日本裁判官ネットワークブログ

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1日遅れのブログです。

2009年03月18日 | 
 新米弁護士が事務処理に追われ,担当日より1日遅れました。

 前回報告しました模擬裁判の問題点についてもう少し詳しく書いてみます。
 事件は,知人と飲み歩いていた被告人が飲みつぶれた知人を車に乗せようとしたものの,なかなか言うことを聞かないので腹を強く踏みつけて死亡させた,という傷害致死の起訴でした。

 検察官は,被害者のTシャツに被告人のサンダルの底面と類似する跡がついていたこと,被告人が知人の体調がおかしいと気づいてから救急車を呼ぶなどの措置をとらなかったこと,駆けつけた被告人の従業員に酔って覚えていないが蹴ったかもしれないと告白したことなどを間接事実として主張しました。

 これに対して,弁護側は,サンダル痕はつま先部分のみの類似で,被告人のサンダルと特定することは困難なこと,仮に被告人のサンダルとしても車内で被害者に
素人の心臓マッサージや人工呼吸をした際に付着した可能性が否定できないこと,救急車を呼ばなかったのは,飲酒運転の発覚をおそれたためであり,その代わりに前記従業員とともに病院に搬送していること,蹴ったかもしれないとの発言は被告人も相当酔っていたため,記憶がないものの,自分が何かしたかもしれないと自責の念で述べた言葉にすぎないこと,被告人は高度の酩酊状態で記憶がないことに矛盾はないこと,なによりも被告人に粗暴犯を含め前科は全くなく,親しい知人にいきなり強烈な暴行を加える動機がないことなど,をそれぞれ主張立証しました。

 評議では,当初検察・弁護の主張に揺れ動く様相でしたが,ある裁判員が,そもそも車に乗せる時点で知人の異常に気づくはずで,その際被告人が特段の措置をとらなかったのは疑問ではないか,との指摘が出ておおかたの賛同を得た,という経過でした。

 この検察官も指摘していない間接事実により結論が左右されるとすると,弁護側は,検察官の主張を超えていろいろ予想して防御することになり,公判前の争点整理手続きが無意味になるのではないか,と感じました。
 
 このようなことを防ぐには,評議の対象となる間接事実,評議の順序などを公判終了時点で法曹三者が確認する公判後整理手続きの運用が必要ではないかと思っている次第です。
                       いまだに釈然としない「花」

5 コメント

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普通のことでは? (山と川)
2009-03-20 14:08:51
田舎で弁護士をしています。

これまでも,裁判官が検察官も主張していない事実を認定したり,論理を補ったりした有罪判決に何度も出会いました。

「花」さんのご指摘は,裁判員裁判に限った問題ではないと思います。
無罪推定に忠実な裁判官がいるのかどうかさえ疑わしいと感じています。
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山と川さんに同感です。 (クライシス)
2009-03-21 00:31:41
私は弁護士ではありません。立場の詳細は書きませんが。
裁判官が検察官も主張していない事実を認定したり,論理を補ったりすることは、全然珍しくないと、私も思います。
日本は法治国家ではなく、人治国家であり、判決は法律云々よりも裁判官の胸先三寸にかかっている、と頻繁に感じています。
無罪推定などという言葉は全く裁判官の辞書にないとしか思えません。証拠らしい証拠もなく有罪にされていくのをいくつも目にしてきました。裁判官のご機嫌次第というか、最初から結論を決めて裁判をしている印象を受けます。冷静に考えると、とても恐ろしい話です。

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疑問... (Level3)
2009-03-22 10:53:08
>蹴ったかもしれないとの発言は被告人も相当酔っていたため,記憶がないものの,

というような被告の状況であれば,

>そもそも車に乗せる時点で知人の異常に気づくはず

という論理は破綻しているとは思われないでしょうか?
この「...はず」は「酔っぱらっていた」という前提を無視したものでしょう...
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記録を見ないと良くわからないのですが (峰村健司)
2009-03-22 11:50:14
Level3さん

花さんの要約のみからでは、はっきりしたことは言えないと思います。ただ、

「飲みつぶれた知人を車に乗せようとしたものの,な か な か 言 う こ と を 聞 か な い」という部分からは、被告人と知人とにコミュニケーションを取れていた(→被害者に酩酊以外の何らかの異常があったとは素人目には認められなかった)のではないか、とは感じさせられます。そう考えると、「論理が破綻している」とまでは言えないかな、とも思います。

司法解剖の結果は、外傷性の失血死なんでしょうかね。車に乗せてから事態が急変して、あとは弁護側の主張の通りであったという可能性も十分考えられる気もします。

ところで、「論点として攻防の機会が与えられていれば一応の納得が行くのか」というと、山と川さんやクライシスさんのコメントを見ると、「それ以前に問題が山積み」と考える法律家の方もいらっしゃるようですし、いやいや難しいですね。

事後の物事の判断に限界がある以上、人治であっても精密司法であっても、納得が行かずとも専門家の判断として最後には受け入れざるを得ないわけで、医療行為と大差ないものだな、と思うところです。
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評議のルール,ひいては--- (くまちん)
2009-03-22 15:36:43
これでは何のための公判前整理か分からないという「花」さんの御主張はその通りです。評議のあり方が検察側主張を吟味する形で進められたかという視点で検証される必要はあるでしょう。
しかし,一方で,日弁連の裁判員ドラマや漫画では,ボンクラ弁護人が見過ごした事実を発見した優秀な裁判員が大活躍するのがおきまりのパターンです。もちろん,無罪方向と有罪方向では違うのだという立論は可能ですが,素朴な市民感情として,「『私の視点・感覚』で参加しろと言っておいて,何故無罪方向にしか視点・感覚を発揮しちゃいけないのか」ということを,市民にきちんと説明できるのか,弁護士会の力量も問われている気がします。
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