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 新米弁護士が事務処理に追われ,担当日より1日遅れました。

 前回報告しました模擬裁判の問題点についてもう少し詳しく書いてみます。
 事件は,知人と飲み歩いていた被告人が飲みつぶれた知人を車に乗せようとしたものの,なかなか言うことを聞かないので腹を強く踏みつけて死亡させた,という傷害致死の起訴でした。

 検察官は,被害者のTシャツに被告人のサンダルの底面と類似する跡がついていたこと,被告人が知人の体調がおかしいと気づいてから救急車を呼ぶなどの措置をとらなかったこと,駆けつけた被告人の従業員に酔って覚えていないが蹴ったかもしれないと告白したことなどを間接事実として主張しました。

 これに対して,弁護側は,サンダル痕はつま先部分のみの類似で,被告人のサンダルと特定することは困難なこと,仮に被告人のサンダルとしても車内で被害者に
素人の心臓マッサージや人工呼吸をした際に付着した可能性が否定できないこと,救急車を呼ばなかったのは,飲酒運転の発覚をおそれたためであり,その代わりに前記従業員とともに病院に搬送していること,蹴ったかもしれないとの発言は被告人も相当酔っていたため,記憶がないものの,自分が何かしたかもしれないと自責の念で述べた言葉にすぎないこと,被告人は高度の酩酊状態で記憶がないことに矛盾はないこと,なによりも被告人に粗暴犯を含め前科は全くなく,親しい知人にいきなり強烈な暴行を加える動機がないことなど,をそれぞれ主張立証しました。

 評議では,当初検察・弁護の主張に揺れ動く様相でしたが,ある裁判員が,そもそも車に乗せる時点で知人の異常に気づくはずで,その際被告人が特段の措置をとらなかったのは疑問ではないか,との指摘が出ておおかたの賛同を得た,という経過でした。

 この検察官も指摘していない間接事実により結論が左右されるとすると,弁護側は,検察官の主張を超えていろいろ予想して防御することになり,公判前の争点整理手続きが無意味になるのではないか,と感じました。
 
 このようなことを防ぐには,評議の対象となる間接事実,評議の順序などを公判終了時点で法曹三者が確認する公判後整理手続きの運用が必要ではないかと思っている次第です。
                       いまだに釈然としない「花」

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