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「キャインキャイン亭主論」

2014年01月18日 | ムサシ

1 先頃古希近き夫婦の深刻な離婚事件を妻の側から依頼され,協議離婚して無事解決し,和解契約も成立したが,一時はどうなるか見当もつかないような難件であり,解決してホっとした。どのような事件であるかは書かない。ただ私が事件を通じて感じたり,考えたことだけを書いておきたいと強く思ったのである。
2 本当は離婚してほしくない事件であった。高学歴の夫婦であり,離婚の形で解決するのは余りにも惜しいと思えた。何とか元に戻ることはできないものか。妻にどうしても離婚しかないのかと何度も聞いたが,妻の答は微動だにしなかった。なぜか。それは妻が夫の仕打ちに長年耐えてきて,もうこれ以上耐えられない限界に達していたからである。夫の仕打ちは一体どのようなことであったのか。それも具体的には書かない。ただ夫は暴力を振るった訳でも,不貞をした訳でもないが,家庭内で余りにも偉すぎて,しばしば妻子をクドクドと説教したということにしておきたい。
3 「亭主元気で留守がいい」とよく言われる。このケースはこの極端な場面であろうか。家庭内で夫が余りにも偉すぎるのはよくない。一体理想の亭主・父親像とはどのようなものなのであろうか。私はこの件で真剣に考えさせられたということになる。
4 いろいろと考えた結論は,「亭主元気でアホがいい」ということであった。もとより人生を真面目に,勉強も頑張って生きてきて,本も沢山読み,考えも深い人間であることが望ましいことは当然のことである。しかし家庭の中では,それは奧深くしまっておくのがよいのではないか。「能ある鷹は爪を隠す」のであり,妻子はそれを知っており,夫であり父を心の中で尊敬している。しかし家庭内は全て妻が,幸せそうに自信をもって取り仕切っており,夫はいつもニコニコして妻の尻に敷かれている(振りをする)のである。物知りで気さくで話は面白く,しばしばアホくさい冗談もいう。「ひょっとするとこの人は本当にアホではないか」と,時に妻からも子供たちからも思われる。そして好かれている。しかし時にチラリと見識の深さを見せて,何か困ったことが起きればとても頼りになる。余り怒らないし,よほどのことがなければ本気では怒らない。クドクもない。小さなことではしばしば妻に叱られて,すぐに謝ってしまう。まるでオイタを叱られて「キャインキャイン」と尻尾を巻いて鳴く子犬のように。
5 これが理想の亭主・父親像ではあるまいか。名付けて「キャインキャイン亭主」であり,「キャインキャイン亭主論」である。最近の私が目指す亭主像でもある。
6 その事件の夫は,私の友人という訳でも,個人的に親しい訳でも,話をしたことがある訳でもない。しかし訳があって全く知らない仲でもない。私はいつか二人で飲酒しご馳走してあげたいと思っている。それが実現できる日が来るかどうかは分からない。偉そうに彼に説教をするつもりは全くない。しかしとても素敵な奥さんで,離婚の原因は全て彼にあったと私には思えるし,それを彼に分からせてやりたいとしきりに思う。事件が解決する前にも,直接会って話してみようかという衝動もあったが,諦めた。今もなお時期尚早のように思える。しかし諦めてしまった訳でもない。そのようなことは私の得意とするところである。いつか彼に「キャインキャイン亭主論」をぶつけてみたいとしきりに思うのである。それが分かるような男であれば,このたびのような離婚事件は生じなかっただろう。そして時を経てその機会ができて,彼がその議論を納得する時が来るとしても,時既に遅しということになるような気がする。(ムサシ)