの裁判体で評議しているところもあります。
 
 
 
Unknown (jsds001)
2008-11-01 16:48:05
まちんさま、ありがとうございました。

東京にいるせいか、模擬評議はビデオが題材に決まっていると思っておりました。検察官、弁護士が実演していることもあるとは知りませんでした。最高裁の裁判員サイトではいくつかビデオが見られます。私の見た模擬評議は2度ともそれが題材でした。私は聴覚障害者なので、昨年はビデオに字幕を入れるよう要請したこともあり、役に立ったと思っていたのですが、実演があるとなるとまた話が違ってきますね。聴覚障害者の参加のためには裁判速記者による全文電子速記しかないと思っておりますが、聴覚障害者の参加した模擬評議で実演があったら、もっと早くそういう意見が出てきたと思います。
 
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