日本裁判官ネットワークブログ
日本裁判官ネットワークのブログです。
ホームページhttp://www.j-j-n.com/も御覧下さい。
 



1 2週間前に,産休中の事務員が無事出産した。嬉しいことである。無事に生まれるだろうとは思っていたが,生まれるまでは心配した。私たち夫婦と事務員2人の4人でお見舞いと称して赤ちゃんを見に行った。二重瞼風の可愛い女の子で,もう髪の毛が黒く,指がスラッとしている。順番にみんなで抱っこをさせてもらった。ふざけて「おじいちゃんですよ。」と言うと,その事務員が笑いながら,「3人目のおじいちゃんですね。」と言った。もう20年以上も前に,わが子2人を抱いた記憶がかすかに蘇った。この子を預ける乳児保育園は,事務所から50メートルの所にあり,とても便利である。1年もしないうちに,この子が笑い声をあげながら,わが事務所をヨチヨチ歩き回っているに違いない。

2 彼女が勤務していた法律事務所の元裁判官であった弁護士が,定期の健康診断でガンであることが判明し,別の事務所で客員弁護士的立場にいた私が,応援のためにその事務所に移転し,彼女と知り合ったものである。その後半年余りでその弁護士が逝去され,私は彼女と2人でいろいろと大変な思いをした。事件に関しては彼女の方が詳しいことも多く,きっと彼女の方が精神的に大変だったと思う。

3 その後,近くに新しい事務所ビルが建築されたので,そこに移転し,妻の帰郷に備えた。しかし事務員は彼女1人のままで経過した。彼女の仕事は大変であったと思うが,還暦近くまで裁判官であった私が,事務員を2人に増やす余力はなく,彼女の苦労の日々が続いたのである。

4 昨年3月末に,待望していた5年間の仕事上の別居が解消し,妻が裁判官を退職して帰郷した。弁護士登録の審査が少し遅れ,妻は最初の4か月間は専業として法科大学院の教授を,5か月目からは弁護士登録もできて,超多忙になった。この時点で初めて本気で事務員の増員を考えることになったのである。

5 そして昨年9月中旬ころ,大学法学部の学生で,ほぼ卒業に必要な単位を取得済みで,卒業後は法律事務所に勤務することを希望している女子学生が見つかった。そして卒業まではアルバイトとして,卒業後は正規事務員として働いてもらうことが決まった。このたびお母さんになった事務員は,おそらくこれまで自分が頑張らねばと張りつめた気持ちでいたに違いないが,ホッとしたと思われる。それから間もなく彼女が妊娠した。妻から,彼女はこれまで妊娠したくても妊娠するわけにはいかなかったのではないか,それは私のせいであると非難され,私も率直にそれを認めた。

6 法律事務所の女性事務員は,妊娠して出産が近くなると退職することになる例が多いようである。身分保障が不十分なのである。このたび主として妻が,女性事務員が出産して退職しなければならないのであれば,その立場は甚だ不安定で,女性がもっと安心して働ける職場でなければならないという持論を展開した。私も同感であったために,彼女との雇用契約は継続し,産休後復帰することになった。社会保険労務士にも相談して,各種社会保険等への加入手続きを取った。産休期間中の給与も一定割合が保障されることになる。

7 彼女の産休中に事務員が1人では仕事が処理できないので,事務員をもう1人増やすことになった。幸い同じ法律事務所で彼女の前任者であった女性が,出産と子育てが一段落し,仕事を探していることが判明して,タイミングよく来てくれることになった。

8 かくして,わが事務所には産休中の事務員の他に2人の事務員がいることになった。働きやすい職場にするためには,われわれ夫婦が頑張って経済的に安定した基盤を確立することが不可欠であり,これからが正念場ということになるだろう。頑張らねばならない。

9 そうしているうちに,結婚している共働きの長女の妊娠の報告が届いた。いよいよ本物の「おじいちゃん」になることになった。この夏は飼い猫の死という悲しい出来事もあったが,嬉しいことも続いている。人生とはそういうものなのであろう。(ムサシ)


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )