日本裁判官ネットワークブログ
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  ◎は大満足、○満足、△まあ満足

  <>内の出演者はあえて一般的な知名度のある方に絞っています。あしからず

  ○Bunkamura「殺風景」(シアターコクーン)<西岡徳馬、大倉孝二、キムラ緑子、荻野目慶子、大和田美帆、江口のりこ>

   九州の炭鉱街で起きた殺人事件をモチーフとしたピカレスク的要素の作品と言って良いのだろうか。ただし、主人公自体の魅力と言うよりも、主人公家族の中の複雑な人間関係や各々のコンプレックスなどが入り交じって、いかに凶行に突入していったかを考えさせる作品。母親の缶蹴り必勝法のエピソードや父親を見初めるシーン(大和田美帆さんが熱演)など、それぞれの背負ってきた背景が丁寧に描かれる。「家族」に恵まれず、「家族」を求め続けた父親が、「家族」一体となって凶行に進みながら、決して自らが求めたような「家族」として機能してはいない悲しさ。職業柄「警察官がそんなにペラペラ外部の人間に捜査の手の内を話すかよ」「任意で引いてきた重大事件の被疑者を取調室に一人にするかよ」といった点が気になってしょうが無いが、劇としては十分楽しめる。

   劇中のクライマックスで「黒の舟歌」が印象的に使われる。昭和の炭鉱街で苦渋に満ちた生涯を送ってきた登場人物が、たまたま加害者と被害者になり、それぞれの背景を背負いながら同じ歌を歌うシーンは感動的だと思うのだが、まず歌に反応して笑う客席に違和感を覚え、更に大倉孝二さんが笑いを誘発するようなリアクションを取る(つまり演出意図としても客の笑いを期待している)ことに更に違和感を覚えて、「良い場面なのになあ」と残念に思った(雑誌「悲劇喜劇」掲載の脚本のト書きには、そのような演出はないのだが)。

  ○新国立劇場「テンペスト」(新国立劇場中劇場)<古谷一行、長谷川初範、田山涼成>

   「今年はシェイクスピアが多いなあ」と漠然と思っていたら、今年は生誕450年だそうである。そのシェイクスピアの単独執筆としては最後の作品とされる「テンペスト」。

   さんざんな目に遭わされて無人島に流された主人公は、復讐の機会を得ながらあえてそれをしない。「この地上のありとあらゆるものはやがて融け去り、あとには一筋の雲も残らない。我々は、夢と同じ糸で織り上げられている、ささやかな一生を締めくくるのは眠りなのだ」という主人公の台詞から、無常観に根ざした赦しの劇だと感じた。その「赦し」があればこそ、父以外の多数の人間を初めて目にした主人公の娘は「こんなにきれいなものがこんなにたくさん。人間はなんて美しいのだろう」とあまりにもピュアすぎるかのような台詞を吐くのだろう。

   白井晃さんの段ボール箱を舞台一杯に広げた演出は、主人公が過去の思い出の段ボールを開いたり片付けたりしているイメージのようだが、評価は分かれるだろう。

  ◎地人会新社「休暇」(赤坂レッドシアター)<永島敏行、加藤虎之介>

   病で死期の迫った妻、それを見守る表面的には良き夫、妻の前に現れた若者による対話劇。夫婦生活を長くやっている人は、夫婦で見るべき舞台でしょうね。後がどうなっても知りませんが。笑。ちなみに知人の独身男性は、「何だかよく分からなかった」そうだが、そりゃあそうでしょう。一度結婚してみなさい。この舞台の深みが分かるから。笑

   表面的には優しいが妻を真綿で締めるようにやんわり拘束する夫、そして何かが起こっても自らの体面やプライドを保つ方向で身を処しようとする夫。モノローグを録音するというカウンセリング手法もあって、今まで見つめることを避けていたそんな夫の「実像」に徐々に対面し始め、若者に心惹かれる妻、夫の柔らかな拘束を不満に思いながらも、それなりの自由を享受し、いざとなると夫の決断に身を委ねて己の責任を逃れる形を取る妻(離婚事件などでこういう方時々おられるのですよ)。最後に妻の台詞にようやく出てくる「休暇」という言葉の響きが、そこにたどり着くまでの道のりを背負って、切ない。

   加藤虎之介さんは、「ちりとてちん」の四草役で好きになり、言わば彼目当てに選んだ舞台だったので、どうしても四草のような斜に構えた役柄を期待してしまったが、むしろストレート過ぎて妻の思いを壊してしまう役であった。

  ◎劇団俳優座「七人の墓友」(紀伊國屋ホール)

    これは、私は見ておらず、妻が演劇鑑賞団体の役員として鑑賞した舞台。妻も飛行機の時間の都合で、どうしても途中までしか見られなかったのだが、それでも前半だけでもグイグイ引きつけられたそうだ。

    長年連れ添った妻が、同じ墓に入りたくないと言い始め、「墓友」に出会うという、それ自体はありがちな設定。台本を読んだ段階では、やや登場人物が多いのが気になったのだが、実際に舞台が始まると、すんなりと進行して、徐々に登場人物のキャラ付けがされていって、非常に入り込みやすい舞台だったそうだ。

    舞台装置もシンプルで、背景はサンドアートで描かれるというおしゃれなものだったそうだ。

    この作品は、劇団俳優座創立70周年記念作品なのだが、脚本は鈴木聡さんという小劇場系の劇団「ラッパ屋」を率いている方であるところも感慨深いものがある。

                                                        以 上



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