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美味なる「カワウソの味」を求めて北海道へ(かわうそ一人旅・3)

2020-01-11 | アイヌ民族関連
ライブドア 2020年1月10日 20時0分 DANRO
カワウソが好きだ。もうさんざん書いてきたので我ながらいい加減しつこいと思うが、好きなものは仕方ない。
そんなカワウソ好きの私の頭から、ずっと離れないものがある。それは野田サトルのマンガ『ゴールデンカムイ』(集英社)の、とあるエピソードだ。
時代は明治末期。強く美しく利発なアイヌの少女・アシリパさんと、203高地の戦いを生き抜いた、元兵士の杉元。2人は金塊を求めて北海道や樺太を渡り歩く。その間、敵と味方が入り乱れて……というストーリーなのだが、この2人、とにかく食べまくる。彼女らが魚や森の動物、野草などで作るアイヌ料理を見ていると、冒険活劇なのかグルメマンガなのかわからなくなる。が、自然とともに生きるアイヌの人たちの、豊かな食を知ることができる貴重な作品なのだ。
ある時カワウソを捕まえたアシリパさんは、「頭の後ろの骨が薄いので、ここを割って脳みそをほじくり出して食べる」「塩をかけて食うとうまいんだ」と語る。さらにカワウソの頭を丸ごと煮込んだ料理は、非常に美味とされ頻繁に食べられていたことにも触れている。
この描写だけではわからない「非常に美味なカワウソ味」が、どんな味なのか気になって気になって仕方がなかったのだ。
君のカワウソを食べたい。しかし二ホンカワウソはすでに絶滅したとされているし、ワシントン条約にリスト入りしているコツメやユーラシアを食べようとはこれっぽっちも思わない。さっきは食べたいと書いたが、実は今は食べたくはない。ただ、知りたいのだ。
北海道のカワウソは1950年代に絶滅
北海道に行けば何かわかるかもしれない。そこで全くの無計画ながら、北海道に行くことにした。
最初に目指したのは、札幌駅にほど近い北海道大学植物園だ。施設の中に北方民族資料館があるため、手がかりが見つかるのではないかと思ったからだ。そして博物館本館も、ぜひ訪れたいと思っていた。
この博物館本館には、北海道に現存するものから、エゾオオカミやニホンカワウソなど絶滅してしまった動物の剥製が展示されている。そして『ゴールデンカムイ』の読者ならピンとくるはずだが、狂気に満ちた剥製職人・江渡貝弥作の住まいのモデルでもある。カワウソ調査とロケ地巡礼が同時に叶うのだから、行かない選択肢はない。
博物館本館は明治15年竣工。案内板によると、アメリカのベートマンという人が設計したそう
札幌駅から北海道大学植物園までは、10分も歩けば到着する。ホームページによると広さは13.3ヘクタールあるようだが、北方民族資料館はエントランスのすぐ横にあるので、すぐに見つかった。
北方民族資料館にはアイヌを中心に、北方民族がまとった衣装や狩猟用具、楽器などが展示されていた。コンパクトながらも見ごたえは十分にあり、とくにクマ送り(イオマンテ)の記録映像には、目が釘付けになってしまった。しかしながらカワウソに関する展示はなかった。残念。
次に向かった博物館本館ではテンやイイズナ、オコジョなど他のイタチ科の動物とは別の場所にカワウソの剥製がうやうやしく展示されていた。韓国編で登場したインググやナヨンたちと、同じぐらいの大きさだろうか。
案内パネルには「ユーラシアに広く分布し、北海道に生息していたものと本州以南に生息していたものは別の亜種とされている」とあった。さらに「北海道では1950年代に絶滅し、本州でも近年絶滅したものとみなされているため、その関係については明らかになっていない」とも書かれていた。どちらも同じニホンカワウソだけど、それぞれ亜種なのか。
カワウソの味を探しに網走まで行ってみた
学びは得られたけれど、残念ながら味はわからない。アイヌの文化について資料が揃っているところに行けば、手掛かりがあるかも……? しかし白老町の国立アイヌ民族博物館は2020年4月まで改築中なので、行くなら網走の北海道立北方民族博物館しかない。網走には『ゴールデンカムイ』の重要なスポットである博物館の網走監獄もあるので、カワウソ調査とロケ地巡りができそうだ。
いずれも地図上では近くにあるので、バスを使えば効率よく周れるかも……。確認のため、網走近郊にUターン転職した友人Oに「網走監獄と北方民族博物館って1日あればバスで行ける?」とメッセージを送った。すると
「待て、それをバスで移動するには意外と距離もあるし、何より本数が少ない。北海道の広さをわかっているのか」
的な返信が、JR新千歳空港駅に展示されている、北海道と本州を重ね合わせたフォトスポットの画像とともに送られてきた。わあ、襟裳岬から根室って沼津から鉾田を越えて、太平洋に出るレベルの遠さだよ! そして直線距離だと近いように見えるものの、網走監獄と北方民族博物館は3キロ以上離れていて、高低差があることもわかった。完全に北海道をなめていた……。
すると見るに見かねたのか、Oが車で女満別空港まで迎えに来てくれることになった。またひとり旅ではなくなってしまったが、もはややむを得まい。
「ここに白石(『ゴールデンカムイ』のキャラクター。脱獄王)が?」などとひとり心の中でつぶやきながら、Oとともに網走監獄を見学したのち、北方民族博物館に到着した。
同博物館ではアイヌ文化だけではなく、ウィルタやサーミ、イヌイットといったロシアや北欧、グリーンランドまでの北方民族の文化を紹介している。魚皮やアザラシの腸で作られた衣服やモノづくり用の道具など、興味深いものが多数展示されているが、中でも呪術用護符など、それぞれのシャーマニズムが感じられるものは圧倒的な見ごたえだった。しかしカワウソに関する展示は……なかった。
カワウソの夢は悪夢
これはもう『ゴールデンカムイ』の巻末で紹介されている、アイヌに関する資料に当たるしかない。Oと別れて東京に戻り、千代田区の国会図書館に向かった。まさに灯台下暗しだ。
まずは農文協から出版されている『聞き書 アイヌの食事』を手に取る。アイヌの人々が自然をいつくしみながら、必要な分だけ頂いていたことや、炉を囲んで家族が揃って、「ヒンナ、ヒンナ」と言いながら食事をしていたことがわかった。アシリパさんは「ヒンナヒンナ」を「おいしい」の意味で使っていたが、同書によれば「いただきます」「ごちそうさま」に当たる感謝の言葉なのだとか。が、やはりカワウソの味については記載がなかった。
次はアイヌ文化研究者の更科源蔵が、1968年に出版した『アイヌ―歴史と民俗』(社会思想社)を読んでみる。索引の「カワウソ」の項を頼りにページをめくると
神謡の中で、人間の漁った魚を盗んだ狐とかわうそが、木もなく鳥も棲んでいない陽の沈む国に追われ、その報復として人間界に病魔を送って、を全滅させた
カワウソの夢は悪夢である
など、ネガティブな記述ばかりが出てきた。えーっ。かわいいのにかわいくない。
カワウソはアイヌ語で「エサマン」と言うが、エサマンカムイ(獺神)、ソーコロカムイ(滝の神)、ウオルンチロンノプ(水にいる獣)などとも呼ばれるとあった。カワウソって神なの? そして「エサマン」の語源はカワウソの頭骨をト占(ぼくせん)に使うことからきていて、原義は「エ・サ・マン・キ」(巫術をするの意味)であったことを、『呪師とカワウソ』という論文を引用しながら説明していた。
タイトルだけで萌える『呪師とカワウソ』はアイヌ語研究者の知里真志保による論文で、昭和27年北海道大学が発行した、『北方文化研究報告』に収められていた。
アイヌの信仰でカワウソは、コタンカルカムイ(アイヌの神)の使者だが、すこぶる忘れっぽい者だったそうだ。これはカワウソの語源からも察することができるように、巫術での放心状態と無関係ではあるまいと知里氏は考察している。
ではどれぐらい忘れっぽかったのか。コタンカルカムイが人間の「あそこ」をどこに着けるか迷った際、カワウソを天の神の信者にしたが、この時天の神は「カワウソという奴はひどく忘れっぽいから、ありのままに言えばあべこべに伝えるだろう」と考え、「前頭部に置くに限るよ」と言った。それをカワウソはけろりと忘れて「股間に置くに限ると申されました」と言い、コタンカルカムイは「いかにも!」と思い、その通りに人間を作った(胆振國幌別村の伝承)ことに触れているほどだ。もしカワウソが記憶力抜群だったら、我々の局部は一体どうなっていたのか! そして知里氏は
胆振の幌別では、カワウソの頭を煮たのはすこぶる賞味されたが、それを食う際は、あらかじめ山行きの支度をととのえて――鉢巻をし、山刀を腰に帯び、荷縄を背負い、槍を傍らにひきつけて、それから食うのが習いであった。そうしなければ、必ずなにか大事なものを忘れて山にいってからまごつくものだという。
と書いている。なんと! カワウソを食べる際には鉢巻や槍などが必要だったのだ。そりゃ普段着のままじゃ、味の記録にすら辿り着けないはずだよ。それにおそらく食べた人達は皆、味を忘れちゃったんだろうなあ……。妙に納得してしまい、ここですべての本を閉じた。
いつか二ホンカワウソが復活して、東京でも普通に見られるほど個体数が増えたら、槍や山刀を携えてカワウソを食したいと思う。そんな日が来ればいいなあと思いながら、今回はこれにて終了。
https://news.livedoor.com/article/detail/17647215/
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