政治プレミア2023年9月28日
安田菜津紀・フォトジャーナリスト
※差別の現状をお伝えするために、差別文言を記載している箇所がありますのでご注意ください。
◇ ◇ ◇
「しっかりその内容を受け止めて、今後の政治活動の参考にしてもらいたい」
なんとも悠長な発言だ。杉田水脈議員の過去の書き込みが札幌法務局によって人権侵犯と認定されたことについての、自民党・安倍派、塩谷立座長のコメントだ。「今後も」ということはつまり、杉田氏は問題なく自民党議員として「続投」ということだ。
事の経緯はこうだ。2016年に開催された国連女性差別撤廃委員会の後、杉田氏は自身のブログなどに、「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場」「同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなる」などと投稿していた。
投稿について、会議に参加していたアイヌの女性が、今年3月、札幌法務局に人権救済を求める申し立てを行った。9月7日付で札幌法務局は、「人権侵犯の事実があった」と認定し、杉田氏にアイヌ文化を学び、発言に注意するよう啓発を行ったという。
杉田氏によるマイノリティーへ矛先を向けた差別発言は、ここには書ききれないほど指摘されてきた。こうも続くと「またこの人か」と投げ出したくなるが、放置すれば「追認」したことになってしまう。だからこそ何度でも振り返り、何度でも問題提起をしなければならないだろう。
15年6月、「(性的マイノリティーの子どもの)自殺率が6倍高い」ことを、「チャンネル桜」の番組で笑いながら語り、新潮45(18年8月号)に、同性カップルを念頭にして「生産性がない」と寄稿した。20年9月、自民党の部会の合同会議では、女性への性暴力などに関して、「女性はいくらでもうそをつけますから」と発言している。
性被害を訴えてきたジャーナリストの伊藤詩織さんの名誉を棄損するイラストを投稿したとして、漫画家のはすみとしこ氏に110万円の賠償を命じる判決が9月14日付で確定したが、杉田氏は過去、はすみ氏のそうしたイラストを見ながら、ネット番組でやはり、笑っていた。
また、歴史認識についての言動抜きに、杉田氏の問題を語ることはできないだろう。「『歴史戦』はオンナの闘い」(PHP研究所)では、杉田氏はこう発言している。
「アメリカもそうですが、慰安婦像を何個建ててもそこが爆破されるとなったら、もうそれ以上、建てようとは思わない。建つたびに、一つひとつ爆破すればいい」
また、あの16年の国連女性差別撤廃委員会に際し、慰安婦問題についてさまざまな発信を現地で行っていたことをブログで報告している。
先述の札幌法務局の認定について、松野博一官房長官は記者会見で、「個別事案についてはコメントを控える」としたうえで、「アイヌの人々に対し、アイヌであることを理由として差別することはあってはならない」と一般論に終始した。まるで他人事だ。これまで杉田氏の差別やヘイトに「お墨付き」を与えてきた当事者が誰であるのかを全く理解していないのだろうか。
岸田文雄首相は昨年、杉田氏を総務政務官に起用して非難を浴びた。そしてなぜか、国会が閉じ、話題になりにくいであろう年末に、「しれっと」交代させている。
ヘイトや差別を何度指摘されても繰り返す人物を政権の要職に起用することは、差別問題など考慮するに値しない、という負のメッセージとして社会に伝わっただろう。もっといえば、その差別やヘイトの矛先を向けられている人々の命を、「二の次」扱いするようなものだ。
そもそも杉田氏は選挙において、衆院比例中国ブロック名簿の上位に据えられてきた。どんな発言であっても、「口頭注意」など、曖昧な対処しかしてこなかった、自民党としての責任も問われ続けている。
岸田首相は国連総会で、「人間の尊厳に光を」と立派な言葉で演説をしていたが、足元で光を奪われ続けている人々がいること、その光を奪い続けているのが自民党の国会議員であるという事態に、一刻も早く対応すべきだ。これは、命に関わる問題なのだから。
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20230927/pol/00m/010/001000c